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死霊術師の人型兵器研究日誌  作者: 梅上
第三章 決別編
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03 怪力

「ほい、そっち押さえてて」


 カールと名乗った某・アルニカは早速精力的に行動を開始した。理由は至極単純である。折角見つけた魔導機士だ。奪われるのを防ぐために紅の鷹団はここでキャンプを張っていた。魔獣が徘徊する森の中で、だ。

 

 とてもではないがそんな環境に長居したいとは思えなかったカールもといカルロスは迅速に自走可能な程度に修理をすることにした。

 

「……分解するのかい?」


 カルロスの手元を覗き込んでいたマリンカがそう尋ねてくる。興味津々といった表情をしていると幼く見える。その姿に微かな懐かしさを覚えながら、カルロスは手にしたスパナを弄っている機体とは別の機体に振る。


「予備の部品がある訳じゃないですから。比較的損傷の軽いこっちの二機に、この派手に壊れている奴の部品を使って修理する形になります」

「なあ、さっきからその妙な喋り方はなんだい」

「敬語、と言う物ですが」

「そんな事を聞いてんじゃないよ! 馬鹿にしてんのかいアンタ!」

「いえ、まさか頭領にタメ口をきくなんて……とてもとても」


 すげえ、新入り姐御をおちょくってるぞ。と言う尊敬の視線がカルロスに集まる。カルロスとしては至極真面目に対応しているのだ。単にこの頃引きこもりと言うか、余り人と接しない生活をしていたせいで今一調子を掴めないだけで。

 

「新入り。俺たちはファミリーだ。兄弟にそんな硬い口調の奴はいないだろう?」

「いえ……うちは割とこんな感じでした」

「マジかよ」


 良い事言ったぜ、的な顔をしていた髭面の一人がちょっとショックを受けていた。やっぱりいいところの……と言う囁きが聞こえてくる。

 

「ああもう。蕁麻疹が出そうだよ!」


 マリンカが髪を掻き毟りながら叫んだ。

 

「敬語禁止! 傭兵が敬語何て使ってんじゃないよ」

「だけど」

「団長命令!」


 すげえ姐御横暴だ! と言う声が聞こえた。全く以て同感だった。マリンカは舌打ちを一つするとそっぽを向きながら付け加える。

 

「さっきの髭が言ったとおりだよ。こんなところに流れ着くくらいだ。何かしら事情はあるんだろうし、それを聞くつもりはないけど……あたしらはファミリーだ。家族に距離を置かれるなんて言うのはあたしらだって嫌なんだよ」

「そういう事なら……」


 そこまで言われてはカルロスも強行できない。余り深入りしたくない。ある程度の距離を保ちたいという狙いがあったのだがこれ以上はある程度では無く隔絶した距離となるだろう。

 

「そんじゃ団長。力自慢を集めてくれ。今から外した足をこっちに移動させるから」


 話しながらも作業を進めていたカルロスは今しがた最後のボルトを外した。工房の様にクレーンがある訳でもない。まずは一機動かせるようになれば作業は格段に捗る様になる。少し離れた位置にある右足を失った魔導機士の元へ、運んで再度接続しないといけない。

 

「丸太切ってコロにした方が良いかもな」


 当然ではあるが、鉄の塊である魔導機士の足は重い。言うまでも無い事だ。人力で運ぶのは相当な労力が必要だろというのはカルロスにも分かった。膝から下を一纏めでは厳しそうなのでもう少し分解するかとスパナを再度手に取ったカルロスを明るいマリンカの声が止めた。

 

「うし、それじゃあやるとするかね」


 肩の腱を伸ばしているマリンカを見た。次いで後方で掌を上に向けて首を振っている団員たちを見た。誰か説明してくれとカルロスは思う。

 

「あー団長? 腕力のある奴を集めて欲しいんだが」

「だからいるじゃないか」


 再度お互いに見つめあって首を傾げる。禿頭の男が苦笑いしながら歩み寄ってくる。

 

「姐御。普通の奴は見ないと分からないですぜ」

「ああ、そう言えばそうだったねえ」

「何の話だ?」

「まあ説明されるより見た方が早いって事で……」


 そう言って禿頭の男が手のひらで示す。腕まくりをした――元々大して捲る袖も無いが――マリンカが取り外した魔導機士の足に手を掛けた。

 

「よっと」


 そんな軽い掛け声で明らかに自重の何十倍もある重さの物体を持ち上げたマリンカにカルロスは顎が外れるほど驚いた。

 

「はあ!? え、ちょ。えええ!?」

「おお、新入り。良いリアクションだな」


 ちょっと重いな、等と言いながらマリンカはズンズンと魔導機士の足を運んでいく。もしかするとアルバトロスは途轍もない軽量化に成功したのかと思いかけたが、深々と地面に刻まれたマリンカの足跡がそれを否定した。

 

「おーい。カール。これはどこに置けばいいんだ?」

「あ、ああ。一先ずその辺に……」

「はいよー」


 土煙を立てて足が大体の位置に置かれた。マリンカに駆け寄ったカルロスはペタペタと肩の辺りに触れる。

 

「一体どうなっているんだ……? 活法……? いや、魔導炉は無い……でもこの筋肉量じゃどう考えてもあれだけの力は……」


 遠慮なく触る。唖然としていたマリンカが正気を取り戻すと同時。しゃがみ込んで足元を観察していたカルロスの頭頂部に全体重をかけた肘打ちが落とされた。

 

「べたべた触んな!」

「そうだぞ。新入り。仮にも女である姐御の肌をそうみだりに触るもんじゃない」

「姐御だってまがいなりにも女なんだから、そう言うのは良くないと思うぞ。新入り」

「まだ辛うじて女を捨ててないんだから、尊重してやれよ新入り」

「女とは何か。哲学的な問いかけに思えるかもしれないがギリギリ姐御は線を越えてないんだから気を付けろよ新入り」


 四人ほど屍が増えた。

 

「いってええ……悪い。ちょっと我を忘れた。俄かには信じがたくて」

「次やったら今度は頭かち割るかんな」


 あのパワーなら不可能ではないというのが分かるのでカルロスは神妙に頷いた。女性を怒らせてはいけない。それは身近だった姉とクレアの二人から良く学んでいた。

 

「まあそれはそれとして、あの怪力はなんだ。はっきり言って異常だぞ」

「おい、怪力とかいうな。傷付くだろう」

「他に言いようがない」


 マリンカは不満そうに唇を尖らせるが、カルロスが撤回する気が無いのが分かったのだろう。肩を竦めて話を続けた。

 

「まあちょっとした秘密だよ。その内教えてあげるさ」


 そうウィンクしてマリンカはカルロスの話を切り上げたのだった。

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