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死霊術師の人型兵器研究日誌  作者: 梅上
第八章 第一次機人大戦:破
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22 新龍体の方向性

 ラズルは任せると言った。それはつまり。

 

「予算の無制限獲得の言質は取った……!」

「……帰ってきたと思ったらまた良く分からない事を言っているのね……」


 落ち込んでいるであろうカルロスを慰めるつもりでいたクレアは当然の様に寛いでいたカルロスの部屋で呆れたように呟いた。まさかこんな良く分からない方向にテンションを上げているとは思わなかった。とは言え、空元気も含まれているのであろうことはクレアにも分かった。どことなく無理矢理に気分を上げようとしているのが分かる。それも仕方のない事だろう。クレアとて、再び訪れた別離によって空いた空白をどう埋めればいいのか分からずにいる。読んでいた本を閉じ、ベッドから身体を起こす。

 

「破壊者よ、サグマルの門が閉ざされておるぞ」

「うん? ああ、すみません。クレア、紹介する。こちらは――?」


 クレアの余裕を持った表情はそこで崩れた。カルロスの後ろから続く若い少女の声。そして人目を憚る様にフードを目深に被って入ってくる人物。クレアの手から本が零れ落ちた。その物音でカルロスはクレアの表情が青ざめている事に気が付いた。

 

「カルロス……貴方、やっぱり」

「やっぱり?」

「十代前半にしか欲情できない変態だったのね……?」

「どこから生じたその誤解!」


 事実無根にも程がある物言いにカルロスは全力で突っ込む。やっぱりって何だと心の底から叫びたい。

 

「だ、だって! そんな人目を憚る様に自室に女の子……私よりも年下の子を連れ込むなんて!」

「そう聞くと如何わしさが半端ないな」

「グレイの事があった割には元気だと思ったら……その子に既に慰められて……?」

「なあ、お前最近変な本とか読んでない? ネリンの残した奴とか……」


 そう言いながらカルロスはクレアが落とした本を拾い上げてタイトルを読む。浮気する男の心理。

 

「まあ、半分冗談よ。ちょっとびっくりしたけど」

「半分なのか……」


 つまり、半分は本気と言う事だが一体どこからどこまでが本気だったかは追求しないで置こうとカルロスは思った。解答次第では心に消えない傷を負いそうだ。元々公爵家の令嬢として純粋培養な所のあるクレアだ。ネリンと言う劇薬によって染められてしまう可能性は考慮すべきだったとカルロスは悔いる。やはり奴は危険である。

 

「それで、そちらはどなた様?」


 手慣れた調子のカルロスとクレアのやり取りに面食らって口を挟めなかったイングヴァルド。まだまだ初心者である彼女にあの勢いの中に入っていくのは辛い物がある。話を振られた事で顔を輝かせて名乗る。


「くっくく! 我が名を問うたな? 妾は創世の五種族が末裔! 光を継ぎし龍皇、イングヴァルドである!」

「へーイングヴァルド……イングヴァルド!?」


 今の所、彼女の正体を聞いた人間全員が驚いたポイントに、クレアも漏れなく驚いた。というよりも驚くなと言う方が無理である。簡潔に龍族について説明しているとイングヴァルドが物言いたげな表情になる。

 

「摂理の破壊者よ……我が玉の事は秘中の秘。軽々に触れ回るのは……」

「それは分かってる。だけどクレアを信用できないんだったら正直他の誰も信用できないぞ」

「カルロス……」


 暗に一番信用しているというカルロスに、不覚にもときめくクレア。一瞬経ってから何故自分は今不覚と考えてしまったのだろうかと首を傾げる。

 

「で、その龍皇様を何で部屋に連れ込んでたの……やっぱり……」

「やっぱりじゃないよ。ネリンから借りた本の事は全て記憶から消し去っていいよ。むしろ消し去って」


 話が進まないのでカルロスは強引に話題を展開する。

 

「俺達が苦労して、ガランが身を張って地の底に叩き落した龍皇のリビングデッド……偽龍だけど、アイツはまだ活動を停止していない。それの対策として……龍体の代わりを創る事になった」

「龍族と同等の能力……難題ね」


 スイッチの切り替わったクレアは心強い。先ほどまでの惚け発言の残滓は消え失せ、真剣な表情で検討を始める。

 

「そもそもの問題として、龍体って何なのかっていうのを知らないと行けないわよね」

「ああ。大前提としてどう、龍皇様に動かしてもらうかとか聞きとらないと行けないからな。メモしたりすること考えると俺の部屋が都合良いんだよ。龍皇様が龍族っていうのは秘密だからその辺でやる訳にもいかないし」


 さりげなく連れ込んだ訳じゃ無いと弁明するカルロス。ちょっと狡い。そしてクレアはそれに気付いても気付かないふりをするのだった。

 

「それで龍皇様。龍体についてお聞きしたいのですが……」

「よかろう。我が玉……龍体とは即ち我が権能を天の頂き、普く大地へと降り注がせるための我が身を包む鎧。我が意を世界へ伝える弓矢よ。即ち、この世で最も硬く、強靭な肉体。それこそが龍体よ」

「えーっと……つまり、自己の能力を拡張して身を守る鎧であり、遠くへの攻撃も出来る頑丈で強靭な身体……って事で良いんですかね」

「うむ!」


 カルロスが言いたい事を概ね理解してくれたことにイングヴァルドは御満悦の様だった。満面の笑みを浮かべて頷く。そうしていると幼さが垣間見えて頭を撫でまわしたくなる。年齢的には70倍程の差があるのだが……。

 

「それをどうやって死霊術で再現するか……」

「え、死霊術でやるの?」


 カルロスとしては当然の事を言ったつもりだったのだが、クレアはむしろ意外そうに眼を瞬かせた。

 

「そりゃ生き物なんだからそっちの方が良いんじゃないか?」

「でも話を聞いている限りじゃ魔導機士みたいな物でしょ? だったら工学的に作った方が良いんじゃないの」


 実の所、カルロスには魔導機士技術を転用して作るという発想が無かった。だが冷静に考えるとその方が良いかもしれないと思えてくる。それでもまだ悩んでいるとクレアが笑顔で龍皇に問いかける。

 

「ねえ龍皇様?」

「む?」

「新しい龍体、魔獣の死体を繋ぎ合わせた奴と、龍型の魔導機士どっちが良いですか?」

「死体を、継ぎ合わせたもの……?」


 何て恐ろしい事を言うのだろうという表情を浮かべている龍皇はどう見てもドン引きしていた。

 

「わ、妾は我が似姿の鉄人形を所望する!」

「決まりね」


 笑顔を浮かべるクレアを見てカルロスは思った。死霊術をそんな悪意に満ちた言い方しなくてもいいじゃないか……と。自分が嫌っている物でも他人に言われるとまた微妙な気分になる物なのである。

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