パパは今日も元気ですbyデズロ☆マチスカ帝国
天の声
「ううう〜寒い。寒いエルハド! 抱っこ!」
「二つの苦情と要求を同時に言うのは止めてくれないか? あと、お前いい加減自分の歳を真剣に把握しろ。抱っことはなんだ、抱っことは!」
彼等は現在この大陸で最も寒いと言われている氷河国マチスカに入国していた。
まずは、話を進める前に彼等の事を少しだけ説明しよう。
まず、先程から歳もそれほど変わらない男に駄々を捏ねられ呆れた声を出したこの男。
彼の名はエルハド・レインハート。
現在サウジスカル国を治めているセルシス・レインハートの実の父親であり、サウジスカルの前皇帝陛下であった者だ。
彼は精霊であったシェルミンテを守る一族であり、彼女に愛され続け加護を受けていた。
そして現在もなお、サウジスカルの精霊を守る役割を引き継いでいる。彼等はその事実をまだよく分かってはいないが。
本来皇族の人間は無闇に外に出たりはしない。
他国を良く思っていない者や侵略したいと考える者に捕らわれ利用される可能性が高いからだ。
彼も例外では無い。無いのだが・・・。
「まぁ。魔獣狩りも飽きてきた。そろそろ先に進むか?」
「遅い! 狩りを思い切り楽しまないでくれるかな? 本来の目的を忘れてるんじゃない? 僕もう凍えそうだよ!」
エルハドは恐らくこの地で一番強い剣士である。
今現在、彼は地上最強の剣の強さを誇っており、それは現在誰にも塗りかえる事は出来ていない。
ただ、その事を知る人間は実はとても少なかった。
彼は若くして皇帝の座についた為、実際戦った者が少ないのだ。真の強さを知っているのはサウジスカルの人間とカスバール、オスカールの一部の人間だけだろう。
そして、彼は現在48歳にして護衛もなく、こんな遠くの国まで旅をしに来た。もう一つの爆弾を抱えて。
「分かった分かった。こっちに来い。とにかく何処か暖の取れる場所を探そう」
「エルハドも冷え冷えじゃない。これじゃ暖どころか僕も冷えちゃう! エイ!」
先程から子供の様な駄々を捏ねているこの男は名をデズロ・マスカーシャと言う。
彼は、サンチコアで暮らすティファ・ゼクトリアムの実の父親である。
彼は手荷物からランタンを取り出すと、そこに火をつけそれを抱えた。するとみるみる二人の周りが暖かくなった。
このランタンはデズロが作った魔導器具である。
彼はエルハドとは子供の頃からの幼馴染であり、そして、サウジスカル最強魔術師という称号を持っている。
デズロの魔力はとても多い。
そして、彼の扱う魔法はとても強かった。
しかし、デズロは実は元々からサウジスカルにいた訳ではない。彼はカスバールで生まれ親に売られた所から逃げ出し、幼い体で商売をしていた頃、エルハドに助けられた。
実際は助けられたというよりは、エルハドがデズロに助けを求めに来たのだが、その話はまた今度話す事にしよう。そんな訳で、彼等の経緯はとても複雑なのである。
今はお互いの問題も無事解決し、彼等は自分の子供達の未来の為、最北の凍える国にやって来ていた。
「なんだ。暖かく出来るのなら最初からそれを抱えていれば良かったのではないのか?」
「・・・エルハドは僕の心情を理解する努力をもう少しした方がいいよね? 全部口で言わないと分からないのかな? エルハドの頭は飾りなのかな?」
「今すぐ地面に落としていいか? 湧き上がる殺意が止まらない」
そう言いながらもデズロを抱えなおしたエルハドに、デズロは満面の笑みで応える。
この二人のやり取りは昔から変わらることなく続く恒例行事と化している。サウジスカルでは、もう誰もこの二人のやり取りを気にすることはないし、突っ込まない。
しかし、他国では違うだろう。
「お母さん。あの人達男同士なのに抱き合ってるよ?」
「違うわよ。アレは抱えているのよ? きっと、何処か怪我でもして抱えているのではないかしら?」
「「・・・・・・」」
通りすがり人の当然な反応に、しかし二人は驚いた。
自分達がする事にこんな反応が返って来るのが新鮮でならない。デズロは、少々いたずら心に火がついた。
「エルハド。もっと強く抱きしめないと・・・僕達、愛し合ってるんだから」
「すまん。落とすのでは生温かった。あの山目掛けてぶん投げていいか?」
「酷いなぁ〜エルハド。もしそんな事したら僕そのままどっかに行っちゃうからね? エルハド置いてっちゃうからね? 僕は動きが素早いから捕まえるのは苦労すると思うよ? だったらちゃんと捕獲しておかないとね?」
「お前の前世はムササビか何かなのか? 冗談はさておき、もう少し歩いたら街に着く。そこからは自分で歩け」
彼等がこの国に入国したのは、デズロの娘ティファの側にいる竜の子供の情報を集める為と、いう名目だった。
だった筈、なのだが。
彼等は果たして、それをちゃんと覚えているのだろうか?
「マチスカの首都なんて僕始めて来るなぁ! 楽しみ過ぎてドキドキが止まらないよね?」
「私もこの国に入国するのは初めてだ。そもそも国交が殆ど無いからな。エドロン国は多少あるようだが・・・どう思う?」
「さぁ? この国は他の国と比べるとかなり小さい国だからね。でも、見た限りこの国の精霊は問題なくこの国を守っているから、単純に消極的なだけなのかもね?」
「だと、良いがな」
「まぁそれは、どっちでもいいよ。僕はマチスカ国を満喫出来れば満足だからね? ただこの寒さはキツイよね。街に入ったら宿屋を確保しないと。野宿なんて無理だよコレ」
遊ぶ気満々のデズロとそれに付き合う気満々のエルハドは遠くに見える街を目指し歩を進めて行く。
実はこの二人思った以上に目立っていたのだが、本人達が気にしていないのでまぁ、良いのだろう。
「あの二人、どう見ても同じ歳の男同士だよな? 何故成人男性をあんな抱き抱え方してるんだ? 重くないのか?」
重い重くない以前の問題である。
しかし、あの二人に真っ当な指摘は無駄である。
常識が通用しない。
この二人は、かなり変わっている。