17 風呂はいいものだね。
しまったな…どうも私はこういう失敗が多い。鳥皮煎餅に失敗したのなら、どうして鳥皮串(塩)にしなかったのかと。そこで鳥皮を照り焼きにしてしま所がどうにも私らしいと言えばらしいのだが、鳥皮煮と照り焼きでは味が似通ってしまうのだ。そこをわかっていたというのに、あえてやってしまった。…まあ。醤油ベースの味は酒に合うので今回はよしとするが、次からは気を付けよう
さて、改めて戦争中の二人に目を向けると。
「いい加減あきらめるのじゃ。」
「だから。これは、サブさんが、オ・レ・に・く・れ・た・も・のっス。」
二人とも、顔を突き合わせて、まだまだ継続中の様子。なので。
「もう出来たから。そんな未完成品を取り合ってないで、こっちに来ないか?。」
声をかけると。
「わかったのじゃ!。」
「ホンとっスか! 了解っス。」
と、二人とも勢いよく振り向いて、こちらにやってくる。しかし、私は見逃さなかった。モヒードくんが一瞬目を離したスキに、素早くシェーラが、試食鳥皮煮を口に放り込んだ事を…意地汚いな。それに遅ればせながら気が付いたモヒード君が、やられたっ! と言う顔になり。
「村長ー!。」
「にゅっふっふ。油断した、お前が悪いのじゃ。美味いのじゃ〜。」
ドヤ顔のシェーラに対して、心底悔しそうなモヒードくん。
「いやいや。ここにたくさんあるから…何でそんな物を取り合ってるんですか…。」
私は、皿に盛った、おつまみセットを見せる。
「そ…それもそっスね。村長が意地汚いのは今に始まったことじゃないっスもんね。」
悔しそうな顔のモヒード君。
…君も十分意地汚いと思うぞ。
「負け犬の遠吠えなのじゃ~。」
そこでまた、あおるシェーラ。
…君は意地汚い上に大人げないな。ほっとくとまだまだ続きそうなので。
「そろそろ、風呂に湯を張ってくれないだろうか?。」
と、提案してみる。
「そうじゃな。」
「これ以上は不毛っスね。」
解ってくれたようで皆で一緒に風呂の方へ行く。改めて見ると、やはりでかいな。直径5mは広すぎる気がする。
「まずは水を入れるのじゃ。」
シェーラは、風呂の方に手をかざし、目を閉じて集中する。すると、その手からもの凄い勢いで水が吹きだし、30秒ほどで十分な量の水がたまる。
「ふう。次はこれなのじゃ。」
と、言うと同時に、右手を上に付き出し、その手の中に火球を作る。
へ~。やはり魔法とは便利なものだな。…しかし火球の色が赤とか青を通り越して白に見えるのは私の気のせいかな…物理法則が同じなら多分、湯を沸かすどころの話じゃなくなると思うのだが…。うんまあ。あの火球が見た目通りの物ならこんなに近くにいる私達に届く熱気がこの程度のはずがない…ものな。ははは。
「村長。その火球、なんか熱すぎやしないっスか? その熱量じゃあ、湯を沸かすどころか、全部蒸発するどころか爆発してしまうっスよ。」
私が心配していた事をモヒードくんが代弁してくれる。…爆発??。
「…あ。…すまんのじゃ。よっと。」
シェーラは、失敗失敗と小声で言うとすぐに火球の色は赤になる。
…ひょっとして、水蒸気爆発する所だった? …まさかな…。
「じゃあ。放り込むから下がるのじゃ。」
私たちが下がると、それを確認したシェーラが火球を風呂に投げ入れる。すると、ボシュと音がして、はじけた火球が消えると、風呂からもうもうと湯気が立ち上がる。
「どれどれ。」
私が、温度確認のために行く。始めは、指先、大丈夫だと解ると手を入れる。
「いい感じに沸いていますね。これなら大丈夫そうです。」
振り返り、大丈夫だと告げる。
「よおし。さっそく入るのじゃ。」
と、その場で脱ぎ出そうとするシェーラ。
「ちょおっとっ待ったー! 何いきなり脱ごうとしてるんですか!。」
焦りながら止める。
「? 体を洗うのじゃから服を脱ぐのは常識なのじゃ。なにを言ってるのじゃ?。のう、モヒードよ。」
「そうっスよ。サブさんが言った事じゃないスか。今更何言ってんスか。」
二人に不思議そうに言われる。
…? あれ? 私が間違ってるのか? モヒードくんも止める様子が無いし…あれ?。
「シェーラさんは恥ずかしくないのですか?。」
「…ああ、なるほどなのじゃ。そんな事を気にし無くてもいいのじゃ。村では皆、気にしてないのじゃ。水浴びは皆裸なのじゃ。」
合点がいったという顔をするシェーラ。
「そうっスよ。村ではみんな一緒に体を洗いに行くっス。常識っスよ。」
…常識か。…常識…なら…いいのか? 幸いと言っていいのか悪いのか、シェーラの体つきはかなりのお子様体形と言うか…下手したら…幼児体形? …これ以上は本人の名誉のために考えるのをやめよう。だからいやらしくは無いよ。…1200歳と言っていたけどな。モヒード君も気にしていないようだし…。
「それじゃあ。私もご一緒していいですか?。」
「いいに決まっているのじゃ。サブが入らないと、酒もつまみも出ないのじゃ。いやと言っても一緒に入ってもらうのじゃ。」
「そうっスよ。ここはサブさんの家じゃないっスか。家主が遠慮してどうするんスか。」
遠慮がちに聞く私に、どや顔のシェーラと、仕方ねえなと言う顔のモヒード君。
「話もついた所でさっそく入るのじゃー!。」
スパーンとル〇ンの様に一気に脱いで飛び込もうとするシェーラ。
「ちょっと待ったー!。」
すかさず止める。裸ん坊が目に入るが、それどころではない。
「入る前には、体をかけ湯で流す! これ、常識! 湯が汚れるでしょう!。」
勢いよく、少々きつく言うと、シェーラはびくっとなり。
「わ、わかったのじゃ。」
と、かけ湯をし始める。
私は見逃さなかった。同じくかけ湯をしないで入ろうとして、ビクっとしたモヒード君の姿を。私がジロっと見ると、彼もいそいそとかけ湯を始める。
「「おふー。」」
湯に浸かると、二人の声がはもる。
「どうです? 良い物でしょう?。」
二人の顔を見ると感想は聞くまでも無いのだが、一応聞く。
「はふ~。極楽なのじゃ~。確かにこれは良い物なのじゃ~。」
「確かにいいものっスね。聞いたときは何言ってんだっておもったっスけど。…う~。しみるっス。」
思った通りの反応に私の気分も良くなる。さて、それじゃあ、酒とつまみを持って来て、私も入らせてもらおうか。
いそいそと取りに行き、私もゆっくり浸かる。
「ヴあぁ~。」
く~。いいなあ。久しぶりの風呂だ~。あったかい湯が身に染みるな~。こういう時はやっぱり自分は日本人だなと思うよ。風呂に入る時にうなる奴はおっさんだって言うけど、仕方ないんだよ~出るんだから。まあ、おっさんだしね~。
「はい。お待ちかねの酒と、つまみですよ~。」
持ってきた、つまみと酒を近くに寄せる。
「お待ちかねなのじゃ。」
「これこれっス。待ってたっス。」
二人にコップを渡し、酒を注ぐ。
「おっとっとなのじゃ。」
「やっぱりいい匂いっス。」
二人に注ぎ終わったら、私のコップにも酒を注ぎ。
「「「カンパーイ。」」」
カツンと杯を合わせた後、呑む。
は~。美味いな。風呂と酒。この組み合わせはてっぱんだな。さて、つまみの出来はどうかな。…鳥皮煮は美味く出来ているな。コラーゲンがいい感じにとろみを出していて、美味い。酒に合うな~。基本的に醤油味は酒に合う。照り焼きはっと。…うん…うまいっちゃあ美味いのだが…味付けが基本、鳥皮煮と同じだからな。やはりダブってしまった感が強いな。…美味いは美味い。レバ串はどうかな~。
そこでこちらをじっと見てる視線が二つあることに気が付く。
「どうしました?」
「それはなんじゃ?。」
「それなんスか?。」
二人の視線はレバ串に注がれている。
これは、1串しか無いし…癖の強い物だから、普通にあまりお勧めしない物なんだけど…。
「レバーですけど…、これは万人受けはしませんから……あー…食べます?。」
無言の圧力に負けてしまった私は、串からひとつづつ抜いて、渡す。
「ん? あうあう。これは無しなのじゃ~。」
酒をくいっと飲んで、口内の味を消そうとするシェーラ。その後に、鳥皮の照り焼きを急いで口に入れている。
「お? これは、中々いけるっスね。美味いっス。でもこれは、この酒じゃなくて、エールの方が合いそうっス。」
解ってるねえ。モヒード君。そして、やはり感想は真っ二つに分かれたか。お子様口には、レバーは合わないようだな。ん? 今エールって言ったか? そうか、エールがあるのか。今度分けてもらえたら分けてもらおう。
それを横目に見ながら、私もレバーを口に入れる。
うん。美味いな。タレでもよかったのだが、ここはあえて塩にした。タレばかりになるからな。しかし英断だった。美味い。お子様口には合わないだろうが、美味い物は美味い。次はお浸しだな。むぐむぐ。おお。普通のお浸しだ。オオバコ、侮りがたし。…もうちょっと醤油をたそう。…醤油を垂らしてっと。むぐむぐ。美味い美味い。こういうのもいいな。鳥皮は油が多いからな、こういうのがあると口内がさっぱりしていい。おお。イタドリも意外と口内をサッパリさせるのに一役かってるじゃないの。ふ~。酒が進むな。
横を見ると皆、それぞれに風呂を楽しんでいる様子。空を見上げると、まだ薄明るいが、月が3つ出ている。
奇麗な月を見ながら露天風呂で酒を呑む。うん。いいね。
やっと風呂に入りました。