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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夢の話・・

作者: サリー

ーーカラン、カランーーー


「いらっしゃい、今日は混んでてカウンターしか空いてないのよ。ごめんなさいね」

そういって、喫茶店の店長にカウンターの席を勧められる。

なるべく人と隣合わない席を選んで少し背が高い椅子に腰を下ろした。


この店はいつ来ても混んでるな。


古びた小汚い喫茶店であり、料理が提供されるまでに時間がかかるが

出される料理はすべて一級品。

美味しくないと感じるものが出てきたことは一度もない。


ーーカラン、カランーーー

また、新しい客だ。


「あら、いらっしゃい、この時間に珍しいわねぇ。今日は混んでるからカウンターでお願いね」

古くからの常連らしい客が私の隣に座ってきた。


せっかく隣合わないように座ったのに....すぐにご飯を食べて帰ろう。

私は、ランチを注文し、すぐにスマホをいじり始めた。


「ねぇ、あなたご飯が届くまでにお話しない?ここは料理がでてくるのが遅いから」

「ねぇ、あなたよ、あなた」


私が顔をあげると隣に座った女が私を見て話かけていた。

「はぁ〜」


隣の女はこちらに少し詰め寄り、返事を待つことなく話始めた。


「これはこの間見た夢の話なんだけどね、夢の話よ、夢。」


そう言って、女は一方的に話始める。


「夢の中の私は、オフィス街のマンションに住んでて、

近くのオフォスから部屋が丸見え、朝になってもカーテンを全開にすることができずに、

レースのカーテンで目隠しをして過ごしているって設定だった。


その日、理由は忘れたけど、会社をズル休みしていたの。

いつもよりゆっくり起きて、ベットから外を見上げたらオフォスの一室から

女がこちらをじっと見ているような気がした。

いや、気のせいだ。自分が思っているよりも向こうは見えていないものだ。


そうは言っても、やっぱり少し気になったので、

遮光カーテンでしっかりと外界と自分の世界を隔離した。


これでいいわ。これで大丈夫。

お風呂に入ってスッキリしたら、撮り溜めたドラマでも見ようと

その時は考えたのね。


さっぱりして、お風呂から上がると、

部屋のテレビの音が聞こえてきた。

「今日のニュースは....」

あれ?私、朝起きてテレビ付けたっけなぁ。


「私たちは.....」

「東京では....」

チャンネルが何度か変えらている。


誰かいる?いや、そんなはずはない。

きっと、リモコンの上に何か物を置いたままお風呂に入ってしまったんだろう。

きっとそう、いや、そうであって欲しい。


私は気持ちを落ち着かせながら、すばやく服を着替えて、居間へ向かった。

一応なにが起きても良いように、電話を手に持って。


テレビがあるリビングに繋がる扉からこっそりと部屋の中を覗くと

先ほどオフィスから私を見下ろしていた女が

無表情でテレビを見ていた。


すぐに女は私の視線に気づき、ゆっくり顔をあげた。

「あら、いたの...」

一つも表情を変えない顔は、恐怖を倍増させたわ。

でも、私も負けてはいられない。勇気を出して女を捕まえたの」


「えっ、捕まえちゃったんですか?」

「あ、えぇまぁそうね夢だしね、力はあったみたいよ」

「そ、そうですか、すみません。話をおってしまって、続けてください」


「えぇ。

女を捕まえたまではよかったけど、両手で女を手を抑えた状態で

電話をすることができなかったの。

というか電話は床に落としたか何かでどこかにいってしまっていた。


だから、隣人に助けを求めることにしたわ。


私は必死で、女の両腕をつかみながら肘を使って、

同じフロアの部屋のインターホンを片っ端から連打した。

女は奇妙なほどにおとなしい。


「はい、なんでしょうか...えっ?」

必死の形相で無表情の女の腕を押さえつけている隣人が

突然現れたので、困惑した顔をしていた。


よかった、誰でもいいからいてくれて。

「けっ、警察、警察に連絡してください!」


「でも、えっと、えっ?でも....」

と言いながらなかなか電話をしない...。


「早く、早くしてください!」


私の腕は限界を迎えようとしていた。

ただ、この腕を離したら死ぬ。なぜかそう思っていた。

ただ、男はもたもたして、なかなか電話をしない。


全くもって謎なのだが、私はこの男に電話してもらうことを

諦めて、そのまま女を連れて交番に向かうためにマンションを出ようとした。


「ねぇ、あなた家の鍵しめたの?あの男、きっと泥棒よ」

女が私の顔を見てニヤリと笑った。


一瞬にして、心拍数が上がり、手足が震える。

閉めてない……!私は急いで部屋に戻り始める。


女が言った通りだったら、どうしよう。

今から一人で部屋に向かっても力がある男を相手にどう戦うのか。

女を一人抱えた私は、もう一人を捕まえる余裕などない。

どうしようか。どうしようか。どうしようか。


「殺しちゃえばいいじゃない?」

「えっ?」

女の言葉を聞き取れなかったわけではなかった。

言葉を飲み込むことができなかった。


「だから、殺しちゃえばいいじゃない?」

もう一度女は繰り返した。


「そっか、そうだよね、殺しちゃえばいいだね」

これまでの緊迫感から解放されたような気がした。


そうだ、その通りだ。

なぜ初めから思いつかなかったのだろう。

簡単なことだった。家には凶器になりそうなものがいくらでもある。

犯人としてでっちあげるにはうってつけの人物も私が今、捕まえている。


「簡単なことだ、簡単なこと。これが終わったらドラマを見よう」

わたしは自分に言い聞かせながら自分の部屋に向かっていた。

ふと女を見ると、うっすら笑顔を浮かべていた。


ーーーーーー

「私の夢はこれでおしまい。夢だからこの後どうなったのかわからないけど...、

結構面白かったでしょう?」


「はぁ」

夢の話だから、オチがないのはわかるがなんとも煮え切らない話。


「はい、お待ちどうさま。いつものAランチね」

店長が私のランチを運んできた。


話をやめるタイミングがきましたよという目配せを送るために

隣の女をみた。


「あれっ?」

女が跡形もなく消えている。


「あなたは、何回ランチ食べたら目覚めるの?」

店長が私に背を向けて呟いた。

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