渡せなかったから
月見でゆっしんと柚希に偶然出会った後、結局お礼に買ったのを渡せなかった。翔と柚希のいる前でなんか渡すのが嫌だった。
「何やってるんだろう」
自室の机に俯いて落ち込んでいるとあの人から晩御飯を呼ばれて、降りて行った。
リビングの食卓には作った料理が並べられている。それを眺めながら椅子に座ると反対にエプロンを外しながら座る女性…今の私の母親…。
「お父さんは?」
「今夜も遅いって」
「そう」
それからは会話も少しはあったけど、母親から一方的な話しを相槌しているくらい……それがいつもの事。
本当のお母さんが小さい頃に亡くなってから再婚した義理のお母さん、でもあの頃は頑なに拒んだ手前で今さら何を言えばいいんだろう。
「ご馳走さま」
食べ終わると席を立ち自室に引き込もっているが、立とうとした時に止められた。
「真那、ちょっとだけいいかな?」
「なに?」
「なんか落ち込んでるみたいだったから」
みんなから何を考えてるか分からないとよく言われて離れていくのが多い……でもゆっしんや柚希たちのように離れずにいてくれる人もいる。
「お世話になってる先輩にお礼を渡せなかった」
「そうなのね……その先輩って男の子?」
「んっ…当たってる」
なんでゆっしんの事わかったんだろう。話してもいなかったのに。
「真那はその先輩が好きなのね」
「…好き?」
よく分からない。 家族の好きや友達の好きとはまるっきり別なモノと言われてたけど、それが分からない。それは私が好きになった事がないから。
「真那の本当のお母さんじゃないけど、娘の事はわかるのよ」
素直に慣れない私と違い、私の事を少しでも理解しようとする義母。
「好きがよく分からない」
「分かってなくても、いずれ分かるわ」
「……………………ありがとう」
お礼を言ったはいいけど…恥ずかしくて部屋に戻った。
あれ、お礼を渡せなかっただけの筈なのになんで好きとか話しに変わったんだろう?
次回予告
結心「高校で母さんと父さんが伝説になってる」
ハル「あー、文化祭のやつだね」
結心「その通り…名前まで広まってない。次回予告『そ…うなのか』」
ハル「広まってなくてよかった」
結心「それはそうだね」




