18 炭水化物がそろそろ欲しい所。
「ん、ふあ~。」
起き抜けに時計を見ると、午前6時22分。…まだ会社に行ってる時の癖が抜けきらないらしい。それにしても、昨日風呂に入れたので気分的には良いのだが…背中が痛い。寝具がそろそろほしいものだ。今度シェーラに相談してみようかな。さて、朝食でも作るか。
私の隣には、昨日モヒードくんが『これはおれいっス。』と言って、置いていった猪の後ろ脚が一本転がっている。結構大きい。
ん~。なににしようかな。サラダは決まっているとして…そうだな、猪しゃぶサラダにしようか。それだとサラダ+って感じで良いな。それにしてもこの辺に生えている、でかくて縦に長いオオバコのような草は本当に重宝する。勿論オオバコも生えているが、断然こちらのほうが使いやすい。味も似たような味だ。それに本家のオオバコよりも灰汁が少ない気もする。…そうだな。たとえるなら、本家が旧ザ〇だとすると、こちらのオオバコはザ〇Ⅱぐらい違う。大本が同じでソレの発展形ってことだな。ひょっとして、この大きいオオバコはカピバラの様に、オオバコが進化したものなのかもな。何が言いたいかと言うと、こちらの世界の両方のオオバコは野菜として美味いと言う事だ。まあ、草なんだがな。…思考が脱線しそうになってるな。まあいい。それじゃあ、取りに行くかな。
扉も何もない玄関から外に出る。眩しい日差しに目を細めつつ、昨日発見したオオバコの群生地に向かう。
あるある。この群生地は大きいから、まだしばらくは大丈夫そうだな。ん? ニラがあるぞ。ここにも生えていたのか。またなにかに使おう。
戻って来た私は早速調理に取り掛かる。
さあ作ろう。…猪の足の解体からだな。さっさとやってしまおう。湯も沸かした方が効率がいいな。
~20分後~
良し、解体完了、湯も沸いたね。じゃあ肉をスライスして、しゃぶしゃぶして、皿にもったオオバコ等草の盛り合わせの上にのせる。冷しゃぶも悪くは無いのだけど、冷やすのがめんどくさいので今回はこのまま。そこに青じそドレッシングをぶっかけると完成だ。うん。美味そうだ。
「いただきます。」
手を合わせて合掌。
パリパリもぐもぐ。う~ん、美味い。しゃぶしゃぶでさっぱりした肉を、サラダと青じそドレッシングでさらにさっぱり食わせてくれる。まさに朝向きの食事。そして、酒にも合うから夕食にもOKのマルチプレイヤーだな。ヨルダンに対するヒルダンって所か、いや、朝だからアサダンだな。うん。美味い美味い。
さて、残りの肉をどうするか…だけど。まだ大分余っているな。保存食でも作る…か? 肉類はシェーラ達の手土産に頼っている状態だし、現状いつもうまいこと肉が手に入る保証もないし。作ってみてもいいな、何がいいかな。ベーコンなら昔作ったことがあるが…ベーコン…は無理かな? いや、自分で食うものだし、それっぽい物でいいか。よし、やってみるか。
そうと決まれば、行動するのみ。思い立ったら吉日ってやつだ。今日の分の肉を残して、ブロックに切り分ける。そして、ブロック肉をコンビニ袋に入れて、その中に肉が浸かるぐらいの醤油を注ぎ込み、塩を適量入れてから、できるだけ空気を抜いて袋の口を縛る。縛ったコンビニ袋の持ち手に木の枝を通して、沈み込まないように水場の端にひっかけてから、水場の冷水の中に漬けて5、6日ぐらいかな? 寝かせておく。
まあ。まずい物には…ならないだろう…と思う。塩が今の所少ないから、醤油に漬け込むことにしたのだが…英断になることを願う。さて、ベーコンっぽくするなら少し乾燥させた後、燻製にすべきなのだが…燻製機がない。…今頃気が付いたよ…。どうしようかな。以前自家製ベーコンを作ったときは燻製機を使ったのだが…ここにそんな上等なものは無い。煙でいぶすだけなのだが、温度が高すぎると、焼きを入れることになってしまって失敗する。それはそれで美味いし、食えないことは無いのだが。…まあ後1週間ぐらいあるから、それまでになにか考えようか。時間はたっぷりあることだし、最悪何も考え付かなかったら表面を炙るだけにしてもいいわけだしな。
一段落したので、う~んと、伸びをする。
それにしても、そろそろ炭水化物が食いたいなあ。ここの所、酒のつまみか、サラダばかり食ってたからな。米…なんて贅沢は言わないから、せめて芋とか…そうだ、山芋はどうだろう、あれならこの辺にも自生していそうだな。あれをゆでると、里芋っぽくなって美味いんだ。…ああ駄目だ。芋の部分が解っても地上に生えてる部分が解らない。……そういえば…ブロッコリーの妖怪が『吾輩に用がある時はその辺の木に向かって要件を言えば伝わるのであるからして、そのようにお願いするのである。』とか何とか言っていたな。ダメ元で聞いてみようかな。
「すみません。ドドスコさんはいらっしゃいますか?。」
近くの木に向かって話しかける。
…誰もいないからいいが、はたから見たらただの頭のおかしい人だよな。
などと考えていると。
「呼ばれて飛び出てまいりましぞ。何用であるかな? サブよ。」
と、話しかけた木からドドスコがにゅるっと生えてくる。
ああ。やっぱりそういう出方になりますよね…帰っていくときも木でしたものね。貴方、本当にあのエルフの方々と同じカテゴリーに含まれる妖精族なんですかねえ。しかも木の妖精族と森の妖精族って割と近しい関係っぽいじゃないですか。とてもそうは見えませんが…それに貴方、解説をやっていた時しれっと私の悪口も言ってませんでしたっけ? それも踏まえて、やっぱり貴方は、妖怪って表現が一番私の中でしっくりくるのですよ。…っと、いかんいかん。また思考がそれていっているな。修正修正。ああそうだ。ついでに生姜もあると嬉しいのでこれも聞いておこうかな。米などと違って、生姜ってその辺に自生しているイメージがあるのは、私だけかな? まあ、見た事は無いのだけど。そもそも、地下茎は地上に生えてる部分が解らないと判断のしようがないものな。
「え、ええ。あの、山芋…それと生姜ってご存知ですか? もしご存知でしたら群生地を教えて頂きたいのですが。…わかりますか。」
つっかえながらも聞いてみる。
「? 山芋? 生姜? とはなんであるか?。」
眼をはてなマークにして、首をひねるドドスコ。
ああ。まあそうだよな。よく考えると山芋、生姜は前の世界の名称だから、この世界で通じるわけがなかったよ。まあ、カピバラは同じ名称だったので多少は、通じる事を期待していた所もあったりなかったり。
「ええっと、山芋は、白くて、長くて、塗るっとしていまして、根っこの部分なんですけど…生姜は、これも同じ根っこの部分で…黄色っぽい色で、…。」
私がしどろもどろ説明をしていると。
「皆目解らぬ。」
説明途中でドドスコに打ち切られる。
「解らぬので、サブの頭を覗かせてもらいたいのであるが、いかがかな?。」
ドドスコが、顔をズイっと近づけて聞いてくる。
近い! 近いよ。え? それとなんだって? 頭を覗きたい? え?。
「は?。」
どういうことか判らない私は間抜けな返事をすることしかできなかった。
山芋はゆでると美味しいです。