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友人


「んあ……」


何だろう、昨日の夜は確か毛布だけで寝たから少し寒いくらいだったはずなのだが、何故か寝苦しい。

とりあえず今何時だ……と時計を探すと。


「あ、龍二くんおはよ~」


ベッドで寝ていたはずの陽菜さんが同じ毛布を被り隣に寝ていた。


「キイエエエエエエエエエエエエ!?」


「うるさっ! 何、どうしたの?」


「いや『どうしたの?』じゃないですよ! 何やってるんですか陽菜さん!」


「何って龍二くんと一緒に寝てるんだよ?」


「……もういいですさっさと起きてください」


呆れて相手にするのも面倒になったきた。


「え~、もう少し一緒に寝ようよ~」


「寝ません。ほら、今日はいつもより早く出るんですから起きてください」


「ちぇっ」


渋ってはいたが、これ以上遊んでいると遅刻しかねないと気付いたのか陽菜さんは寝床から出てくれた。


「まったく。好きでもない男にそんな事するのもどうかと思いますが?」


「……え?」


「そういうのは本当に好きな人にしかするべきじゃないですよ。俺はしませんけど、相手が悪いヤツだったら何されるか分かりませんよ?」


必死に理性を保つこっちの身にもなってほしいものだ。


「うん……そうだね」


愚かにも、俺はこの時陽菜さんが少し悲しそうな顔をしていたことに気付かなかった。


軽く朝食を済ませ、俺は自分の支度をした。陽菜さんは家に行っても着替えるだけらしく「髪の毛も結んじゃえば問題無し!」と。


「じゃあ行きましょうか」


「うん!」


部屋を出て、鍵を閉める。ついでにゴミ袋もアパートの前の収集所にぶち込んできた。


見慣れた道を2人で並んで歩く。

如何せん経験が皆無なので分からないが、俺と陽菜さんも「そういう感じ」に見えるのだろうか。


「ねえ龍二くん」


「何ですか?」


「こうやって並んで歩いてるとさ、私達って恋人同士に見えたりするのかな?」


同じことを考えていたらしい。だが、俺はその言葉が妙に痛かった。仮にそう見えたとしても、俺は本物にはなれない。いつか陽菜さんの隣に立つのは俺じゃない。そう考えるのは堪らなく辛かった。


「どうでしょうね」


そんなふうに、冷たく返すことしか出来なかった。我ながら嫌な奴だと思う。


俺の家から5分ほど歩くと、陽菜さんの家に到着した。至って一般的な一軒家だが、2人で暮らすには少々広すぎるらしい。


「それじゃあ着替えてくるから待ってて!」


「遅くならないでくださいよ?」


家に入っていく陽菜さんを見送る。

少しすると、見慣れたあの人が代わりに家から出て来た。


「おはよう龍二くん」


「あ、おばさんおはようございます」


「昨日はちゃんと避妊したの?」


「……朝から何言ってるんですか。何もしてませんよ」


相変わらずアホなことを言うおばさんである。


「あら、そうなの? 龍二くんにはいい加減に既成事実作って陽菜を貰ってほしいんだけどなぁ~チラッ」


「いやチラッじゃなくて。する訳ないじゃないですかそんなこと」


キッパリとそう言うと、おばさんはすごく不思議そうな顔をした。


「え? 和人くんは陽菜のこと嫌いなの?」


「いや俺は陽菜さんのことは好きですけど、って何言わせるんですか」


「ならいいじゃない。母親公認よ?」


「いやいや陽菜さんの意志関係ないんですか? 陽菜さんは俺のことをそういう風には見てませんよ?」


俺がそう言うと、おばさんは「はぁ」とため息を吐き、


「……またあのバカ娘は」


「え?」


「何でもないわ。ねえ龍二くん」


「は、はい」


「陽菜のこと、これからもお願いしていいかしら?」


おばさんはいつになく真面目な顔でそう言った。何故だか分からなかったが、その言葉には大きな意味が込められている気がした。


「もちろんです」


「……ありがとね、龍二くん」


「おっ待たせー! ってお母さん、何してるの?」


「何でもないわ。行ってらっしゃい」


「行ってきまーす! 龍二くん、行こ!」


「は、はい」


そうして俺は手を振るおばさんに軽く一礼して、陽菜さんに手を引かれながら学校へ向かっていった。



□■□■□■□■□■□■□■□■



「それじゃあまたお昼にね!」


「はい」


陽菜さんはそう言って友達の元へ走っていった。類は友を呼ぶと言うべきなのか、その友達2人もかなりの美人で周りの男子達の視線を集めている。

幼馴染とはいえ、無理して俺に構わなくてもいいのにな……。


自分の教室へ向かって歩いていると、1人の男子から声を掛けられた。


「おはよう龍二」


園崎そのざき海斗かいと。去年も同じクラスだった、俺が会話出来る数少ない友と呼べる存在だ。

一応言っておくが、俺は別にコミュ障だとかそういう訳ではない。実家の評判や中学時代の付き合いの悪さで、自然と人が寄り付かないのだ。

元々上辺だけの付き合いなんてものが嫌いな俺にとっては好都合だが、ボッチだと思われるのも癪だからな。


「おう、おはよう」


「今日も桜木先輩と一緒? 相変わらず仲良しだね」


「まあ、陽菜さんがどうしてもって聞かないから」


「渋ってもなんだかんだで一緒に来るんだもんね。熟年夫婦みたい」


「誰が夫婦だ」


2階の突き当たり、いつもの教室へ。俺の席は窓際の1番後ろ、そして海斗はその前の席だ。まるで座席まで俺をハブろうとしているようでイラッとするが、居心地は悪くない。

荷物を降ろしながら海斗は言う。


「でも龍二は桜木先輩のこと好きなんでしょ?」


「……まあ、好きか嫌いかで言えば」


「どっち?」


「……好き、だが」


普段は穏やかなクセに時々すごくグイグイ来る。優しい顔をしてるからと油断してると危ないやつだ。


「じゃあ夫婦でいいじゃん」


「いや、俺だけ好きじゃそうは言わないだろ」


「え? だって桜木先輩ってどう見ても龍二のこと好きなんじゃないの?」


「はあ、やっぱりそう見えるんだな。そりゃそうだあんだけベタベタしてれば」


陽菜さんが好きな俺にとっては悪い気はしない寧ろ良いのだが、その後が面倒なのだ。前にも言ったが陽菜さんはかなりの美人優等生で人気者。男子の中での評価も高い。本人も言っていたが告白もよくされるらしい。

だが、恐らくは本命がいるからだろうが陽菜さんは全ての告白を断っている。砕け散った男達の怒りの矛先は何故か俺に向けられる。事情を話してもお構い無しだ。

結局、強硬策で捩じ伏せる結果になり、それがますます俺の周りから人を遠ざけていった。


「何回か陽菜さんには聞いたことあるんだよ」


「なんて?」


「どうしてここまで俺の周りのことをやってくれて、傍に居てくれるのかって」


「うわそれ聞いちゃうんだ、龍二らしいけど。それで、答えは?」


「『べべべ別に変な下心とかないから! そう! 幼馴染だから! 龍二くん弟みたいで放っておけないからだよ!』だってさ」


「……」


「ま、そんな感じだ。だからいい加減陽菜さんに振られた連中が俺に……ってなんて顔してんだお前」


話を聞く海斗の顔は、まさしくドン引きしたような驚きに満ちていた。


「龍二……」


「な、何だよ」


「1回殴ってもいい……?」


「何でだよ!」


「まあいいや、僕がやらなくても振られた人達が……いや、その人たちでも龍二には勝てないか」


とうとう1人で納得し始める海斗。出た結論が何なのかさっぱり分からないのだが。


「とにかく!」


「お、おう」


「絶対に桜木先輩を泣かせちゃダメだよ」


「当たり前だ」


「ホントかなぁ……」


「本当に決まって……だからそんな目で俺を見るな! やめろ!」


俺を見る海斗の目は疑念に満ちたジットリとしたものだった。俺が一体何をしたというのか。


「みんな~HR始めるから席着いて~」


「ほら先生来たぞ。前向け」


「本当かなぁ……」


「やめろ!」


何故かは分からないが、結局最後の最後まで疑われた。何故かは分からないが。


HRは恙無く進み、午前の授業もいつも通り進んだ。俺は教師からも変な目で見られているのか、問題を答える時に指名されることもない。それはそれでいいのだが、いない者として扱われるのもイラつく時がある。1年の時からそうだったので慣れてきたには慣れてきたが、悪いことをしたわけでもないのに家系や巻き込まれた暴力沙汰のせいで妙な扱いを受けるのは癇に障る。

それも、家を出たかった理由なのかもしれない。


「はい、それじゃ授業終わり。宿題やっとけよー」


授業が終わり、昼休みになるとクラスはザワザワと賑やかになり始めた。俺は席を立ち、いつもの場所に向かおうとする。


「あれ、龍二また桜木先輩のところ?」


「ああ」


「相変わらずおしどり夫婦だね~」


「黙れ……!」


「ごめんごめん、行ってらっしゃい」


やれやれ、と嘆息しながら教室を出て廊下を歩いていく。

すると。


「龍二くーん!」


「グッホァァァ!」


腰がアアアアアアアアアア!!

腰がイカれるゥアアアアアア!!


陽菜さんが後ろから突っ込んできた。


「ちょ、陽菜? ターミ〇ーターくん死んでるけど」


俺の背中に突っ込み腰を破壊した陽菜さんの隣には、何度か見たことのある女性ひとが立っていた。


「ター〇ネーターじゃないです……」


「ひゃあああ、龍二くん大丈夫!?」


「アンタのせいだろーが! とりあえず降りてください!」


陽菜さんに降りてもらい、腰を擦りながら立ち上がる。


「ほんっとに仲良いねあんたら」


「うん!」


「いてて……えと、あなたは……?」


「ああ、名前はまだ言ってないっけか。藤野ふじの千秋ちあきよ。よろしく」


「佐々ささき龍二りゅうじです。宜しくお願いします藤野先輩」


「千秋でいーよ。よろしく和人クン」


「よろしくお願いします、千秋先輩」


自己紹介を終え軽く頭を下げる。明るめの茶髪を短めに揃えた先輩はかなりの美人だった。


「よし! じゃあ今日は3人でお昼だ!」


「はあ、千秋先輩もですか」


「あれ、アタシじゃ不満?」


ポツリと言った呟きを拾われ、気に触ったかと思いすぐに付け加える。


「いや、そういう訳じゃないんです。けど俺らと一緒に食べても楽しくないですよ?」


「そなの?」


「はい。陽菜さんが延々と喋ってるだけですし」


「え、いいじゃん別に。なんか問題が?」


理由はある。確かにあるのだが、あまり答えたくない理由なのだ。

ただまあ、一緒に食べる以上は言うしかないだろう。


「……俺の話しかしないんですこの人」


口を開けばいつも俺の身の回りの話。やっと終わったかと思えば好きな人は誰だの女の子の友達はいるかだの、同じことを延々と喋るのだ。


「あはは……まあ今日はアタシもいるし、多少はマシになるんじゃない?」


「だといいんですけど……」



□■□■□■□■□■□■□■□



「それでね! 昨日も龍二くんご飯も食べずに本読んでたのよ!」


「……龍二クン」


「……何でしょうか」


「……キミほんとに尊敬するわ」


「……ありがとうございます」


自分がいれば多少なりマシになると思ってた時期が千秋先輩にもあったそうです。はい。


最初は良かった。最初は千秋先輩の努力のおかげで3人で喋れていたのだが、まあ最初だけだった。

話すネタが尽きたと見るや否や、陽菜さんの話はすぐに俺の話へ。予想していたとはいえ、他の人もいるところで延々と自分の話をされるのはかなり\(・ω・\)SAN値!を持っていかれる。

そして今に至る。


「まさか陽菜がここまで千秋クン馬鹿だったとは……」


「これで本命は別にいるっていうんだからタチ悪いですよホントに……」


「……ん?」


陽菜さんの話を聞き流し、千秋先輩にそう言うと先輩は疑問の声を上げた。


「どうかしました?」


「ああいや……何でもない……」


「……? ならいいですけど……」


結局その昼休みは最後まで俺の話をされ、とても気まづい思いのまま終えたのだった。

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