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死霊術師の人型兵器研究日誌  作者: 梅上
第五章 逃亡編
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19 紅の鷹団との再会

 ラズルの語りを聞いた後のカルロスは若干重い足取りで船底へと向かう。元々食料を保管していたそこは、今は即席の牢獄となっている。にしては随分と砕けた雰囲気だが。

 

 カルロスが足を踏み入れると全員の視線がそちらに向いた。ぎこちなく笑みを浮かべながらカルロスは片手を上げる。

 

「よ、よう。久しぶり」

「よーしカール。そこに正座しな」


 そこに詰め込まれていた人物たちは、紅の鷹団と言った。

 

 つい一月ほど前までカルロスが隠れ蓑として在籍していた傭兵団だ。手酷い裏切りを働いて、喧嘩別れをしたという相手でもある。はっきり言うと合わせる顔が無いのだが、ライラの説得で彼らが降伏した以上、知らんぷりは出来ない。そして厄介な事に……彼女はカルロスが顔を変えて名前を変えて潜伏していた事をぶちまけていてくれた。

 一先ず言われたとおりに正座をし、深々と頭を下げる。

 

「その節は大変ご迷惑をお掛け致しました」


 もうここは只管に頭を下げる一手だ。どれだけ言い繕うと非はカルロスの側にある。

 

「まずは、あんた。カールって偽名だったんだね」

「うん、まあ。そうだ」


 え、姐御気付いてなかったのか? 姐御だからなあと言う声が背後から聞こえてきた。カルロスとしても自分の完璧な偽装が見抜かれていたのかと驚愕に目を見開く。

 

「カルロス・アルニカ。それが本当の名前」

「なるほどねえ……」


 マリンカが納得した様に頷いていると禿頭の傭兵がカルロスに向けて肩を竦めながら言った。

 

「お前さん今やアルバトロスから賞金かけられてるぞ」

「マジっすか」

「ああ。クレア・ウィンバーニ殺害の罪でな」

「殺害……」


 なるほど、そう来たかとカルロスは内心で困った事になったと舌打ちする。クレアの名声を使われる前に先んじて亡き者にしてきた。人間先に言われた事の方が信じやすい。実は公爵家の令嬢です、と実は死んだとされた公爵家の令嬢です、では相手からの信頼が全く違う。

 無論、証明できればそれだけでアルバトロスを非難する大義名分になるのだが、難しいだろう。レクター氏が存命ならばまだ話は違っただろうが、今や唯一のウィンバーニの血を引く彼女の事を証明する術が無い。

 

「何だ、素顔を隠しているって聞いたからどんなブ男かと思えば良い面じゃないか」

「ばれるわけには行かなかったからな」


 だがもうその必要も無い。むしろ変に顔を隠しているというのは相手からの心証を損なうと考えて積極的に晒している。

 

「それで? うちの団を勝手に抜けて行ったカルロスさんはうちに何の用ですかね?」

「……いや、ただ一言謝りたかっただけだ。本当に、すまなかった」


 再び頭を下げるカルロスに団員がマリンカへ野次を飛ばす。姐御、許してやれよー。っていうか別に気にしてなかっただろう。むしろさびしがってたよな。等々。

 

「あんたら黙りな!」

「へーい」


 相変わらずの距離感にカルロスも思わず口元に笑みを浮かべる。

 

「カール……いや、カルロス」

「……イラか」


 マリンカの後ろから前に出てきた男はライラが直接説得し、彼を挟んで紅の鷹団に降伏を勧めさせた。イラ・レギン。カルロスの同胞であるライラ・レギン実兄だ。

 

「ライラに会えたよ」

「そうか……良かったな」


 今のライラが仮初の命である事。それをカルロスは告げられなかった。本当にうれしそうな顔をしているのが分かってしまったからだ。

 

「お前に助けられたと言っていた」

「そうか」


 まあ確かにある一面ではそうだろう。今のライラがいるのはカルロスの手による物だ。カルロスが居なければ彼女は地の下で眠りに就いていた。

 

「教えてくれ。あの時俺に言った言葉は何だったんだ?」


 正直に言うと、また会う事があるとは思っていなかったのだ。仮にあってもそれは戦場で、敵と味方に分かれて命のやり取りをする時だと思っていた。故にあれは真実の置き土産の様な物で、こうして再会してしまった以上誤魔化す必要があった。

 

「帝都に俺達だけで突っ込むなんて自殺と大差ないだろう。それを指しての事だよ」


 下手糞な嘘だというのは相手も気付いただろう。だがまさか本当に一度死んでいて尚動いているなんて発想には至らなかったのだろう。不審そうにしながらもイラは納得の頷きを返した。

 

「分かった。そういう事にしておこう」

「それで、カルロスはあたしらをどうしたいんだい?」

「姐御の身体が目当てならやめておけ。潰されるぞ」

「ラズルと真っ向から打ち合える奴がやばいってのは良く知ってるよ……」


 しかもリビングメイルと日緋色金の剣のフル装備状態のラズルとだ。どっちも等しく人外の領域に足を突っ込んでいる。

 

「ああ、あの兄さんは強かったね! あたいと力比べをして互角だったのは初めてだよ!」


 新鮮な経験だったのだろう。興奮気味にマリンカはそう言う。

 

「そうか。実はそのラズルからの頼みでな……紅の鷹団に仕事を依頼したい」

「……仕事?」

「そう。ログニス王党派との専属契約だ。期間は……ログニス奪還まで」


 何よりも今、ラズルが欲しているのは手持ちの戦力だ。文官はそこそこに残っているが、武官はチリーニ領での鎮圧作戦で大きく数を減らしている。その損失を傭兵で穴埋めしようと考えていた。それがアルバトロスで魔導機士を運用していた傭兵団なら尚の事だ。僅かでもそのノウハウを蓄積している人間は貴重だ。

 

「今あたしらはアルバトロスと契約しているのを知らない筈がないよね?」

「うん、悪いけど破棄してくれ」


 あっさりというカルロスに流石のマリンカも唖然としている。その場にいたからよく分かっているが、そんな簡単に反故に出来る契約では無い。それでも、カルロスはわざわざ紅の鷹団と敵対したいとは思えなかったのだ。

 

「条件は良いと思うぞ。アルバトロスに残っている奴らの移動のサポートはする」


 主にオスカー商会と言う潜在的な王党派支持者が。コーネリアスの顔を思い出してカルロスは嘆息する。あの御仁、相当に危ない橋を渡っていたらしい。

 

 考え込んだマリンカを見てカルロスは一先ず時間を与える事にした。

 

「ハルスに着くまで解答は待ってる。良く考えてくれ」

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