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死霊術師の人型兵器研究日誌  作者: 梅上
第七章 第一次機人大戦:序
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05 パワー

 完全に倒れ込む寸前。デュコトムスは地面に手を突いて完全な転倒は避けた。そのまま低い姿勢で走り出す。

 内心でトーマスの名を叫びながらカルロスは笑みを崩さないまま、背後にも聞こえるような声でハーレイに語る。

 

「どうもうちの操縦者は大舞台に緊張しているみたいですね」

「そうなのですか?」


 ハーレイの言葉には若干の疑問が入り混じっている様だった。未だバランスを取る事にも四苦八苦している機体だとバレたかもしれない。

 

「ええ……若干上がり症な所が有りまして」


 すまん、トーマスと心中で謝る。だがここは押し通すしかない。あくまで操縦者のミスであると。

 

「なるほど。いや、しかし中々の速さですな。あの巨体である事を考えると素晴らしい」


 言われて漸くカルロスも投影画面の情景を見守る余裕が出来た。ハーレイの言うとおり、デュコトムスは結構な速度――具体的にはエルヴァリオンとほぼ互角だ。全く加減をしていない巡航速度にカルロスは再度トーマスの名を叫ぶ。全然無理をしない程度じゃないじゃないか、と。だがその甲斐あって背後の反応は好意的だ。

 

「流石に先程のケルベインには及びませんが、この機体も速い」

「あれだけの重装甲で良く動きますな」


 見るからに分厚い装甲を着込んだデュコトムスは一見すれば鈍重そうだ。しかしこの映像はその印象を裏切っている。テュール王家側などは兵員の保護を考えると装甲が厚い事に越したことはない。それでいて十分な速度もあるとなればそれだけでも好印象だ。

 

「武装は変えていないんですね」


 射撃用の的があるコースに入り込み、クロスボウを手に取ったデュコトムスを見てハーレイがそう言った。グリップ部を大型化したデュコトムスに合わせたサイズにしただけで、機構自体に全く違いは無い。


「目下準備中です……間に合わなかったので」


 まだ本命があるんだぞ、と牽制するとハーレイは破顔した。


「なるほど。うちと同じですね」


 牽制したつもりが強かな反撃を受けた気分だった。まだ、テジン王家側にも隠し玉があるらしい。余り嬉しくないニュースだった。今の段階でも十分に強敵だというのに。

 

「しかしクロスボウを軽々と扱いますね。機体自体にパワーがあるからか、全く照準がぶれていない」

「操縦者の動きを忠実に再現できるようにしていますので」


 パワー不足でグラついていた様な挙動もデュコトムスならば安定して行える。今はバランスが崩れていて一般操縦者では逆にふらつく始末だが、それも解決の見込みがある。

 

「っと……」

「ちっ」


 そうして試験を見守っているとトラブルが発生した。崖の側を通過した際に運悪く上から落下してきた岩がクロスボウに直撃したのだ。大した防御力も無い機械式の弓はあっけなく破損し、使用不可になった。即座にそれを判断したトーマスは機体を軽くするためにクロスボウを投棄した。

 

「……これではこの先の試験は行えませんな」


 射撃用の的はまだ存在している。だが肝心の射撃武器が無い。『土の槍アースランス』はデュコトムスの試験機からは外されているため、本当に何も無いのだ。確かにカルロスも不満げな顔をしていたが不敵な――作るのに少々苦労した――笑みを浮かべた。

 

「確かに射撃武装は無いですが……それで的を射抜けないというのは早計です」


 問題はトーマスが気付くかどうかだったが――カルロスはトーマスの操縦センスを信頼している。間違いなく自分を除けば新式魔導機士への適性はトップだ。機体の性能を十全に発揮させることが出来れば可能な攻撃。

 

 次の的が近付いてきた時にデュコトムスが取った行動にカルロスは小さく拳を握った。気付いてくれた。機体の脇辺りに右手を翳す。そこに存在するのはカルロスがクレアの反対を押し切って取り付けた固定武装。トーマス以下複数名からから「固定武装……?」と首を傾げられながらもその有用性は認められた一つの魔法道具。

 

 翳した掌に、一振りの短剣が握られた。持ち手が短く、重心が先に寄った投擲用の短剣。黒みがかった土色のそれは明らかに魔法で作られた物。何時か第三十二分隊が地竜と交戦した際に見せた創剣の魔法。第三十二工房でテトラとライラがちょろまかした資材で作り上げたその魔法道具。

 今回搭載したのはそれを魔導機士に搭載可能な程に小型化したものだ。例え武装を全て失おうとその場で武器を作り出せるようにする為の物。本来は長剣を作り上げる物だったが設定を変えれば短剣も作り出せる。今の様に。

 

 何でもない事の様に、二本の指で挟んで手にした短剣を無造作に投擲する。真っ直ぐに飛んで行った短剣は狙い違わずに的を砕いた。

 

「投擲……ですと?」


 魔導機士はそれほど器用では無い。というのが通説だった。指先の細かな動きまで再現している訳では無いので当然と言えば当然なのだが、デュコトムスはその巨体に似合わず繊細な動作が可能だった。それはむしろ大型化した事で機構に余裕が生まれたという事もあった。結果としてトーマスの異常な操縦技能と合わさる事で人間と殆ど大差のない指の動きが可能になったのだ。とは言えまだまだ全身の関節数などで人間そのものの動きは出来ないというのが現状だが。

 

 先ほどの一投がまぐれではないと証明するようにデュコトムスは投擲で次々と的を射ぬいて行く。流石に射程はクロスボウほども無いが、威力だけなら上かもしれない程だ。

 

「ケルベインで同じ事を真似しようとしてもあの半分も飛んで行かないでしょうね……大した出力の駆動系だ」


 暫定的ではあるが、駆動系――特に腕部の最大出力はデュコトムスはケルベインの倍近くある。ケルベインは最大出力はエルヴァリオンよりも低い程だ。ウルバールに毛の生えた程度でしかない。そこが魔導炉のリソース配分で犠牲になった箇所だった。

 

 圧倒的なパワー。それを見せつけたデュコトムスへの評価は悪くない。上々の反応に安堵したカルロスだったが、一つ気になる視線に気づいた。

 

 テュール王家の人間だ。カルロスが視線を向けるとそっと逸らされた。妙な感情の動きだった様に思える。バランガ島は全体に融法阻害がかかっているのでカルロスもまともに読み取れないのだが――今のはまるで残念がっている様だった。デュコトムスに不満があるという訳ではなさそうだが一体何が残念なのか。カルロスには心当たりが無かった。

 

 その視線の意味は直ぐに分かる事になった。

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