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異世界移民  作者: 大福男
15/53

15 風呂の完成と鳥の照り焼き。

 あの乱痴気騒ぎから1週間。私の生活環境は少し変化していた。あの騒ぎの後シェーラが、『約束のものなのじゃ。』と言って、鍋、フライパン、上下セットの衣服(Tシャツと綿パンのような物)×3、食器類、塩(1瓶)、蜂蜜(1瓶)を大き目の桶に入れて渡してくれた。ありがたい、ありがたい。これがあるだけで全然違うな、特に蜂蜜はありがたい。甘味は本当にありがたいよ。


 それから、小屋の中の掃除も済ませ、やっと住める状態に持ってこられたのが3日前。まだカブトムシの匂いは残っているが、腐葉土は全部外に出した。竹と思われる物を見つけたので、竹と木の蔓で簡単不格好な竹箒を作れたのが大きかった。屋根があるって素晴らしい。当然、窓も玄関も空きっぱなしなのは変わっていない。私に、木工技術が無いのでどうにもならないんだな、これが。寒くなる前にはどうにかしたいとは思っている。窓と玄関はそのうちシェーラにでも相談してみようかな。


 それと、お風呂環境は改善していない。桶があるので、水浴びは出来るようにはなったけど、それだけ。


 「あ~。風呂に入りたいな~。」


 思わず声に出してしまう。


 「風呂? 風呂ってなんなのじゃ? 新しい料理か?。」


 独り言のつもりで発した言葉に返事があったので驚いて、振り返る。そこには、いつの間に来たのか、村長さんこと、シェーラが立っていた。そうそう、シェーラもあれから、ちょくちょく飯をたか…遊びに来るようになった。いつも手土産を持って来てくれるので何かと助かっている。


 「儂が来たのじゃ!。」


 いよっとばかりに右手を上げるシェーラ。左手には来るときに捕って来たのであろう、見た事のない山鳥が握られている。


 「いらっしゃい。」


 独り言を聞かれた気まずさから、苦笑いで歓迎する。


 「お土産なのじゃ。」


 シェーラは、気にする様子もなく、山鳥を渡してきたので受け取る。時計に目を向けると、針は12時12分を指しており、丁度お昼時である。なんか作れってことかな。


 「いつもありがとうございます。」


 私は、いい大人だからきちんとお礼を言う。


 「どういたしましてなのじゃ。…ところで、風呂って何なのじゃ? 美味いのか?。」


 新しい料理か何かと勘違いしているのであろう、鼻息を荒くして聞いてくる。


 風呂は食い物ではありません。


 「ん? ああ。いや。風呂っていうのは、ぬるめの湯を大きい桶にためて体を洗う…であってるのか? …まあ、そういう所の事ですよ。」


 と、説明する。


 「ふーん、なのじゃ。体を洗うなら水で十分なのじゃ。わざわざ湯を沸かすのが面倒なのじゃ。」


 ヒューンと一気にテンションの下がるシェーラ、しかし。


 「湯に浸かって呑む酒は格別に美味いんですがね。」


 私のこの一言でシェーラのテンションが一気に上がる。彼女はアレ以来、私と同じ大の日本酒党にクラスチェンジを果たしているのだ。


 「なにゅう! それを早く言うのじゃ! で、どうやるのじゃ。」


 途端に食いついてくるシェーラ。


 「え? どうとは?。」


 「じゃから! 風呂を作るのじゃ。今! ここに! すぐ!。」


 手をわきわきさせながら興奮気味で答えるシェーラ。


 「ああ。さっきも言ったように、大きくて浅い桶があればそこに湯をためられるから…。」


 でも湯を沸かさなければならないからどうしましょうか。と言い終わる前に。


 「わかったのじゃ!。」


 とシェーラは、トゥーンアニメの様に外に勢いよく飛び出て行った。


 「おいおい。」


 私も続いて外に出ると、すでに直径5mぐらい高さ1m弱ぐらいの立派な土の風呂と言うか、プールが完成していた。


 魔法で作ったのだろうな。…便利だな、魔法。


 「出来たのじゃ!。」


 私にⅤサインをするシェーラ。


 「すごいですね。こんな一瞬で。これ、湯を張っても土は崩れてこないのですか?。」


 「大丈夫なのじゃ。固定してあるからもう一生このままなのじゃ。」


 ふんすと鼻を鳴らしながらドヤ顔で答えるシェーラ。


 一生って。


 「で、湯はどうやって張るのですか?。」


 「魔法で水を入れてから、火球を落とすのじゃ。」


 あー。魔法前提ですか。がーんだな。私に自分で、風呂を沸かすのは無理だな。しかし、これ…どうやって排水するのだろうか?。


 「この風呂、排水はどうするのです?。」


 素朴な疑問をぶつけてみる。


 「はいすい?。」


 こてんと首をかしげるシェーラ。


 「湯をどうやって捨てるかって事ですよ。」


 成程。といった顔になり、ぽんっと手をたたいたシェーラは、竹林の方へ走っていき、竹を輪切りにしたものをもって帰ってくる。そして、風呂の壁面の下の一部に穴をあけて、とって来た竹を差し込んだ。 

 「これで大丈夫なのじゃ。」


 ああ。そこら辺はアナログなのね。魔法的なものでどうにかするのかと思ってたよ。なるほど。


 「出来たのじゃ! さっそくはいって酒を楽しむのじゃ!。」


 シェーラは、右手を大きく上げて宣言する。


 「やる気満々なのは良いのですが、今からっていうよりは月見酒の方が風情があっていいですよ。」


 予定外の露天風呂が出来たのだ、月見酒としゃれこもうじゃないか。まあ、一番風呂は譲るとしようか、作ったのは彼女だからな。


 「ん? そうなのか? じゃあ。夜まで待つのじゃ。でも、その前に昼食をた・の・し・み・に待ってるのじゃ~。」


 と、素直に頷き、『儂は仕事をしたのだからお昼は期待してるのじゃ。』という表情で私を見てから、小屋の方に入っていくシェーラ。それを見ながら、私は苦笑いで山鳥の調理に取り掛かる。


 「ははは。じゃあ今日は、鳥の照り焼きにでもしましょうかね。」


 鳥の下処理からだな。血抜きは…しているようなので、まず羽をむしって、内臓を出す。そして適当に解体する。この辺は昔、猟師の助手のバイトの経験から、お手の物だ。今回使うのは、もも肉と胸肉。それと、私が後で個人的に楽しむ鳥レバー。鳥皮も後で使うので、丁寧にはがしていく。そして、蒸し焼きにしなければならないので、大き目の葉を森に取りに行き、準備完了。レバーと鳥皮の大半は、夕飯に使うので葉に包んで涼しい所に避けておく。


 外にあるカマドに火を起こす。カマドはシェーラが乱痴気騒ぎの次の日にやってきて、魔法で作ってくれたものだ。本当に魔法って便利だな。


 そして、フライパンを火にかけ、脂をひくため、鳥皮の一部を落とす。脂がなじんできたら、鳥のもも肉をカットしたものを焼いていき、ある程度火が通ったら酒を少々多めに、醤油、蜂蜜を適量加え、大き目の葉で蓋をし、フライパンを火から遠ざけたり近ずけたりしながら、蒸し焼きにする。ある程度タレが煮詰まったら、蓋である葉を取り除き、少し焦げ目がつくまで焼いていけば完成。この工程を胸肉でも繰り返す。そして、大皿の上に酒で洗ったオオバコをサラダ替わりに多めに敷き、照り焼きを盛り付けていけば、完成だ。


 完成した所で、玄関の方に目を向けると、待ちきれない食いしん坊がこちらをじーっと見ていた。皿を上下に動かすと、視線が付いてくる。


 「遊んでないではよっ。はよっなのじゃ。相変わらずサブの作る物はいい匂いなのじゃ~。まちきれないのじゃ。」


 はよせいと催促してくるので持って行く。


 ここの所ずっと料理ばかりしていて、他人の作ったものを食べていない。美味いからいいのだが、たまには、他人の作った食事も食べてみたいものだ。私は食べる専門だったのだがね。はっはっは。


 「はい、おまちどうさま。」


 と言い、小屋に入り、床に置く。


 テーブルがないからな。…テーブルも欲しいな。まあ、外にはあるんだがな…石の板だけど。文化的生活はまだまだ遠いなぁ。


 「ぬほっ。待ってましたのじゃ。」


 「「いただきます。」なのじゃ。」


 手を合わせて、二人同時に言う。


 さて、出来はどうかなっと。はぐ、もにゅもにゅ。うん。照り焼きだ。照り焼きって感じとは少し違うが、まあそういう感じの照り焼きだ。うまく出来てる。…米が欲しいな。酒…は昼間だしやめておこう。もも肉は、やはり少し脂っぽいな。私的に胸肉の方が好みだな。さっぱりしてる。


 ふと、思いついて、オオバコで巻いて焼肉の様にしてみる。


 …おお。思った通りだ、美味いな。ふむ…このやり方ではもも肉の方が美味いな。…米が欲しいのには変わりないが、思ったよりあっさり食えるぞ。美味い美味い。


 「うんまーいのじゃ。このタレが甘辛くて最高なのじゃ。こっちの肉の方がこってりしてて美味いのじゃ。でもこっちの肉もまけず劣らず、美味しいのじゃ~。」


 シェーラの方を見ると、両手でフォークを持ち、片方ずつ照り焼きを刺して、次々と口内に放り込んでいく。食べては、だらしない顔でニコニコ笑いながら幸せそうに食っている。


 ここまで美味いと言ってくれると、やはり悪くない気分だよな。


 「お代わりなのじゃ!。」


 と皿を出してくるが。


 「もう無いです。」


 と私が、言うと、ガーンと吹き出しが出ているような顔をするシェーラ。


 「また夜になにか作りますから、それまで待ってくださいね。」


 と私が言うと。


 「仕方ないのじゃ。晩御飯のためにお腹のスペースを開けておくのじゃ。」


 と、納得? してくれた。


 さあ、今晩は久しぶりに風呂に入れるな。思いがけず露天風呂になったが、それはそれでいいものだ。今晩が楽しみだ。

照り焼きですが、みりんが無いので酒を多めに入れています。

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