14 続・もつ鍋は美味しいのです。
さあ。完成したし、このドームを取っ払ってもらわないといけないな。これのせいで、この食欲を刺激しまくる匂いが全然伝わらないのだから。っとその前に味見をしてみないとね。
鍋の蓋を取って少しだけ食べてみる。
……いかん、一瞬呆けてしまった。うっま、ナニコレめちゃくちゃ美味いよ。もつ鍋ってここまで美味かったっけ? いや、もつ鍋自体は美味いのだけど…これはもう次元が違う美味さだね。GK…だからなのか? これはもう世界が泣くレベルだよ。味〇様だって海を割っちゃうくらいの美味さだよ。…う~ん、もっと食っていたいけど完成を知らせるかな。…後で絶対に同じものを作ろう。
私は、大きく手を振って完成したことをアピールする。
顔を見合わせて、ザワザワしだす観客達。
「ああーっと! 完成! 完成したもようです! 果たしてどんな風になっているのでしょうか。正直、私は不安しかありませんが、そこの所はどう思いますか? 解説のドドスコさん。」
「ぬぬう。今まで見た感じでは、美味そうな要素がかけらも見当たらないのであるが、しかし! だがしかしなのである! サブはこの世界に美味い物を求めてやって来た強者であるが故、不味い物を出すとは、考えにくいのである。しかし…ぬぬう。」
不安顔で聞いてくる解説者に、顔をしかめるドドスコ。
「なるほど。ありがとうございます。果たして! 謎の料理人サブの作った料理とはどんなものかー! さあ! 風のドームを取りますよ。いいですか? 皆さん。覚悟を決めてください。行きますよ! 3!。」
指を3本立ててカウントを始める実況者。
「「3!。」」
観達も指を3本立てて、一斉にカウントを始める。本当。ノリのいい方々である。
「2!。」
「「2!!。」」
「1!!!。」
「「1!!!!。」」
「ゼロ―!!!。」
ワー!! と歓声が上がる。
実況者のゼロカウントと同時に風のドームがすうっと無くなる。そして、歓声を上げた後、一斉に鼻を摘む観客の皆様方。シェーラの方を見ると、鼻をつまむことも許されず、審査員席でがっちりとモヒカン(狩人)達にホールドされてジタバタもがいているのが見える。当然、実況席の二人も鼻をつまんでいる。
シェーラの奴、逃げ出そうとでもしたのかいな。美味しいから大丈夫だってのに。ふっふっふ。このもつ鍋で、お前らの目を覚まさせてやるよ!。
風のドームが無くなることで、ふわっと、もつ鍋のいい香りがキッチンスタジアム中に広がる。これに初めに気が付いたのが、当然鼻をつまんでいないシェーラとモヒカン(狩人)達。
「ほわっ?! なんじゃ? …いい匂いなのじゃ。」
シェーラが信じられないという顔でつぶやく。
「え? …あれ? 臭くねえっすよ。ってか、めちゃめちゃいい匂いっす。」
と、モヒードも呟くと同時に、他のシェーラを拘束していた、モヒカン(狩人)達も。『ホンとだ。』『臭くねえ。』とザワザワし始める。そして、そのモヒカン(狩人)達の反応を見ていた、実況者が恐る恐る鼻から手を放す。
「これはすごい!! 何と言ういい香り! 何と言う芳醇な芳香!! 素晴らしい香りです! これがあの臭い草と内臓の合わせ技とはおもえませーーーん!! これは一体どういう事なのでしょうか? 解説のドドスコさん。」
その場から立ち上がり、興奮気味に隣のドドスコに解説を求める実況者。
「うむ! 皆目わからぬ!。」
自信満々に答えるドドスコ。
「ありがとうございます。これはひょっとしたら美味しいのではないかと、期待せずにはいられません!。」
実況を聞いた観客達も恐る恐る鼻から手を放し始め、その香りを鼻にした瞬間、ワー! っと湧き上がり『いっーせかーいじーん!』『いっーせかーいじーん!』と異世界人コールが沸き起こる。
ふふふ。そうだろう。そうだろうともさ。いい匂いだろう。と、シェーラの方に目を向けると、早く持ってこいとばかりに、フォークとスプーンを握りしめて、ブンブン手を振っていた。…変わり身が早すぎるだろうよ。待ってなさい。今持って行ってあげるから。っと忘れてはいけない。この酒も一緒に味わってもらわなければね。
と、コップに酒を注いで、シェーラの所に鍋と共に持って行く。
「おおー。来た来た。来たのじゃ。」
フォークとスプーンを持ったまま手を振る行儀の悪いお子様…に見えるシェーラこと村長さん。
「はい。お待ちどう。」
モツ鍋を小皿にとりわけ、コップ酒をその横に置く。
「これはなんなのじゃ?。」
と、私を見上げながら酒を指差してくるので。
「お酒ですよ。この料理にすっごく合うのですよ。」
私が答えると。
「おおーっと! ここであの透明の液体の正体が解りましたー! 何と、酒! 酒の模様です! しかし、あのような無色透明の酒など私は見たことも聞いたこともありませんが…。そこの所はどうなのでしょうか? 解説のドドスコさん。」
「ふむ。考えられる事は一つであるな。異世界の酒。これであろうな。間違いないのである。」
したり顔で答えるドドスコ。
「何と! 今、驚愕の事実が明らかにー!! あの透明な液体は異世界の! 異世界の酒であることが判明いたしましたー!! 飲んでみたい! 私ものんでみたい!!。」
ぐっと拳を握りしめ、くうっーと表情を作る実況者。
実況者の煽りに、ワー! っとまたまた湧き上がる観客達。『いっーせかーいじーん!』『いっーせかーいじーん!』と異世界人コールが沸き起こる。
「ささ。どうぞどうぞ。」
と、私が促すと、まず酒に口をつけるシェーラ。
「ふわっ。おーいしーのじゃー!。蜂蜜酒とも違うし、ましてエールとも全然違うのじゃ。未知のお酒なのじゃ! うまーいのじゃー。果物のような良い香りもするのじゃ。おいしーのじゃー。」
おー! とシェーラの感想にざわめきが起こる。実況席の二人も静かに見守っている。
シェーラは、一気に飲み干してしまうと。
「おかわりなのじゃ。」
と元気よくコップを出してくるので、注いであげる。
酒が美味いのは良いのだが、早くモツ鍋の方を食ってくれ。この鍋と合わせて飲むともっと美味いんだぞ。
「この料理と合わせるともっと美味いぞ。」
とシェーラに言うと、小鉢の方に目を向け、何かを思い出したように、一瞬眼を閉じて、フォークでモツとニラとを、一緒に刺して一気に口へ運ぶ。そして、クワっと目を見開いて。
「うんまーいのじゃ! 臭くないのじゃ。もにゅもにゅなのじゃ。面白いのじゃ。美味いのじゃ! 何なのじゃ。それに! 臭い草の匂いは変わってないのに良い匂いなのじゃ。不思議なのじゃ。美味いのじゃー!。この臭…臭くない草もあんま~いのじゃ。おいしいのじゃ~。」
と、ニコニコ顔のシェーラ。そして、酒に手を伸ばし、酒、もつ鍋、酒、もつ鍋と無限ループに突入した。
「うんまーいのじゃ! この酒にまるであつらえた様に合うのじゃー。うまいのじゃー。美味しいのじゃー。」
「出ましたー!! 村長の口から”うんまーいのじゃ”が飛び出しましたー!! これは最高の評価! 最高の評価です! 誰が予想できたでしょう! あの臭い内臓と臭い草そして骨の組み合わせがこのような結果になるとは、誰が予想出来得たでしょうかー!! まさかの! まさかの最高評価に私、驚きを隠せませーん!! くうー! 私も食べてみたい!。」
「うむ。流石はサブよ。」
ドドスコもしたり顔でうなずいている。
右手を天高く振り上げ、実況に熱が入る実況者こと、エルモアさん。観客達からは、『いっーせかーいじーん!』『いっーせかーいじーん!』と異世界人コールがまたまた沸き起こる。私もそれに応えるように手を振る。するとまた、ワーッ!! と盛り上がり、異世界人コールが湧き上がる。
その後、皆にもつ鍋と酒をふるまい、最高潮に達した祭りは、そのまま焼肉大宴会にもつれこみ、朝まで飲み明かした。そして、私がこの村の皆さんと仲良くなったのは、言うまでもない。あ、肉もめちゃくちゃ美味かったよ。
ノリのいいエルフ達でした。