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死霊術師の人型兵器研究日誌  作者: 梅上
第三章 決別編
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10 カルロスの暴走

「さあ、腕を飛ばそう」


 アルバトロスとの専属契約を結んだ紅の鷹団は早速貸与された魔導機士の元に集っていた。既にアルバトロスの各地に存在する基地の整備場を借りることも出来るという所まで話が進み、新種の魔獣を討伐する際に必要と思われる機能の追加も許可されていた。

 その説明を受けたカルロスが真っ先に言い出したのがそれだった。

 

「……カール。変な物でも食ったのかい?」


 マリンカの気遣う様な視線がカルロスには辛かった。過去にクレアから向けられた冷たい視線を思い出す。

 

「カール……幾ら何でも魔導機士の腕が飛ぶわけがないだろう」

「いえ、飛ばしている機体もありますよ。古式の話ですが」


 今回貸与された魔導機士の整備を手伝う事になった整備兵がログニスの旧第十一工房の機体を例に出して説明する。四方八方からタコ殴りにする戦法を得意としていたというのを聞いて感嘆の息を漏らす紅の鷹団。

 

「そんなのがあるんだなあ」

「いや、あるのは分かったけど。あたしらの機体の腕を飛ばす必要性はなんだい」


 まあ説明は必要だろうとカルロスは逸っていた己を諌める。大きな目的の途中とは言え、久しぶりに魔導機士を好きに弄れると聞いて気合いが入ってしまったのだった。

 

「まず、俺たちのメインターゲットである新種の魔獣だが……兎に角こいつは早い」

「ふむ。それは聞いた話だね。そもそもこの三機を撃破したのもそいつだって話じゃないか」

「それを報告したのも俺だけどな。兎に角尋常じゃない速度だった」


 瞬く間に三機の魔導機士を撃破した速度は例え古式であったとしても脅威だろう。そこまで早ければ、機法も付与では中々命中させられないだろう。対龍魔法(ドラグニティ)ならば回避先さえ巻き込む広範囲攻撃で仕留められるかもしれないが、発動準備中に攻撃を受けたら危険だ。

 

 並みの魔導機士ならば尚の事だ。近接戦闘だけで圧倒的な運動性を相手にする必要がある。それに対する答えが――。

 

「それで腕を飛ばすというのがどう繋がるんだい。カール」

「良くぞ聞いてくれた団長。あれの格闘戦能力ははっきり言って異常だ。だから、中距離遠距離向けの武装が欲しい」

「しかし、隊長機には『土の槍(アースランサー)』がありますが」


 整備兵が三機の内の一機を指差して尋ねる。それにカルロスは軽く頷いた。

 

「うん。それを使っている所も見たけど……あれ、結構照準甘いでしょう? 左腕末端の重量が増加していて盾も持っていると腕がぶれる」

「……よく僅かな時間でわかりましたね」


 まあ開発者だからね、と言う言葉は飲み込んだ。整備兵はこの魔導機士三機が撃墜された現場で見ていると思ったようだが、実際はこの原型機の開発現場でだ。もしかしたら末端の整備兵以上に、カルロスはアイゼントルーパーと言う機体を理解していた。試作機が自分の子供なら、アイゼントルーパーは孫、或いは甥姪の様な物なのだから。

 

「かといって誘導法撃何て高度な魔法道具を作る事は出来ない。出来ても魔力消費的に厳しいだろうし」


 グラムとテトラがいれば出来るんだけどなあ、とカルロスはぼやく。流石に今は呼び出せない。


「……傭兵さん、確かカールさんでしたか。詳しいですね」

「今の仕事やる前は似たような仕事していたからな。詳細は二度も説明するのが嫌だから上司にでも聞いてくれ」

「はあ……」

「話を戻すぞ。なるべく魔力消費を抑えて、遠距離攻撃の手段が欲しい」

「それで腕を飛ばすって訳か……なるほど……ってなるか! 何で飛ばす必要があるんだよ!」


 髭面の傭兵が一瞬納得しかけて正気に戻った。押し切れなかったかとカルロスは舌打ちする。

 

「ちっ。半分は趣味だよ悪いか」

「開き直ったぞこいつ」


 イラが半ば呆れたようにそう言う。むしろカルロスとしてはそんな反応をする皆に呆れるしかない。

 

「むしろお前ら。腕を飛ばすって所にロマンを感じないのかよ!」

「あたしは良いと思うけどね。ロマンは兎も角かっこいいじゃないか」


 そんなマリンカの言葉にカルロスは瞳を輝かせる。賛同者が居てくれたというのは何よりも心強い。

 

「流石だぜ団長。あんたは違いの分かる男だと思っていた」

「あ・た・し・は女だって言ってんでしょうが!」

「ギブギブ! 顔が剥げる!」


 これがマリンカのアイアンクローかと冷静な部分の思考がそう考える。こんな物をしょっちゅう喰らっているイラはドMなんじゃないだろうかと言う疑いが生じる。

 

「やめろよお……俺デスクワーク派なんだから年中鍛えてるお前らと一緒にすんなよお」

「一気に情けなくなったな新入り……」

「マジで頭取れたらどうしてくれるんだ。取れやすいんだぞ」

「頭取れやすい人間とか聞いたことねえよ……」


 そんなカルロスにとっては切実な悩みを軽く流されて、それでもう半分は? とイラが尋ねた。

 

「もう半分?」

「さっき自分で言ってただろ。半分は趣味だって。ならもう半分は趣味じゃないんだろう」

「ああ。その話ね。あれは素早いに上に知能が高い。ここまでは良いよな?」

「罠を仕掛けてたんだってな。まあ大したものじゃなかったみたいだが」


 カルロスがアルバトロス軍に報告した魔導機士との戦闘は紅の鷹団にも展開されている。皆新種の魔獣と呼ばれる個体がこれまでに発見されてきたどんな魔獣とも異なる存在であるというのは瞭然だった。


「何だと?」

「何でお前が怒るんだよ……まさか引っかかったのか?」

「まさか。まあ知能が高いってことは劣勢になれば逃げるって事もあり得るわけだ」

「それは有り得るねえ。本能だけで生きている様な獣だって有利不利は判断できるしね。知能が高いっていうなら戦況の善し悪し位は見極めそうだね」

「だろう? そこで逃げに入られたら捕まえられるように腕を伸ばして引っ掴むのさ」

「思ったよりもまともな理由だったな。何でそれを最初に言わなかったんだ」

「普通にロープ投げた方が捕まえやすそうだからな」

「言われてみればそうだな……」


 髭の傭兵が納得した様に頷く。わざわざ捕まえるために腕を飛ばす必要はない。あくまで遠距離攻撃としての手段と、捕獲手段。両方を併用するためには腕を飛ばすというのが机上に乗るというレベルだった。

 

「だがそれでも俺は腕を飛ばす事を推そう」

「何でそこまで腕を飛ばすのに拘るんだい。魔獣との戦闘は命がけだ。遊びじゃないんだよ」

「そんな事は分かっている。俺が推しているのはそれが軍では一切採用されていない武装だからだ」


 その言葉に納得の色を浮かべたのは整備兵だった。

 

「運用データですね?」

「そう。まだ量産型魔導機士の歴史は浅い。武装の類も全てが熟成されているとは言い難い。だけど制式採用機をホイホイ改造する訳にもいかない」

「整備性も悪くなりますし、緊急時に機体を交換できないっていうのは困りますからね」

「だけど俺達は違う。はっきり言えば最初から枠外だ。補給のタイミングにもよるけど通常のスケジュール通りの整備からは外れる。多少変な武装をしていても、飛び込みの整備なんて迷惑なだけなんだ」

「いえ、まあそうなんですけど。だからって巻き取り式にされても僕らが苦労しないかって言うとそんな事は……」

「だから戦闘時にまだ十分な運用がされていない武装を使用してデータを取ってそれをアルバトロスに売る。それだけで結構な金額が動く」


 整備兵のボヤキは無視してカルロスは言い切った。運用データは重要だ。はっきり言ってしまえば、カルロス達の試作機作成も半分はデータ取りの為の試験だった。予算が降りるか降りないか。その一押しをする為の物と言っても良い。

 

「だから俺たちは変わり種の武装を一杯積み込もう」

「……応援頼まなきゃ……僕の班だけじゃ絶対に終わらない」


 絶望に表情を染める整備兵を無視しながらカルロスはこれからの改造計画を頭の中で組み立てるのだった。ストッパーであったクレアその他の人間がいないので誰も止める人がいないカルロスの暴走が始まる。

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