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ちっちゃいけど、お国を守ってるつもりです。  作者: 弦巻耀
第1章 運が導く就職活動
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☆補足ネタ⑥ 全くマニアックでない飛行機談義



 戦闘機のパイロットさんは恐ろしく長く大変な訓練を経てようやく防空の第一線で活躍することになるのですが、その苦労のわりに、現役として飛べる期間はあまり長くありません。四十代に入ると多くの方々が現場を離れていかれるそうです。エアラインのパイロットさんたちが定期的に行われる航空身体検査(パイロットの健康診断のようなもので、これに合格しないと飛行機の操縦はできません)さえクリアしていれば定年まで飛べるのと比べると、エラい違いです。

 快適なフライトが第一の旅客機に比べ、ぐるんぐるんかっ飛んでナンボの戦闘機は、やはりとてもしんどい乗り物なのでしょう。


 中でも、大卒の戦闘機パイロットさんたちの生涯飛行時間は、高卒パイロットさんたちのそれよりさらに短くなります。大卒パイロットさんたちは、同時に自衛隊で要職を務める「幹部」という立場でもあるため、高卒の方々より早く現場を離れ、地上で幕僚ばくりょう(≒参謀:司令部などに勤務し、作戦や運用面で指揮官の補佐をするスタッフ)や部隊指揮官の任に就く運命にあるからです。

 また、そういう将来的なキャリアを見越し、早い段階から管理業務や中央(市ヶ谷)勤務の経験値を上げるべしという人事方針のもと、まだ若い現役大卒パイロットさんが一時的に地上勤務になったり座学研修に放り込まれたりすることもあります。昨日までマッハ2.5で飛んでいた人が突然「中央」に呼ばれて二年ほどデスクワーク、というケースも少なからずあるのです。


 私ははるか昔に学生向け自衛隊体験ツアーなるものに参加したことがあるのですが、この企画を主催した内局広報課(空飛ぶ広報室とは違う部署です)に、現役のF-15パイロットさんがおられました。当時、三十代前半と思しき彼は、戦闘機部隊がいる某空自基地に我々見学者を引率してくだすったのですが、現地でF-15がスクランブルのデモンストレーションをするのをじっと見つめ、「オレ涙出そう……」と呟いておられました。

 格納庫の中であり得ないほど凄まじいエンジン音をぶっ放されて思わず耳をふさいだ私なぞから見れば、地上勤務のほうがはるかに安全で気楽だろうにと思うのですが、やはり空のおとこは空を飛んでいたいものなのか……、とこっちもじーんとしちゃったものでございます。


 本編の「採用面接(2)」で佳奈さんと飛行機談義をするF-15乗りの強面ボスは、「防大卒のエリート」という脳内設定なのですが、彼も若い頃に「飛べるのに地上勤務」という悲しい日々を経験し、いつかはブルーインパルスのパイロットになることを夢に見ながらついに叶わず、四十前にして空の世界から実質的に離れることになったんだろうなあ、なんて考えながら書いております。



 その強面ボスが佳奈さんと飛行機談義をするシーンでは、F-15とT-4とF-35が話題に上がるのですが、これらの飛行機を地の文でどう表現したらいいのか、またまたとても困りました。「F-15ってこれ(↓)です、これ!」


   挿絵(By みてみん)

  (2015年小松基地で撮影)


 ってやれれば一番手っ取り早いのですが、画像を載せられない某投稿サイトではそうもいかず……。かといって、どこかの公式サイトみたいに「F-15は航空自衛隊の主力戦闘機として云々」とやっても文字数を食うばかりで退屈だし、「最高速度はマッハ2.5で航続距離は約4,600㎞で武装は……」とスペックの話を書いてもメカ音痴の私自身が退屈だし……。

 で、考えた末に、「見た印象」でヒコーキを語るという暴挙に出たのでございます。



 F-15の第一印象を文字にするなら、とにかく「ゴツイ」の三文字です。本編内では気取って「精悍さに満ちている」と九文字使って書きましたが、内心「ゴツい」のほうが実態により近い表現だろうと思っております。


 とにかく、まず見た目がゴツい。

 縦横にデカいし、鼻っ面とんがってるし、グレー一色の塗装は威圧的だし、全体的にめちゃくちゃ重そう。近寄って見ると主翼の付け根(エアインテークの上の部分)や水平尾翼のあたりは意外と薄い(?)のですが、遠目には質実剛健がっしりマッチョな佇まいです。


 そして何より音がゴツい。

 F-15のお尻にくっついている二つのエンジンには音速飛行を可能にする「アフターバーナー」という装置が付いているのですが、このアフターバーナーを炊くと、「どっかーんバリバリバリ……」とこの世のものとは思えぬほど凄まじい轟音が発生します。うるさいどころか「お腹に響くような衝撃波を全身に感じる」というレベル。

 小さい子にはかなり刺激が強いので、戦闘機の機動飛行がある航空祭に就学前のお子さんを連れてお出かけになる際には、やや注意が必要です。


 そんな「どっかーんバリバリバリ……」のF-15は、飛び方もゴツいです。

 機体重量のわりにパワーのあるエンジンを積んでいますし、主翼が小ぶりの2DKのお部屋くらい大きいので揚力抜群、失速(説明するのがかなり大変なヒコーキ用語ですが、飛行機がノーコンになる状態とイメージしてください)しにくい設計になっているので、真上を向いても真横になっても無問題。

 さらに、急旋回しても最大9Gまで耐えられるほど頑丈なので、重力を無視するかのようにやりたい放題で飛び回れます。スクランブルで離陸する時などは、滑走路から足が離れた途端にほぼ真上を向き、すっこーんと飛んでってしまいます。目の前でこの「すっこーん」を見ると、あまりに非現実的な動きに度肝を抜かれ、思わず笑ってしまいます。


 見かけも音も動きも豪快なF-15。もしこの飛行機を擬人化したら、きっとこんな(↓)感じ。


   挿絵(By みてみん)

(バックのF-15は2014年岐阜基地で撮影したものです)



 それに比べ、ブルーインパルスは極めておしとやかな飛行機です。ブルーインパルスの使用機体であるT-4は、小さくて丸くて細身ですし、エンジンのパワーはアフターバーナーを炊いた時のF-15と比べると六分の一くらいだそうですので、音もずいぶんと静か(注:個人の感想です)。

 アクロバットショーをやるくらいなので機動性には富んでいますが、「どっかーんバリバリすっこーん」のF-15とは真逆の、優雅な飛び方がなんとも美しゅうございます。白地に青の塗装もとっても清楚。

 ブルーを文字で描写するなら、「可憐」の一言に尽きる。擬人化するならこんな感じでしょうか?


   挿絵(By みてみん)

(バックのブルーインパルスは……たぶん2017年入間基地で撮ったものです)



 蛇足ながら、ブルーインパルスじゃないフツーのT-4は灰色ベースのものすごく地味な御姿です。本来T-4は練習機なので派手な必要は全くないのですが、ブルーインパルスT-4の塗装を見慣れている人間にとっては、地上展示などでフツーのT-4を見かけると「アンタ誰?」って思うくらい地味。


   挿絵(By みてみん)

  (2015年小松基地で撮影)


 まあ、この地味さが好きという通なお方もたくさんいらっしゃるようですが。



 一方、派手な色使いをしているわけでもないのに妙に派手さを感じるデザインなのが、ステルス機の皆さんです。作中で佳奈さんがステルス機についてブツブツ言っていますが、あれはそのまま私の個人的な思いでございます。

 あんなつるっとヌメッとしたデザイン嫌だ! 垂直尾翼がナナメについてるなんて、絶対に嫌だあああ!


 残念ながらF-35の写真は手持ちがないのでF-22の画像で恐縮ですが、垂直尾翼がまっすぐに付いているF-15と斜めに付いているF-22、どちらがカッコいいですかね? 垂直尾翼がまっすぐ付いている飛行機の方が爽やかイケメン的な雰囲気じゃないですかね?


   挿絵(By みてみん)

(↑垂直尾翼がまっすぐに付いているF-15 2014年横田基地)

   挿絵(By みてみん)

(↑垂直尾翼がナナメに付いているF-22 2009年横田基地)


 レーダーに映らないステルス機は無敵なのでしょうが、見た目は「精悍」というよりは「狡猾」という言葉が似合いそうな雰囲気。F-22やF-35を擬人化したら、イケメン気取りのギラついた奴になるに違いない。F-35はメタボ兄さんになるような気もしますが……(イケメン気取りのギラついた奴は描けないので擬人化絵は省略m(_ _)m


 嗚呼、そう遠くない将来に垂直尾翼がナナメについている飛行機たちが空自基地にぞろぞろ並ぶ日が来るのかと思うと、航空祭で長らくF-15を眺めてきた私としては、ちょっとイジケてしまいますです。




 

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