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死霊術師の人型兵器研究日誌  作者: 梅上
第二章 学園編:下
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04 グラムの本音

「さて、どこから手を付けるか……」


 王立魔法学院の図書館。そこは学院の中でも最も新しい建物だ。

 元々図書館は無く、教員用の書庫があっただけだった。それがここ数年、学生の研究活動が活発になってきたことを受けて五年前に建造された物だった。

 王都でもそうは見ない程の魔法道具による防犯が施されているとカルロスは聞いていた。

 

 魔導科の間でもその噂は囁かれている。本を無許可で持ち出そうとすると、死ぬより恐ろしい目にあうというのが定番だ。一体誰がそれを語ってくれたのか興味があるが、噂と言うのはそんな物だろう。

 

 入学してから一年経つが、利用するのは初めてだった。手続きの煩雑さから足が遠のいていたが、一体どこから探せばいいのかと悩むほどの圧倒的な蔵書量を見ると知的好奇心が疼く。

 一先ず、魔導機士に関わる書物を探そうと書棚の群れに一歩踏み出して二歩後退した。軽く見ても書棚の数は百を超えている。そこから目的の物を自分で探すよりも、司書に尋ねた方が時間の使い方的には効率が良いだろうと判断したのだ。賢明な判断であると言えよう。

 

「……アルニカ?」


 ふと、自分を呼ぶ声にカルロスは足を止めた。声の方向に視線を向けるとそこには同級生がいた。黒い髪のオールバックに神経質そうな面持ち。魔導科の二学年トップ、グラム・アッシャーがテーブルの一つを占拠してそこにいた。

 

「アッシャー。何してるんだ?」

「見ての通りだ」


 そう言って彼が示したのはテーブルに広げられた魔法に関する理論書と、書き掛けと思しき羊皮紙。ちらりとその内容を見てカルロスは小声で尋ねた。

 

「論文か?」

「新しい魔法理論のな。まあ効果的には大したことは無いんだが……僕が書いた物を見てまた誰かが新しい理論を生み出すかもしれない。それに多少なりとも懸賞金が入るしな。ちょっとしたバイト感覚だ」


 知らなかったとカルロスは驚く。グラムが理論派なのは知っているつもりだった。しかし、こうして既存の物だけでは無く自分で見つけた物を万人に広めるために論文を書いている。それは彼への見方を変える物だった。

 

「凄いな」

「凄いもんか。それを言うのなら君の方が凄いだろう。リレー式の魔法道具……言われてみれば何で思いつかなかったのかと思う程シンプルな物だ。だがその誰もが死角に置いていた使い方を示した君の視野の広さは正直敬服する」


 図書館と言う静謐な空間がそうさせるのか。グラムは常の苛立ちをどこかに置いてきたように穏やかな表情でカルロスを称賛した。何時も口を開けば嫌味か皮肉を飛ばされる身としてはくすぐったくて仕方がない。

 

「偶々だよ……」

「ならそういう事にしておこう……それよりも図書館に来るなんて珍しいな。何か用事か?」


 その発言からグラムが図書館に入り浸っているのが分かる。理論派の名に恥じず、常にここで新たな知識を仕入れているのだろう。その勤勉さにカルロスは頭が下がるようだった。

 

「ちょっと魔導機士の事で調べたくて」

「ああ、なるほど……そうだ。丁度いい機会だからお願いしたいんだが」

「何だ?」

「僕にもその件で何か手伝わせてくれないか?」


 第三十二分隊にはカルロスとクレアが魔導機士を作っている事は告げている。全員大分興味がありそうな素振りを見せていたのでその申し出自体はおかしなものではない。カルロス自身、もう少ししたらお願いをしようかと思っていたところだった。無論、クレアと相談の上だが。


「いや、僕だけじゃない。マークスにも」

「アッシャーは兎も角……マークスも?」


 そして続けられた言葉こそ予想外の物だった。犬猿の仲と言っても差支えの無いテトラ・マークス。理論派のグラムとは対照的な感覚派の少女の名前をグラム自身と並べて挙げたことにカルロスは驚いた。

 

「ああ、僕は魔法理論に関してはかなり詳しい方だと思う。だけど僕よりも詳しい人なんてこの国を見渡せばいくらでもいる。そんな人たちが束になっても魔導機士の製造には目途が立ってない。悔しい話だが、僕一人が加わっても大した貢献は出来ないだろう」


 そんなことは無い、と言いたかったがグラムの真剣な表情がそれを押し留めた。

 

「あの時、地竜と戦った時に僕は初めてマークスの奴を凄いと思ったよ」

「地竜と戦った時?」


 合体魔法『山落とし』を使った時の事だろうかとカルロスは首を捻る。グラムがそこまで感銘を受けるような事をしていただろうかと記憶を探っているとグラムが肩を竦めて補足した。

 

「君が魔導機士に乗っている時の話だ。僕らで援護していただろう」

「あの時か……改めて礼を言わせてくれ。あの援護が無ければ俺たちは勝てなかった」

「そこはお互い様だ。君たちの作った魔導機士が無ければ僕らもあいつの餌になってた。いや、それは良いんだ」


 そう言ってグラムが話の軌道を修正する。

 

「あの時僕はどうすればいいか頭でごちゃごちゃと考えていて、咄嗟の判断が追いつかなかった。君たちのピンチを救っていたのは全部マークスの魔法だ」

「そうだったのか?」

「そうだったんだよ。マークスは正直、無駄の多い魔法を使うし、派手好きで、見栄えの良さを気にするが、それでも一瞬で最適解を見つけ出す能力に関しては図抜けていると思う」

「それはそうだな」


 だからだとグラムは言う。

 

「あいつなら他の奴が見つけられないような最適解を見つけてくれるかもしれない。それを他人に説明できなくても構わないんだ。僕があいつの無軌道な案を理論立ててやればいい」

「……驚いた。そんな風に思っていたのかアッシャー」

「僕だって優れている物を認める度量くらいはあるさ」

「そうか……」

「だから頼む」

「それは構わないというかむしろこっちからお願いしたいんだが……マークスはその話を知ってるのか?」

「知ってる訳がないだろう! そんな恥ずかしい事言えるか!」

「アッシャー。声、声」


 気恥しさから大声を出したグラムをカルロスは宥める。幸いと言うべきか。周囲に余り人はいない。休日にまで図書館で勉強しようという者は中々いないのだろう。

 

「う、すまない」

「まあさっきも言ったけどこっちからお願いしたいくらいだ。第三十二分隊にはみんなに手伝って貰いたいかな」


 正直、クレアと二人だけだと人手が足りなくなってきた。特に筐体の作成に関しては支援が受けられるのならば他の人に任せたいところだ。

 

「そうか……そう言って貰えるとありがたい。それじゃあ僕は続きに取り掛かるとしよう。君から何か頼まれても僕の作業が途中では受けることも出来ないからね」


 そう言ってグラムは笑う。何となく、彼の本音を聞いたことで前よりも仲良くなれた気がしたカルロスだった。


「邪魔したな、グラム」


 そう呼ぶと彼は驚いたように目を開いて照れ臭そうに笑った。

 

「用があったら何時でも呼んでくれ。……カルロス」


 なるほど、これは照れ臭いと思いながらカルロスは司書の方へと歩いて行った。

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