表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

よくわからない関係

  「男女の友情って成立すると思う?」

 ハンバーガーチェーンでいつものように対面で座り、北海道みやげを渡したときだった。

「どしたん藪からスティックに」

「唐突な言葉を使わない~」

 しなしなポテトをつまみ上げ、奏多は漆黒の瞳を向けてきた。

 問いかけな掴めないまま視線を返すと、彼女は妙にハイテンションで言葉を紡いだ。

「なんか、気になって」

 好奇心旺盛な奏多は、ふとした疑問を口にすることが多い。

 この命題は真か偽か。今回、そういったことは求めていない。これまでの議論の幕開けとは違う。

「僕は成立する派だけどな。彼女できたことなんかないから変わるかもしれんけど」

「ね、難しいね」

 いつもより言葉少なな奏多が少しだけ引っかかる。

「八城はどう思ってんの?」

「私も同じ。成立する派、やけど」

「やけど?」

「友達の話やけど、男女の友情は信じないカップルがいて、一方が異性の友達と会ってもう一方にばれてえらいことになった」

「うわ、なにしてたかにもよるけどそれはきつい」

「ただ一時間話しただけで、やましいことはないってさ」

「へえ…………」

  異性の友達と会う、話すだけ。状況がどうにもかぶる。

「八城は大丈夫なの?彼氏さん」

「あー、最初の頃は報告してたんだけど、俺が嫉妬するから逆に言わないでくれって言われた」

「おおう、それってこの現場見られたらどうなんの、浮気なの」

「浮気にならないとは思うよね、きっと。あと交際相手は大学まで二時間かかるとこに住んでるし、こっちとは逆方向だから、このあたりこないしね」

 奏多はコーラの入った容器を持ちあげ、ストローをくわえる。

 左腕には装飾性の高い、星の模様が入った時計がつけられていた。




 舌が痺れる。無理やり飲み込むと、体がふわふわと浮き上がるようだった。

「じゃあそろそろ再開しようか」

 奏多は画面をサントラモードから対戦に戻す。

「え、やるの」

「うん。私もヒロに聞きたいことあるから」

「……………」

 判断力の鈍った頭は、どうしてかゲーム続行を選択した。

 ジュースのようでいて、子供向きでない飲料は自分にはパンチが効いている。

「あっは!なかなか当たんないね」

 ほろ酔いでライフル使いのキャラを操る奏多は、無邪気な子供のようだ。

「ノーコン」

「とかいいつつーさっきから流れ弾にー当たってんやけどそれはどうよ」

 頭がぼーっとして、コントロールスティックの入力が遅れぎみになる。

「わざとですー」

「そーですかー」

 へらへら流していると、業を煮やしたようにコンピューターキャラクターに吹っ飛ばされる。

「あー」

「いぇーい、勝ったあ~」

 久しぶりの勝利に、彼女は万歳をした。

 雲英マウスが宙を舞う。

「雲英マウスー!」

「ナイスキャッチ、ヒロ!」

 二十年ほど共に過ごしたぬいぐるみを救出し、僕は隣の酔っぱらいを盗み見る。本当に、何も悲しいことはないんだというように、奏多は綺麗に笑っていた。

「じゃあ、私の質問タイムね~」

 ごくんと、またチューハイを飲む。

 そうしないと、死んでしまうみたいに。

「広瀬は、好きってなんだと思う?」

 もしくは問うための起爆剤みたいに。

「……僕も、よくわからないよ」

「えー、ひどいーずるいー」

 かわしたわけでも、ごまかしたわけでもない。うまい言葉が見つからないから必死になってまわらない頭を小突く。

「好きって、いつの間にかなってるものなんじゃないのかな」

「んー」

 ゆらゆらと彼女は揺れる。

 僕の視界もぐるぐるまわる。

「八城の好きってどんなやつ?」

「恋愛系って意味なら、一緒にいたいとか、話したいとか、触れたいとか?」

「もう答え出てんじゃんか」

 ティファールに残った白湯を自分のコップに注ぎきり、一気のみをする。

「ただこの年になると、結婚とか意識して、恋愛の延長に結婚があると考えている派だったら、結婚相手としていいと思った人を好きになる可能性もあるよね」

 ゼミにもいた。手早く成果を出すために、分かりやすい結果をまず探してきて、そこから疑問と過程を導き出すような逆パターン。

「答えありき、的な?」

「そうそう」

「それじゃだめなの?」

「相手に対して失礼じゃないかなーって私は思う」

「………………」

 奏多はまたもチューハイをあおった。

「八城は、だれかと付き合いたいの?」

「誰でもいいから付き合いたい、っていうつもりはない。

 この人だって思った人と過ごしたい。ただその理由は依存したい、甘えたいから、なのかもしれない。そういうことに気づいたら好きになるのが怖くなった」

「100%の依存じゃなくて、30くらいにして、あとを趣味とか友達とかに割り振ったらいいんじゃないの?」

「そんなに器用なこと、私にできるのかしら」

「できるよ、八城なら」

「過大評価が過ぎるよ、広瀬」

「正当な評価だと思うよ」

 僕はよろけながらも立ち上がり、ゲームの電源を切った。

「そろそろ寝ようか」

「えー」

「ほら、ベッド使いなって」

 無理やりベッドに押し込めると、やはり小さいなと片隅で思った

「なんか押し倒しなれてる感じがするー」

「そんな経験ありませんー」

「そっか」

「んーなんか僕変なこと口走った気がする」

 キッチンに行って水をがぶ飲みする。

 少しだけ頭が冴えてきた。

「広瀬はどこで寝るの」

「床」

「ベットで寝えよ」

「八城、酔ってる?」

「多分そこそこ」

「そういう台詞を健全な20代男性に言う20代女性ってどう?」

「私は誘ってないしきっと広瀬はなにもせんやろう」

「わからんよ」

「大丈夫、広瀬は好きでもない相手とは関係を持たない」

 ぴしゃりとした物言いに、冷水を浴びせられたような感覚になる。

 奏多は、そんなことがあったような感じで言いはなった。

「……じゃあお言葉に甘えて寝るよ」

「ん」

 背中合わせで布団にもぐる。

 自分の体型、やせ形に感謝する。

 思ったよりも狭くはなかった。

「一応真ん中に雲英マウスいれとくわ」

 奏多は頭のほうにぬいぐるみをおいたものの、背中から下は一部が密着している。

「あったかいね、静香くんは」

「……八城は冷たいな」

「冷え性やからね」

 首を少しだけ動かすと、奏多の不揃いの髪の毛が目に入った。

「……電気消すよ」

「うん、おやすみ」

 部屋は月明かりだけになった。

 身体の関係。

 一番きつかったときに、奏多が望んだ選択肢。

 普段の彼女を知っている身としては、どうしてそんな考えが浮かんだのか、悲しくて、わからなくて。なぜだか苦しくなったことを、昨日のことのように覚えている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ