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異世界移民  作者: 大福男
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1 異世界に行く前のあれやこれ1

 よろしくお願いします。

 「うーん。やっと終わった」


 残業中の会社のオフィスで、背伸びをしながら自分の机の上の置き時計を見る。そこにはデジタル表示で21:22の表示。


 「あ"ぁ~9時まわっちまったか~」


 背伸びをしながらこうなった原因を考える。


 新人の尻ぬぐいで残業を余儀なくされて一週間。ようやく作業が一段落ついた。因みにだ、ポカをやらかした新人はと言えば、一応最初の2日は申し訳程度参加していたのだが、そこからは「自分そういうのダメなんで」とよくわからない理由で定時(17:30)に帰宅している。さすがに怒鳴りつけてはみたものの聞きやしない。……最近の若い奴ってのはまぁこんなものなのかね。


 ……よくよく考えてみると……いや、よく考えなくても何故私がやっているのかわからんな。まあ、一応部下のしでかした事だしなぁ。やれやれ。


 頭をガシガシとかきながら、もう一度時計に目を向けると、21:32の表示。


 おっといかんいかん。早く帰らなければ警備のもっさんに怒られてしまうよ。うちの残業は最大で22時までだからな。


 いそいそとカバンに荷物をしまい込んで、そのままオフィスの出口へ向かう。


 「じゃあ、おつかれさん」


 誰もいないオフィスに向かって一言挨拶をして、そのままエレベーターへと向かい、1階へ。裏口で警備員のもっさんに右手を軽く上げて挨拶をする。

 

 「もっさん、おつかれさん」


 机の上に足を投げ出して、椅子にだらしなく座っているもっさんも、こちらをチラ見しながらつられて右手を上げる。


 「お~う。残業おつかれさん。きいつけてな~」


 もっさんに挨拶をして外に出ると、当然真っ暗だ。向かいのビルにはまだチラホラと明かりがついている窓が見える。ここはオフィス街だし残業組なんだろうなあ。ご愁傷様。と、ご同輩に心の中で応援を送って帰途につく。 


 私の家は会社から徒歩30分の所にある。近所にコンビニと居酒屋があるから決めた家賃4万の賃貸アパートだ。疲れた首と肩をコキコキと鳴らしながら歩いていると『ぐ~』と私の腹から鳴き声が。


 そういえば、昼から何も食べてないな。ざっと計算して……10時間ぐらいか? なにも腹に入れてないなぁ。なるほど。腹が催促してくるわけだ。


 「はら……へったな」


 ポツリと呟く。


 いかんな。言葉にすると余計腹がへってきた。よしよし。明日は土曜日で会社も休みだし明美さんの所(近所の居酒屋)で美味い飯でも食べながら酒でも一杯やっていくかな。食堂はこの時間になるとファミレス以外全滅だしな。ファミレスもまあ嫌いではないが、今はこう、なんだ、ピンとこない。そして私は日本酒党だ。……どうでもいいな。


 この後の方針も決まったところで意気揚々と歩き出そうとして、ふと、目の前のコンビニが目に留まる。


 あ~そういえば、醤油が切れてたな。買っていくか。ああ、ドレッシングもきれてたっけか? まあついでだし、一緒に買っていくかな。


 ピロリロリロ~ンピロリロリ~ン♪ コンビニ入店時の音楽とともに中へ入ると、でかでかと肉まんケースの上に新商品『あん肝マン230円』のポップが目に飛び込んできた。一瞬、キ〇肉〇ンの超人が頭に浮かんだ(そんな超人は居ない)が、まぎれもない中華まんの新作。


 ほう。この時期(5月中旬)に新作だと。なかなかに強気だな。なるほどなるほど。それだけ自信満々だと言うことか。なかなか美味そうじゃないか。加えて私は今日、酒を一杯やって帰る気満々だ。あん肝と日本酒は絶望的に合うのだよ。なんという誘惑! しかしながら買うわけにはいかんのだよ。なぜなら明美さんの所(居酒屋)で一杯やって帰る予定だからだ。食うと腹が満足してしまう。すきっ腹と言う最高の状態で行きたいじゃあないか。だがしかし、だがしかしだ。一杯やろうと思ってなければ悩まずにすんだのだろうか? いや、そうではない。酒を飲む気になっていたからこそのあん肝マンの魅力大幅UPだよ。これは二律背反だな。しかし……う~ん、うまそうだなぁ。いや美味いに違いない。うぬぬぬぬぬぬぬぬぬ。


 うしろ髪をひかれながらも目的地。そう、調味料コーナーにたどり着く。


 そもそもにして、醤油とドレッシングを買いに来たのだよ。私は。


 私は毎朝サラダを食べる。そのほうが胃腸の健康にいいからだ。胃腸の健康は食事の健康。美味しいものを美味しく食べるにはまず健康からだよ。ん? 残業はいいのかって? 良くはないが仕事は仕事なのだからしょうがない。私はいったい誰と話しているのか。いかんな、おっさんになってくると一人言が増える。私だけか?


 棚から特選丸大豆醤油の1リットルボトルと青じそドレッシングのボトルを手に取り、レジへと向かう。


 醤油はちょっといいものを使う。私のちょっとしたこだわりだ。ドレッシングにこだわりはないぞ。青じそは今、丁度そういう気分だったというだけのことだ。


 レジのカウンターに荷物を置く。そうしたら、嫌でも目に飛び込んでくるあん肝マンの艶かしい姿。


 こいつめ、また私を誘惑して。先がとがっていないあんまんタイプの美肌で誘惑するんじゃありません。買いませんからね。と心の中でしかりつけておく。


 「え~……2点で648円になりまっす」


 私が誘惑されそうになっているときにコンビニの兄ちゃんが商品をレジに通してくれていた。


 「ああ。はい」


 おっとっと、いかんいかん。とあわてて財布の中の小銭を探す。……そこで……一瞬……気がそれた隙に……不意打ちを食らってしまった……。


 「ご一緒に新製品のあん肝マンはいかがっすか。」


 「じゃあ。それも」


 しいまったぁー! つい、つい口からするりと言葉がぁ!!。


 「あざっす」


 コンビニの兄ちゃんはいそいそとあん肝マンを取りに行き袋に詰める。


 「合計で。896円になりまっす」


 言ってしまったものは仕方がない。何かに負けた気になりながらも財布から金をとりだす。


 「ありあとやしたー」


 コンビニの兄ちゃんの掛け声に見送られながら敗北者(私)がコンビニを後にする。


 くそう。理性では、本能には勝てなかったか。本能おそるべしだな。まあいいさ、美味そうなのは確かだよ。そして、まぁ食いたかったってのも本当の事だ。


 私は、ガサガサと袋からあん肝マンを出してかぶりつく。


 おお。美味いな。ちょっと心配していた生臭さは全然ない。あん肝だよあん肝。ちゃんとしたあん肝らしいあん肝。あん肝マンの名に偽りなしだな。それにしても……酒がほしくなる味だなぁ。あまり胃にズシンとこないし、思ってたよりずっと軽いな。……これは、呑みに行く前の言わば前菜的なものになったな。食欲? 呑み欲? が増してきたわ! うん。いい買い物だった。これはもう負けじゃないな。って言うか勝利だな。私の勝ち。


 ホクホク顔で目的地(近所の居酒屋)に向かう。


 あん肝マンをほうばりながらテクテクと歩くこと20分。目的地『居酒屋明美』が見えてきた。昔ながらの居酒屋らしい居酒屋のたたずまいで私を迎えてくれる。そして私は、入り口である所の引き戸を開けて中に入って行った。


 

 異世界に行くのはもうちょっと後です。

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