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ホラー部屋

「マーガレットはまだ来ない」

作者: 石川織羽

【「マーガレットはまだ来ない」とは】

 悪魔除けのおまじない。

「マーガレットはまだ来ない(Margaret has not arrived yet)」。

 唱えると『ブラックウッドの霧の家』『ブラックウッドのミステリーハウス』から逃れられるとされている。


【ブラックウッドの霧の家】

 アメリカのミステリーハウス伝説。

『ブラックウッドの霧の家』、『Fog house of Black wood』。

 アルスター郡ブラックウッド町(現シルバーロック町)に存在した屋敷。一七六二年ジョージ・ヘンリー・スミスによって建てられた堅牢な豪邸で地上二階、地下一階。部屋数は十六あった。


 一七九三年にスミス一家を含む八家族、計三十九人の犠牲者を出した大量殺人事件の現場となる。未解決事件であり、建物は後に売却されたものの買い手はつかず、一八二五年に火災で焼失した。


 一九三〇年代に入ってから、魔女やビッグフット伝説と絡めてミステリーマニアの間で再び知られるようになった。

 町には今も「霧の夜に現れる古い屋敷」の目撃談が絶えない。


 ■事件の概要

【一七九三年九月十二日】

 毛皮貿易で財を成したジョージ・H・スミス(当時五十二歳)は休暇を利用し、二人の息子を含む町の男たち総勢十名と、近くのコール山へ狩猟に出かけた。


 メンバーは、ジョージ・スミスの息子ウィリアムとアルバート。

 スミスの古くからの友人であり、地主で商店も経営していたニコラス・ホプキンス。

 農家のジョン・コナー。同じく農家のベンジャミン・モーリスと、友人のルイス・アンダーソン。

 酒場の店主ジョナサン・クレイと、その二人の息子、エリックとアダム。

 狩猟の成果は兎が二羽だった。


 ニコラス・ホプキンスはジョージ・スミスと旧知の友人だったが、他の者達は特に親しかったという話しはなく、それまで共に狩猟をしていたことも無かった。


 当時、町では何度か野生動物に侵入され、保存食や家畜が食べられるなどの被害が繰り返されていた。農家を営んでいたルイスの母レベッカも周囲に

「またトウモロコシが食べられてしまった」

 と洩らしていたため、彼らも狩猟に参加したようである。


 ウィリアムは隣町に住む銀行家の娘、エリザベス・ヘドリックとの結婚が決まっていた。


【九月十三日】

 判事の娘、クレア・ロビンソンは小雨の降る夕暮れ時。道を走り去っていく、大きくてずんぐりした黒い影を目撃した。一瞬の出来事でクレアは影をクロクマだと思い、家族や友人に報せている。


 だが後に、「あれはマーガレット・ロスのようにも見えた」と語っている。


 マーガレット・ロスとは、町外れで一人暮らしをしていた高齢女性だった。足が悪く、農作業などをして働くのが困難で、物乞いに近い生活をしていた。マーガレットは走るのが難しいため、クレアは走り去ったものを咄嗟にクロクマと判断したという。


【九月十五日】

 材木屋のハリソン・ヒュームと、弟クリストファーの証言。

 夜八時過ぎ頃。ヒューム兄弟は、馬が騒いでいたため猟銃を手に納屋へ行った。霧が立ち込めていて遠くまでは見えなかったが、納屋に荒らされた様子はなく、野生動物などの気配もなかったため家へ戻った。


 しかし二人が家へ戻ると、真っ暗な隣の部屋から男の声で

「これじゃご馳走が足りないぞ」

 という独り言のようなものが聞こえた。


 兄弟は急いで部屋の扉を開けた。だが窓は閉まっており、室内には誰もいなかった。自宅内を調べたところ、ライ麦一袋が盗まれ無くなっていた。


【九月十九日 事件当日】

 農家のピーター・ホーナーは午前中、ベンジャミン・モーリスから

「今日はスミスさんのお屋敷でパーティがあるそうだ」

 と聞いていた。スミス家のウィリアムが結婚間近であったため、ピーターはその祝いのパーティだろうと考えていた。


 さらに夕方の六時三十分頃、レイモンド・グラント牧師と妻のモードリン、娘のセーラ、息子のジェイコブが、スミスの屋敷の方へ向かう姿を目撃している。ピーターは牧師一家もパーティに招かれたのだと思っていた。


【午後九時頃】

 酒場女のハリエット(ハッティ)・ドーラの証言。

 ハッティは道端で、エドワード・バートン医師と妻のブレンダ、息子のジェームズが慌てた様子で外出するのを見かけ、不審に思い声をかけている。


 そのときブレンダは、先ほどマーガレット・ロスが訪ねてきたと話した。

 マーガレットが

「屋敷に暴漢が押し入り、怪我人が多数出ている、スミス夫人に頼まれ急を報せに来た」

 と説明したという。

 負傷者多数ということで、医療知識のあるブレンダと、息子のジェームズも手伝いに出かけるとのことだった。


 マーガレット・ロスは

「現場に居合わせた、ジョンとベンジャミンも怪我をしており、家族を呼んでくるよう頼まれている」

 と告げ、再び霧の漂う町へ出て行ったという。


 事件の詳細についてはまだ把握出来ておらず、バートン医師は「早く家へ帰りなさい」とハッティに言った。しかしハッティは動転し、酒場へ戻ってしまった。店主のジョナサン・クレイに先の事を告げると、ただちにジョナサンは息子たちと共に武装して、スミスの屋敷へと向かった。


 その後ハッティは愛人の家へ逃げ込み、翌朝まで隠れていた。


【午後九時十分頃】

 バートン家の女中アイリーン・ロイドは、留守番をしていた。

 しかしアイリーンはバートン医師たちだけでは人手も足りず、危ないのではないかと考えた。そこで家を抜け出し、保安官アドルフ・ハドソンと、保安官補のリチャード・パーカーに事件の発生を報せに向かった。


 アイリーンが事情を説明していたとき、外から凄まじい悲鳴が聞こえた。

 声に驚いた近所の人々も、家から飛び出した。スミス家の下男ユーイン・ベイカーが、道の真ん中に倒れており、彼の背中には斧が刺さっていた。


 駆け寄った人々に、血まみれのユーインは虫の息で

「マーガレットは来ましたか?」

 と尋ねた。


 アイリーンはマーガレットが危険を町の人々へ報せて回っているものと思い

「(ここには)まだ来ないわ」

 と答えるとユーインは頷き、そのまま事切れた。この直後、保安官補のリチャード・パーカーはスミス家へ急行している。


 町は深い霧に覆われ、真っ白で三メートル先も見えない状態だった。

 後のアイリーンの証言では、マーガレットがバートン医師宅へやって来た時刻は、夜八時四十五分頃だったという。


【午後九時三十分頃】

 事件の発生が知れ渡り、町の人々は声を掛け合い、多くの女性や子どもは集会所へと避難した。

 この時点で、ジョン・コナー、ベンジャミン・モーリス、ルイス・アンダーソンの家に、誰もいないのが確認されている。


 ・ジョン・コナーの家

 家の裏には、割れた懐中時計が落ちていた。持ち主は息子のサミュエルで、時計は八時四十五分で止まっていた。夫婦の寝室では、酒場店主ジョナサン・クレイと息子たちの持って出た猟銃が見つかっている。途中でクレイ一家が立ち寄った可能性もあるが、何故銃を置いていったのかはわかっていない。


 ・ルイス・アンダーソンの家

 ドアと窓に内側から板が打ち付けられ、開かないようになっていた。


 ・ベンジャミン・モーリスの家

 食卓に小さなメモが残されていた。

 書き殴ったような文字で「エドワードを信じるな」という部分のみが読み取れた。『エドワード』はエドワード・バートン医師と思われるものの、二人が不仲だったという情報はない。筆跡も乱れ過ぎていて、ベンジャミンの直筆メモかわからなかった。


【午後十時頃】

 保安官アドルフ・ハドソンが、町の男達数十名と共にスミスの屋敷へ向かった。

 人々がスミス家に到着し門を潜ると、白い霧に包まれた屋敷には煌々と光りが灯っていた。複数男女の、賑やかに笑いさざめく声が聞こえ、それまで殺気立っていた男達は拍子抜けた。


 だが次の瞬間、屋敷の明かりが一斉に消えた。そして建物の内部から銃声と

「クソッたれ!」

 という男の絶叫が聞こえた。

 ハドソン保安官が「誰だ!?」と呼びかけたが、屋敷は静まり返り返事はなかった。


 人々が屋敷の玄関扉を破り突入すると、保安官補リチャード・パーカーがエントランスで倒れていた。リチャードは右腹部が食い千切られたように抉り取られており、ハドソン保安官に


「マギー(マーガレット)が来た」

 と言い残して死亡している。

 リチャードの周囲には血溜まりを歩き回った鶏の足跡が残され、裏庭の方へ続いていた。惨たらしい現場の状況に町民たちは恐れ戦いたが、これはほんの始まりに過ぎなかったのである。

 大広間のテーブルには豪華な料理や酒が、ほぼ手付かずで並んでいた。


【事件現場】

 裏庭では、スミス家の小間使いアリスと、使用人ジェイドが、ぺしゃんこに近い状態で死亡していた。

 遺体の損傷から、二人は何か非常に重い、石のような物で圧殺されたと推測されたが道具も見当たらず、殺害手段はわかっていない。翌日、近くの草むらから頭をもぎ取られた鶏の死骸が見つかった。鶏の足には血液が付着していた。


【絞首】

 次に見つかった犠牲者は十代の少女達だった。

 スミス家の長女ローズマリーと、妹のオリビア。

 グラント牧師の娘のセーラ。商店主ホプキンスの娘、ステファニー。

 ベンジャミンの娘アメリアと、ルイスの娘ミシェルの計六名。


 少女たちは二階にある子ども部屋二部屋と来客用の寝室、扉の内と外のドアノブに、二人一組のような状態となり、荒縄で首を吊るされ死亡していた。


 最年少のステファニーでも十二歳で、確実に足は床に届いた。手足に縛られた痕跡も無く、何処で、どのようにして絞首状態にされたのかは不明。セーラは右手に、ローズマリーのものと思われる毛髪を握り締めていた。


【転落死】

 南に面した庭では、遺体の山が見つかった。

 スミスの息子のウィリアムとアルバート。

 ジョン・コナー本人と、息子のサミュエル、ディビッド、スティーブン。

 エドワード・バートン医師と息子のジェームズ。その妻のブレンダ。

 ルイス・アンダーソンと、母親のレベッカ。妻のケイトリン。息子のクラーク。


 真っ先に救援に向かった酒場の店主ジョナサン・クレイと、息子のエリックおよびアダムも犠牲となっており、計十六名。全員が高所からの落下によるとみられる、頭部や頚椎の損傷で死亡していた。


 飛び降りたと思われる二階の部屋には、戦ったり抵抗した形跡もなかった。

 何らかの理由で、順番に二階から飛び降りたと考えられる。しかし彼らの落下地点は建物から五メートル以上も離れており、「まるで一人ひとり窓から投げ捨てられたよう」だったという。


 全員の口には、イナゴとライ麦が詰め込まれていた。ライ麦がハリソン宅から盗まれたものと同一であるかどうかは、判明していない。折り重なった遺体の山の上には、首の無い黒山羊が置かれていた。


【水死】

 貯蔵庫として使われていた地下室では、十一名が遺体となって発見された。

 レイモンド・グラント牧師と、妻のモードリン。息子のジェイコブ。

 ジョン・コナーの妻ヴァージニアと、末っ子のアンソニー。

 ニコラス・ホプキンス本人と、息子のダニエル、セオドア。

 ベンジャミン・モーリスと、妻のグレイス。息子のドミニク。


 頭から靴まで全身水浸しで、いずれも死因は水を大量に飲んだ溺死だった。発見現場に水路や水溜りは無く、水死させてから地下室へ運び込んだものと推測される。殺害した場所や、移動させた目的はわかっていない。


【撲殺】

 スミスの妻のメアリーは、自室のベッドの下で死亡しているのが見つかった。メアリーのベッドの上には、黒山羊の頭が置かれていた。


 屋敷の主であるジョージ・スミスだけがなかなか見つからず、捜索開始から六時間後、煙突の中に荒縄で逆さに吊るされているのが発見された。ジョージは殺害後に、煙突内部へ吊るされたものとみられている。


 夫妻は全身五十箇所以上を骨折し骨が砕け、撲殺されていた。特に頭部と顔面は、識別困難なほど損傷していた。


【九月二十日】

 容疑者としてマーガレット・ロスの捜索が始まった。

 しかしマーガレットは既にブラックウッドの町から消えていた。指名手配されたが、捜査が進むにつれてマーガレットはスミスの屋敷で事件が起こる前から、町中で姿が確認されていないと判明した。


 マーガレットの最後の目撃証言は、九月五日だったのである。

「マーガレット・ロスが、スミス家のウィリアムとローズマリーに連れられて、屋敷の方へと歩いて行った」

 と、知人に語っていたのは、死亡した保安官補リチャード・パーカーだった。


 事件当日の夜にマーガレット・ロスはバートン医師の家へ現れて急を報せたが、女中のアイリーン・ロイドは台所の片付けをしており、直接会っていない。応対したのはエドワード・バートン医師本人だった。そのため医師宅へ来たのが、本当にマーガレット・ロスだったのか定かではない。


【捜査・捜索】

 事件の異常性と被害の大きさに、市長の命令で応援も駆けつけ、大規模な捜査が行われた。


 スミスの屋敷内の金銭や財産、宝飾品は無事に残されており、唯一メアリーのお気に入りだった真珠の首飾りのみが紛失している。このことから金銭目的ではなく、怨恨の線で捜査は進められた。


 小間使いアリスの部屋からは、重さ三十キロにもなる大量の荒縄が押収されている。縄はジョージ・スミスを煙突に吊るしたり、少女達の絞殺に用いられたのと同じ荒縄だった。購入者はニコラス・ホプキンスで、一ヶ月前に自宅の屋根改修の名目で購入している(屋根は改修していない)。


 使用人ジェイドの遺体の下からは、破り取られた『主の祈り』の頁が発見された。グラント牧師のもので、聖書自体はスミス家の客間のテーブル上に置かれていた。殺された黒山羊や鶏などは、スミス家で飼われていた家畜だった。

 使用人ユーインの背中に刺さっていた斧は、ルイスの斧だった。


【犯人及び自白】

 猟奇的、且つ不可解な事件の捜査は難航したが、やがてバートン家の女中アイリーン・ロイドが犯行を自白した。


 スミス屋敷のパーティに忍び込み、人々に阿片煙草の煙を吸わせたという。犯行の動機は、「結婚が決まっていたウィリアムへの横恋慕」であった。


 事件に使われた阿片は供述通り、メアリーの部屋から見つかっている。

 メアリーはひどい片頭痛や、不定愁訴に悩まされている阿片の常用者だった。服薬用の阿片だけではなく、喫煙用の阿片と道具も、屋敷から複数発見されている。


 この自白により、スミス家の事件は阿片で幻覚や幻聴に陥った人々が、発作的に殺戮や自殺に走ったという結論へ傾きかけた。


 しかし自白して間もなく、アイリーンが病死している。しかもスミス家の現場には、喫煙をした形跡が無かった。犯行動機や阿片の症状、被害者たちの死亡状況。何故バートン家の女中であるアイリーンが、メアリーの部屋に阿片があると知っていたのかなど、不自然な点が極めて多い。


 アイリーンは病死ではなく口封じで殺された、あるいは、自白を強要された拷問死だったのではと取り沙汰された。自白を引き出したアドルフ・ハドソン保安官には、何度も疑惑の目が向けられている。


 疑惑を気にしてか、ハドソン保安官は死の直前まで

「この事件の真犯人はどこか別に居て、自分が関わったと周囲に知られないよう、アイリーン・ロイドを利用したのではないか」

 と、自らインタビューに答えるなど、『謎の真犯人』説を唱え続けていた。

 アイリーンが死亡したのも影響し、事件は最終的には迷宮入りとなっている。


【都市伝説化】

 地元では事件発生直後から、マーガレット・ロスは何らかの理由で、すでにスミス一家に殺害されていたのではないかと語られている。


 ジョージ・スミスは生来夢見がちで、魔術や占い、霊魂といった存在にも興味を示していた。

 そのためスミス夫妻を筆頭に、彼らが密かに黒魔術の儀式を行い、天涯孤独な老女のマーガレットが生贄にされ、殺されたと近隣では噂された。


 他にも、『悪魔崇拝の儀式パーティの途中で集団ヒステリーを起こし、次々に自殺した』という説も浮上した。これは被害者たちの遺体や屋敷内に、抵抗したり争った形跡が全くと言って良いほど残されていないことの、有力な理由とされている。


 さらにこの説では、自殺の幇助をしたのは使用人のユーインで、最後に自らも発狂し、現場から逃亡して死んだものとされる。実は一部始終を全て見ていた老女マーガレットが、ユーインに斧を投げつけて殺したとの説もあるが、これらを裏付ける証拠はない。


 また、『マーガレットが農家の作物の泥棒など、嫌疑を一方的にかけられ町の厄介者として殺された』という説もある。実際にジョン・コナーの妻ヴァージニアや、グラント牧師の娘セーラなどは、不潔なマーガレットを毛嫌いする発言を繰り返していた。


 九月十二日のスミス達の狩猟は、遺体の隠蔽だったのではないかとも言われている。しかしコール山でマーガレットの遺体や所持品などは発見されておらず、狩猟のルートもわかっていない。


 九月五日に、マーガレットがウィリアムたちに連れて行かれたというリチャードの証言については、「マーガレットが、二人の後ろを歩いていただけ」とも考えられるため、依然不明のままである。


 尚、『儀式で召喚された悪魔によって、マーガレットが魔女と化して復讐を遂げた』という説は、今も根強く支持されている。


【後年の状況】

 惨劇の舞台となった屋敷は売却されたものの買い手はつかず、「バルコニーに幽霊が立っている」、「真夜中に泣き声や叫び声が聞こえる」といった噂も相次ぎ、幽霊屋敷として放棄された。事件からおよそ三十年後、不審火で焼失している。


 陰惨な未解決事件に加え、天災や疫病も重なり、呪われた町と嫌われたブラックウッドは、住民の数も半分以下に減った。長らく打ち捨てられたようになったが、やがて町の名前を『シルバーロック』に改め、町は再建される。屋敷の跡地は公園となり、一時は事件も幽霊屋敷も完全に忘れられた。


 しかし一九三〇年代に入ると近隣の若者の間で、「霧の夜に現れる古い屋敷」の目撃談が報告されるようになる。オカルト研究者ルーシー・キルバーグが、町の伝説を下地に描いた怪奇小説『霧の家』が書籍出版され、再び世に知られるようになった。


 町に伝わる『霧の家』の物語は、概ね決まっている。


 霧の深い夜に町の中を歩いていると、目の前に忽然と見知らぬ古い大邸宅が現れる。屋敷からは楽しそうなお喋りや笑い声が聞こえ、とても魅力的だが、決して屋敷へ入ってはならない。入れば二度と戻ってこられなくなると言われている。


【『霧の家』の約束事】

『霧の家』から逃げるには、規則を守る必要がある。規則を破ると奇怪な老婆が現れ、屋敷へ連れ去られてしまうという。


 足音を立てず、ゆっくり後ずさりして立ち去らなければならない。建物が完全に霧の向こうへ消えるまで、決まったおまじないを繰り返し唱え続ける。唱え続けなければならない言葉は、殺戮事件から逃れおおせた女中アイリーン・ロイドに由来した言葉。


「マーガレットはまだ来ない(Margaret has not arrived yet)」である。

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― 新着の感想 ―
[一言] 蓋を開けてみれば単なる強盗殺人で殺された人数も少なく、風説だけが独り歩きして、被害者数がインフレし、無意味に猟奇化している某国の慰安婦の様なパターンでしょう。 ただ、単なる噂話が血肉を持ち実…
[良い点] ものすごく、怖い。 怖すぎる! [一言] 橘 搭子様の活動報告でこちらを知りました。 正直なところ、ホラー小説を読んでも『怖い』という想いをしたことがほとんどない人間です。 文章や構成の…
[良い点] 科学的技術の発展していない時代の狂気がじわじわ迫ってくる感じに怖さを引き立てられました だからと言って現代で起きたとしても証明されそうに無い事件で怖さ倍増です きっと麦角病だったんだよ全部…
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