11 村へと続く道。
私が何故、村へ行きたかったかと言えば、当然、生活用品を手に入れるためだ。今の状況は、無い物だらけだ。着るものは、今着ているスーツだけ。皿も無ければ、鍋もない。衣類などの生活用品を手に入れることは必須だ。それと、できれば食料の安定供給と風呂。…風呂にはいりたいなぁ。今の私、結構匂うんじゃないだろうか。残業が続いてたからしばらく入ってなかったしなぁ。
そういえば、どの程度の村かは聞いて無かったな。と思ったので、道すがら聞いてみると、。人口60人ぐらいの小さな村で、貨幣は使用しておらず、商店らしき所は在るのだが、物々交換で賄っているらしい。食料は、村の狩人達が狩りでとって来た獲物で賄っており、商店では、食料品以外の薬草(漢方かな?)とか、衣類とかの生活用品を置いてあるらしい。…らしいが続くのは実際に見たわけではないからだよ。
…となると村の一員にならない限り食料の安定供給は難しいのではないかと考え、村の一員になれないかとも聞いてみたが、結果は駄目だとの事。何故かと言うと、エルフ以外の者が住み着くと、ハーフエルフが生まれてしまうからだとか。ハーフエルフと言う存在自体に何か問題がある訳では無く、単純に『寿命にもの凄く差が出るからなのじゃ。』と言われた。そうそう。驚いたのは、エルフの寿命は大体2000年だとのこと。因みにハーフエルフだと、どの種族が混じっても大体300年前後前後らしい。それでも十分すごいが2000年は桁が違うな。なるほどなと納得。で、村外の者でも商品は譲ってもらえるのか? と聞いた所『もちろん大丈夫なのじゃ。』と言われた。良かった。
などなど色々な事を話しながら進んでいると、何か薄い膜のようなものを、通り抜ける感覚があった。これが、ブロッコリーことドドスコの言うテリトリーを通り抜ける感覚なのだろう。シェーラも『お、ドドスコの領域を抜けたのじゃ。』と言っていたので間違いない。そうそう。シェーラとドドスコは、どうも知り合いのようで、シェーラはドドスコの事を『気のいいお隣さんの様なものなのじゃ。』と、言っており、仲は悪くないご様子。
「伏せるのじゃ。」
と順調に進んでいる所に、急に伏せたシェーラから伏せてくれと、指示が入る。
「どうしたんです?。」
私も急いで伏せながら聞く。
シェーラの目が、若干にやけているように見えるので、深刻な事ではなさそうだが? なんだ?。
「儂らは、運がいいのじゃ。」
ぐっと親指を立てた後、にやけながら茂みの向こうをちょいちょいと指をさすシェーラ。
何があるんだ? と、こっそりと覗いてみると、はむはむと可愛く草を食んでいるカピバラらしき生き物がいる。こちらには気が付いていない様子。
…あれは…カピバラか? にしては、体毛がおかしい。少なくとも私は金色の体毛が生えてるカピバラは知らない…と言ってもここは、異世界だからな。…何があってもおかしくはないが。
「なんですか? あれは。カピバラ…の様に見えますが…。」
「カピバラを知ってるのか?。」
興味深いという感じのエルフの少女。
「ええ。カピバラ自体は知っているのですが、私の知っているカピバラの体毛は金色ではありませんので。」
私の返答を聞いたシェーラがうんうんと、うなずく。
「なるほどなのじゃ。あれは、確かにカピバラで間違いは無いのじゃが、ヤツはGKなのじゃ。長い年月を生きたカピバラがこの森の濃密な魔力をその身に蓄えて、魔物に超進化した姿なのじゃ。でな。」
一呼吸置いたシェーラは言い放った。
「おーいしいのじゃ~。」
にへらっと笑うエルフの少女。
??長い年月を生きたカピバラって…良くは知らないが、カピバラってそんなに長生きだったっけか? まあここにこうしているってことはこの世界のカピバラは長生きなのだろうな…。へ~、GKか、そういえば…ドドスコが何か言っていたような…。そうだ。SGGKだ。高級食材だと言っていたっけ。名前からして、あのカピバラのすごいヤツなの…だろうな。
そして、シェーラは、GKを見つめ。
「おとなしくしているのじゃぞ~。…ほいっ!!。」
シェーラが右手を振りかぶり、それを振り下ろすと同時にGKの首がサクッと切断され、バシューっと切断面から血が勢いよく噴き出てくる。
ん? え? なにが起こったの? いきなりGKの首が飛んだぞ。…ああそうか、そういえば、たしか魔法的な物がある世界なんだよな。じゃあ、あれは、魔法か? すごいものだな。
「ほいほいっ。」
私が関心している間にも、さらに、シェーラが、手をふいふいっと動かすと、GKは宙に浮き、木の蔓が動き出す。木の蔓がするすると動き、GKを木につるしあげたと思ったら、GKの後ろ足の足首がスパっと切断された。
「これですぐに、血も抜けるのじゃ。」
満足! とばかりにうなずくシェーラ。
「あのう。」
作業が一段落したようなので、私は、右手を挙げて、質問いいですかと訴えてみる。
「なんじゃ?」
くるっと振り向くシェーラ。
「今のは、魔法って事でいいのですか?」
「その通りなのじゃ。精霊さんにお願いして、やってもらうのじゃ。」
精霊さん? まるでおとぎ話だな。
「精霊さん…ですか。」
「精霊さんは何処にでもいるのじゃ。この大森林は特に、大地と風の精霊の影響がものすごく大きいのじゃ。」
わかるようで、わからないような。…うん。まるで解らんな。魔法とやらは、とにかく精霊と言う存在が必要なのだな。使えると、色々便利そうだが…私にも使えるものなのかは色々と、落ち着いたら詳しく聞いてみたいものだ。…それとSGGKについても聞いてみようか。
「それと、SGGKと言うのは、あのGKの進化形ってことでいいのですか?。」
GKがカピバラの進化形ならSGGKもそうであろうと当たりをつける。
「ホホウ。異世界人であるお主が何故SGGKを知っておるのじゃ? もしかして、向こうにも居るのか?。」
「いえ。こちら到着してから、ドドスコさんに聞いたのですよ。何しろ、私の目的は『美味しい物を食べたい』ですから。」
「なるほどなのじゃ。確かにSGGKはGKの進化形なのじゃ。説明するとな、カピバラからGKに超進化すると、縄張り意識が強くなるのじゃ。当然そこでGK同士の争いが起きるのじゃ。その生存競争を生き抜いて、更に魔力を蓄えて超絶進化したのがGGKなのじゃ。もう解るじゃろ? 進化すると縄張り意識がさらに強くなるのじゃ。そのさらに激しい生存競争に打ち勝ち、爆裂超進化したのがSGGKなのじゃっ!。因みに進化すればするほど美味くなるのじゃ~。SGGKはまだ儂も食べたことがないどころか、お目にかかったことすらないのじゃ。じゃから幻と言われておるのじゃ。そうそう。当然、ものすごく美味しいらしいのじゃが、恐ろしく強いので捕まえるのは多分無理なのじゃ。儂の中で一度は食べてみたい物のドラゴンの肉と並ぶ不動の第1位なのじゃ。」
うんうんと頷くエルフの少女。
なるほど。幻でかつ恐ろしく強いか。…そしてドラゴンもいるんですね。魔法を使えるシェーラが無理と言うのだ。…私には絶対無理だな。
「でもな、今仕留めたGKも十分すぎるぐらいお美味しいのじゃ。じゃからな。」
続けて言ったシェーラは、一呼吸ほどためて。
「GKで、なんか美味しい物を作ってほしいのじゃ!。」
私の袖の端をつかんで、まっすぐな瞳で私を見据えてシェーラは、そう言い切った。
え? 村の皆さんに分けなくて良いのか?。
本物のカピバラは豚肉に近い味だそうですね。