13 もつ鍋は美味しいのです。
ワー!! ワー!! と響く大歓声。その大歓声の真っ只中に私は居る。…どうしてこうなった…。
思い起こすこと30分前。肉の解体を終えたモヒカン(実は複数いた狩人)達がシェーラに肉の部位を選んでもらおうとした時、シェーラが私をずいっと押し出して『今夜の夕食は、お主が作るのじゃ。だから、お主が選ぶのじゃ。』と言われたので、私が選ぶ事になり、私はアレ…即ちモツ鍋を食べたい気分だったので当然のように、モツを選んだ所、背後で『ちょっと待つのじゃー!。』と必死な声で待ったがかかった。そこで今、モツ鍋が食べたい私と『そんな物食い物では無いのじゃ!。』とちょっとおじさんとしては看過できない発言をするシェーラと押し問答になり『じゃあ、今この場で作ってみたらいいじゃないっすか。』と言うモヒード君の発言もあって、この場で披露することになったのだが…。そこで一瞬ざわざわっとなり、『祭りか?。』『祭りだよな?。』と、肉をもらいに来ていたエルフ達が、顔を合わせて確認しだし、その内の一人が『祭りじゃー!。』と叫ぶと一気に盛り上がりだし、皆が妙に手練れたような感じで、迅速に会場の設営を魔法で整えだして、…あれよあれよと言う間に立派な会場が完成し、今に至る。
「儂はいやじゃー! 内臓なんか食いとうないのじゃー! いくらGKの肉とはいえ内臓なんか臭くてまずいにきまっているのじゃー!!。」
いやじゃいやじゃと頭を振り続けるシェーラ。
「いやいや、ほらそこはね、発端は村長なんですし、ここは一発ビシっと決めてほしいスわ。」
ニヤニヤと、ご愁傷様と言う顔をしながら言うモヒードに連れられて、審査員席に強引に座らせられるシェーラ。
モヒードの奴もまずいと思ってやがるな。と言うか、ここにいるヤツ全員そうなのか? やれやれ物の解っていない連中だよ。いいだろう、良いでしょうとも。その常識、私が変えてやろうじゃないの、このやろう共。私が美味いモツ鍋を食わせてやろうじゃないの。
「さーて始まりました、キッチンスタジアム。実況は私エルモアと、解説のドドスコさんでお送りします。」
「どうも。ドドスコなのである。」
何時からいたのか、実況席に座ってお辞儀をするドドスコ。
…実況席までできてやがる。…何時のまに沸いたんだよ、ブロッコリー。まあいい。さて作るか、まず今回のもつ鍋はいわゆる白モツ、小腸と胃を使う。大腸は捨てる。腹の中を空にしてない天然ものだからな。まず、酒で丁寧に洗う。洗う。洗う。洗ったら、臭みを取るために鍋に日本酒を加え下茹でをする。まあ新鮮なのでそのまま使ってもいいのだが、念のために臭みは極力取っておく。
「おーっと、謎の料理人、内臓を洗い出しました。丁寧に洗っているようですが…あの瓶に入ってる液体は何ですかね、解説のドドスコさん。透明なようなので水ですかね?。」
「あれは、サブがこちらの世界に来るときに持っていた物であるな。何であるかは吾輩にも解らぬ。確かに透明なものの様ではあるのであるが水…では無いのであろうな。」
顎をさすりながら、したり顔で解説するドドスコ。
「おや? お知り合いなのですか? 解説のドドスコさん。なるほど~。あの料理人の名前はサブと言うのですね。それと…ここで以外な情報が出ましたっ! 何と謎の料理人の正体は異世界人! 異世界人です!。そういえばもうそんな時期でしたね。こんな辺鄙な所に来る人など今までいなかったので私、忘れておりました!」
がばっと立ち上がる、実況。
ワー!!と歓声が上がる。『いっーせかーいじーん!』『いっーせかーいじーん!』と観客は大盛り上がり。
「んんっ? どうやら次の工程に入ったようですね。ゆでております! 内臓をひたすらゆでております! おおーっとそこでまたあの謎の液体だー!! 入れる入れる。ドぼドぼと入れております! 本当に何なんだー! あの液体はー!。」
身を乗り出して喋る実況者。そのたびに湧き上がる観客。
「ふむ。あの液体が何なのかは、わからないのであるが、執拗に洗っていたところを見ると、あの透明な液体で、おそらく内臓の匂いを消しにかかっておるのであろうなと、推測されるのである。」
「なるほど。そういう事でしたか。一応考えてはいる…と言う事ですね。解説のドドスコさん。」
「うむ。」
鷹揚に頷くドドスコ。
なにがうむだよ、まったく。さて、ゆでてる間にだしを取るか。本来はカツオだしを使いたい所だけど…無いしな。GKの骨を使うかな。骨を10等分ぐらいでいいか…に切ってと。豚骨みたいになるから、臭み取りにニラを束で入れてっと。しばらく煮る。そんなに濃いだしはいらないから、時間は短めでっと。ん~、い~い匂いだ。
「おおーっと! また何かやりだしたぞー!! 何だ? 今度は骨を切っているー! あーっとその骨を切って鍋の中に入れたー! 内臓だけでなく骨まで食べさせるつもりなのかー!! …あれはいったい何をやっているのでしょうかね? 解説のドドスコさん。」
「ふむう。かいもくわからぬ。」
首をひねるドドスコ。
「ありがとうございす。」
「ん? 次は草を取り出したぞ? なんだ? あの草は。んん。あれは私も見たことがあります! 子供が悪戯に使う臭い雑草です! いったいそんなものを何に使うのでしょうかー!! ああーっとなんと! なんと! 鍋に入れたー!! 鍋に投入しましたー!! これは本当に食べ物なのかー! それすらも怪しくなってまいりましたー!!。」
ブー! ブー! と、ブーイングが響くが、全員本気でやってる訳ではなく、ノリでやっているご様子。
失礼なことを言う実況者だ。ニラは美味しい上に栄養価も高いんだぞ、まったく。さて、次だ次。だしをざるで濾して他の鍋に移してっと。そして、そこに醤油、酒、塩(用意してくれていた)を投入して、味を見る。…うん、いいんじゃない? って言うか美味いなこれ。そこに、臭みを取ったモツと大量のニラを投入。具はニラとモツの2種類だけのシンプルなもつ鍋だ。糸唐辛子も欲しい所だけど、無いからね。よし、後は蓋をし、煮るだけで完成だな。
「お。またまた、動きがありました。ん? ゆでていた臭い草と骨を捨てているようですが、いったい何をやっているのでしょうか? 解説のドドスコさ…んん? まだ何かやっていますね。何でしょうか? あの黒い液体は。それと塩と、またあの透明の液体を入れていますね。全く意味が解りませんね。解説のドドスコさん。」
「スープ…を作っておるのではないか? 付け合わせと見たのである。」
見当違いな事を言うドドスコ。
「なるほど。しかし骨と臭い草のスープ。正直に言いますと、私、こんなものを試食させられる村長が可哀そうでしかたがありません。」
うんうんと一斉に頷く観客達。
「んん? あーっと! 付け合わせのスープだと思われていた物に、なんと! 内臓を投入したー! しかも! あー! やめてー! なんと! 臭い草も大量投入ー! 尋常な量じゃないぞー! 断言します! もはやこれは食べ物ではありませーん! 私、村長の無事を祈らずにはいられません!。」
観客達か一斉にざわつく。
さっきから実況がうるさい。もつ鍋は美味いんだよ。この食欲をそそる匂いが解らんのかね。
そう思い、よく回りを見てみると、調理台を中心に半径5mぐらいの半透明のドームが出来ていた。
あ~なるほどね。この食欲をそそる香りが届いてない訳だ。おや? それにしても…さっきからシェーラが静かだな。
振り向いてシェーラの方を見てみると。
はっはっは、シェーラのヤツ。この世の終わりみたいな顔で審査員席に座っているな。安心しなさいって。すっごく美味しいから。そろそろ煮えたかな? …よし。もつ鍋完成だ!。
本当に美味しければいいなあ。