19 山芋と生姜が見つかりました。
「頭を覗くって? どういうことですか?。」
「そのままの意味である。サブの考えていることをであるな、吾輩が読み取るのである。ああ。心配しなくとも表層のみに絞るのであるからして、気にする必要はないのである。はっはっは。」
私の肩をバシバシたたきながら、朗らかに言うドドスコ。
痛い、痛いよ。…私が今考えているイメージが伝わると思っていいのかな? 説明するのも難しいし…なんだか不安だが…そろそろ炭水化物が欲しいしな…生姜もあれば調理の幅が広がるし…そうだな。思い切ってお願いしてみようか。
「えーっと、私の方に何か準備はいりますか?。」
「準備と言うほどのものでもないのであるが…吾輩に伝えたいことをしっかり考えてくださればいいですぞ。」
私は聞き逃さなかった。小声でぼそっと『そうしなければ余計な所まで読んでしまうのである』と言っていたことを。…なるほど。ということは、私が今どれだけ炭水化物…じゃなくて芋を欲しているかを考えていればいいわけだ。おっと、生姜も忘れてはいけないな。しかし、生姜が自生している地域は日本でも南の方の一部だし、この辺はあまり南っぽい感じがしないし、生姜はあまり期待できないかもしれないな。まあ、芋はあるだろう。あると思う。るといいな。芋、生姜、芋、芋、芋、芋。よし。
「準備はいいであるかな?。」
芋、生姜、芋、芋、芋、芋。芋、生姜、芋、芋、芋、芋。芋、生姜、芋、芋、芋、芋。
「どうぞ。」
私が、そう促すと。ドドスコの手が伸びてきて私の頭をガシっとわし掴みにする。
「行きますぞ。…ふんっ!。」
眼を閉じたドドスコが、気合とともにうっすら光始め、『む、む、む。』とうなり始める。
はっきり言って不気味だ。絵面的にも最悪だろう。光る腰ミノのおっさんに頭をわし掴みにされているおっさん。まあ、女だったらいいというわけではないのだが…。
しばらくすると、光がすうっと消えて目をゆっくり開くドドスコ。
「サブよ。絵面的に良くないのは解るのであるが、不気味は言い過ぎだと思うのであるが?。」
ふぁ? ししししまったあ! …頭を覗かれているんだったぁ!。
「い、いや、そのですね。…ははは…。申し訳ない…。」
ジト目でこちらを見てくるドドスコさん対して、私は目を背ける事しかできない訳で…。
「まあいいのである。吾輩とサブの仲である。許すのである。しかし、サブよ、お主はいつも頭で色々考えているのであるか? 所々漏れていたのである。」
ニカッと笑うドドスコ。
「本当に…すみません。って…え?…あの…どんなことが…。」
ちょっと待って、どんなことが…。シェーラと風呂に入った事か? それとも…、昔のあんな事とかそんな事とかか?。
「秘密である! お返しである!。」
指を一本立ててドヤ顔で言うドドスコ。
そう言われると黙るしかない訳で…。
「ぐ…くぅっ。」
私の顔は、今とても深みのある苦い顔になっている事だろう。
「それでであるな。そのサブの頭にあった、山芋とか言うのと生姜とか言うのには、覚えがあるのである。吾輩の領域に両方あるのである。」
私の苦い顔が一転、喜色に代わる。
「本当ですか!? 山芋と…生姜まであるのですか。どどど何処に!。」
ドドスコの言葉に勢いよく詰め寄る。
本当にあるのか! 山芋はあると思っていたが、生姜の方は正直あまり期待していなかった。両方あるとは僥倖だ。久しぶりの炭水化物だ。こんなにうれしい事はない。ガッツポーズを決めた挙句に小躍りしたい気分だ。やっほうっ!。
「まあ落ち着くのである。今から案内するのである。」
どうどうと私をなだめるドドスコに、鼻息の荒い私。
「早く、素早く、迅速にお願いします!。」
「…こっちなのである。」
と、手を振って、案内を始めるドドスコ。当然私も期待を胸にそれについて行く。
「しかし…あんなものが本当に美味いのであるか? 森の住人達も誰も見向きもしないのである。」
ドドスコが不思議そうに聞いてくる。
ほう。美味いか…ですと? なるほど、なるほど。それでは、説明せねばなるまい。
「美味しいですよ。山芋はすりおろすとねっとりするので米にかけて食っても美味いし、そのままスライスして醤油ってのもいいですね、いい酒のつまみになります。ほかの具材と一緒に煮しめても美味いですよ、よくだしを吸ってくれるのですよ。ああ。刺身にすりおろした山芋をかけても美味いですね。生姜だって、そのまま千切りにするだけで酒のつまみになるし、何より生姜も醤油との相性が抜群にいいのですよ。生姜単体で使うってことはあまりないので、何かと合わせて使うってのが普通の使い方ですね。例えば…今ある猪肉で生姜焼き…なんていいですね、生姜の風味と醤油の合わさったタレがまた絶品でね。そうだ。煮豚…では無く、いまあるのは猪肉ですから、煮猪ですかね、それもいいですね。ああ忘れてました。山芋と言えば…。」
「も、もういいのである。…頭の中と同じであるな。食い物の事ばかりなのである。」
あ。もういいですか、そうですか。まだまだ語れるのですが。
そうして、しばらく歩いていると。
「ここである。」
と、少し開けたところに案内される。
「その山芋とやらは、この蔓の下に埋まっているのである。」
生えている蔓の真下を指差して言うドドスコ。
「おお。あの蔓がそうなのですね。」
おお。なんか見たことあるような無いような蔓が、付近の木に巻きついているな。ここの下か。どれどれ。うん。ここだね。確か…山芋を掘る時は、蔓の根本から結構離れた所から、芋を折らないように丁寧に掘らなければいけないんだっけ? めんどくさいが、芋のためだよ。一丁ガンバルか。そうだ、一応魔眼で確認をしなきゃだな…良し。食えるな。
私がひそかに気合を入れていると。
「これで良いのであるか?。」
そう言ったドドスコの方へ振り向くと、見事な山芋を手にしたドドスコの姿。
「ど、どうしたんですか、それ。」
「ん? 今しがた、採ったのである。」
しかし、付近には掘った後などかけらもない。
「どうやって採ったんです?。」
「ん? こうやって取ったのである。」
ドドスコが蔓の根本に手をかざすと、するすると山芋が出てくる。
どういう事? …って魔法か?。
「魔法…ですか?。」
「うむ。その通りである。土系統の魔法であるな。妖精さんである吾輩にとっては朝飯前なのである。」
胸を張って言い張るドドスコ。
便利だな、魔法。
「では、受け取るといいのである。」
すっと、山芋2本を差し出してくるので。
「ありがとうございます」
素直に受け取る。
1mぐらいのが2本か。今日食う分には十分だな。夕食が楽しみだ。何にしようかな。とりあえずシンプルにゆで芋は確定だから…。後で考えよう。
「もういいのであるか?。」
「はい。これで十分です。」
山芋とったどー!。
「では、生姜とやらの方に行くのである。」
「はい。お願いします。」
私は、意気揚々とドドスコについて行った。
山芋って美味しいですよね。