16 おつまみを作ろう。
さて、風呂で一杯やるために、酒のつまみを作りますかね。…何がいいかな…と言っても、鳥のレバ串と鳥皮煎餅に鳥皮煮とオオバコのお浸し…ぐらいしか出来ないな、肉は全部くってしまったからな。レバ串は、レバーが1羽分しか無いのでいいとこ一串。メインが鳥皮煎餅と鳥皮煮で良いかな。付け合わせはオオバコのお浸しで。これでいいかな、重たくないし。よし、そうと決まれば、まずはオオバコを取ってこようか。
「シェーラさん。私、ちょっと出てきますけど、どうしますか?。」
「んー。儂はここで待ってるのじゃ。留守番は儂にお任せなのじゃ!。」
そう言うとシェーラは、ビシッと右手を挙げた後、ひらひらと手を振って小屋の中へ入っていく。
眠くなったのかな? 腹8分目みたいなことを言っていたが…まあ、腹8分目でも眠くはなるか。そういう事なら、一人で行くとしよう。ドドスコの領域の中なら魔物は出ないであろうから大丈夫だろうと思う。オオバコならその辺に生えているしな。…と思ったけど、見える範囲には無いな。…ああそうか。ははは。この辺のは、大体私の腹の中か。1週間も続けて食ってれば、無くなりもするか。じゃあ、いつもと違う所を見てくるかな、近くに生えてるだろ。
いつもとは違う茂みの方へ、がさがさと入っていく。
おお。あるある、やっぱりね。オオバコは繁殖力が強いからな、群生地が割とあるから助かる。ん? あそこにあるのは、イタドリじゃないか。そういえば、ここに来て始めぐらいの時に一度見つけてたっけな。丁度いいからこれもとっていこうか。子供のころに食った切りだな。…懐かしい。しかし…酒には合わないだろうな。そういえば…漬物にすると美味いと聞いたことがあるぞ。うん、今度試してみようか。今回は少量で良いかな。
お浸しにするための、オオバコは多めに摘んで、イタドリは3本ぐらいにとどめておく。
さあ、戻って色々と下ごしらえをして、つまみを作っていこうか。
まず鳥皮煎餅だ。皮を3㎝角に切っていく。10枚ぐらいでいいか? それを奇麗に洗ったら、大き目の葉の上に並べていき、その上から塩を少量振る。よし。これでしばらく放置だ。時計を見ると、午後5時22分を指している。…思ったより時間がたっているな。
次は鳥皮煮だ。と思ったが、鍋が一つしかないので、先にオオバコのお浸しを作ろう。鍋に水を張って少量の塩と、適量の酒を入れる。沸騰するまで沸かしたら、オオバコを投入。軽く湯がいたら取り出して、水で締めたのちそれを絞る。後は食べる前に適当な大きさに切って完成だが、切るのは食べる直前で良いだろう。
よし。鳥皮煮に取り掛かろう。鍋に水を入れてその中に、醤油、酒、蜂蜜を適量入れる。酒を多めに入れるのが私の好みだ。沸騰してきたらそこに残りの鳥皮を適当に切って投入。適当な時間、煮詰めたら、火から離して放置しておく。
次に、鳥皮煎餅を焼こうと思い、フライパンを火にかけると、後ろの方の茂みから、ガサガサっと音がする。目を向けると、鮮やかな金色の見事なモヒカンが目に入って来た。モヒードだ。
しかし、この人さすがエルフだけあって顔立ちは整っているし、狩人として鍛え上げられた体は適度に引き締まっている。モヒカンでかつ毛皮ベストじゃなければ、かなりカッコいいと思うのだが…。
「お。サブさんじゃないっすか。こんちっス。うちの村長来てないっスか?。…で…何やってんすか? またなんか美味い物でも作ってるんすか? すっげえいい匂いがするんスけど。」
どうやらシェーラを探しに来たらしい。それとも匂いにつられて来たのかいな。因みにモヒードとは例の宴会の時に『すげえっス! リスペクトっス!』と、纏わりついてきたので、そこから妙に仲良くなった。
「ん? シェーラさんなら、うちで寝てると思いますよ。それと、今、鳥皮煮を作っている所なんですよ。モヒードさん、ちょっと味見してみます?。」
竹を削り出して作った菜箸で鳥皮煮を1つ摘んで渡そうとした所で。
「あー! ズルイのじゃ! 儂も欲しいのじゃ!。」
と、駆け寄ってくる食いしん坊。しかし、モヒード君と目が合った瞬間ピタっと止まる。
「村長~。やっぱりここにいたんスね。仕事もしないで何やってんスか。早く戻ってきて下さいっス。」
ジト目のモヒードくん。
「い…いや。あの…。その…。これは…アレなのじゃ。アレでソレなのじゃ。」
あたふたと言い訳にならない言い訳をする、サボっていたことが発覚したシェーラさん。
仕方ない。私も久しぶりに風呂に入りたいし、少々助け船を出すことにしよう。
「その仕事は急ぎですか? 急ぎでなければ後に回してもいいのでは?。」
「急ぎ…では無いっスけど、割と溜まってるんッスよね。」
あ~。溜まっているのですか。それは…どうにもできないかな…。
「いいい急ぎじゃないのじゃから、今日じゃなくてもいいのじゃ。今日は風呂に入って酒なのじゃ。…そうじゃ! モヒード。お前も風呂で酒なのじゃ!。」
私が言い澱んでいると、シェーラが割り込んできた。
何を言ってるかは解るが、風呂云々は先に家主に話を通す物じゃないのかねぇ。別に良いのですが。
「何を言ってるかわかんねっスわ。なんスか、風呂って?。」
そこで私が、これまでの経緯を説明すると。めっちゃ食いついてきた。
「いいんスか! 俺もご相伴にあずかっても? 湯で体を洗うってのは、わかんねッスけど。サブさんの酒は美味いからぜひ呑みたいっス! 俺もいいスか? サブさん。」
眼を輝かせたモヒードはかなり乗り気だ。いいのか? 溜まってる仕事は。
「ええ。構いませんよ。しかし、仕事の方はいいのですか?。」
ついこの間まで会社勤めの身だった者として、一応心配してみるも。
「やたー! 急ぎじゃねぇスから大丈夫っス。どうせ困るのは村長っス。」
本人目の前にして、身も蓋もないことを言うモヒードくん。しかし、当の本人も。
「そ、そうなのじゃ! 急ぎじゃないのじゃ! だから大丈夫なのじゃ!。」
と、特に気にしていない(わかっていない?)ご様子。ま、私は風呂に入れればそれでいいのだけど、それでいいのか? お二人さん。
「それはそれとして、これ(鳥皮煮)は儂のじゃ。儂が捕って来た鳥なのじゃ。」
「そうはいかないっス。これ(鳥皮煮)はサブさんが俺にくれた物っス。」
私が菜箸で掴んでいる鳥皮煮をはさんで戦争始まりそうだったので、消毒済みの葉の上に、そっと鳥皮煮を乗せて下に置いた。
「ここに置いておくから。」
一応、一言断ってておく…が、二人はにらみ合いを続けているので、そっとしておく事にして、料理に戻ることにする。
さてと、鳥皮煎餅だが、菜箸を2対用意する。そして、フライパンを火にかけて熱した後、サラダオイル替わりの鳥皮を投入して、油をひく。サラダオイル替わりにした鳥皮は、まるまってしまうのでその場で食う。…うん美味いな~。そして、油がなじんだら、鳥皮を再度1枚投入。今度は、まるまら無いように4隅を抑えて…駄目だ。抑えてない所がまるくなってくる。失敗。これも食う。…味付けがほぼ、だぶってしまうが…照り焼きにするか。食いたかったな…鳥皮煎餅。…気持ちを入れ替えて、フライパンに鳥皮を投入して、多めに酒、醤油、蜂蜜を投入して、煮詰める。そして、焼きを入れれば完成だ。鳥皮煎餅は、また今度作ろう。
時計を見ると。もう午後6時30分を回っていた。
まだ明るいけど、月はもう出てるな。そろそろ仕上げるか。わきにどけて置いた、レバー串を焼き、塩を振る。そして、お浸しをカットして、醤油垂らす。鳥皮煮を再度火にかけて、もう少し煮詰める。おっと、忘れてた。イタドリの皮をむいて適当にカットする。そして、それ等を皿に盛り付ければ、おつまみセットの完成だ。
さて、そろそろ風呂を沸かしてもらいましょうか。と、まだ鳥皮煮を挟んで、にらみ合っている二人の方に私は、目を向けた。
イタドリの味が思い出せない。