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異世界猫冒険物語  作者: 猫丸 透
3/5

我輩は猫である。名前はにゃん丸という....

崩れ落ちる少女。

どうやら先ほどの変態クロタイツ男はどこかに消えていったみたいだ。


「おい、だいじょうぶか!?」


咳き込む少女。

とっさに駆け寄ろうとするが、そのときにもまたひとつ、いや、二つの違和感が生まれた。


しかしいまはそれをおいておくとして慌てて四本足で駆け寄る。


「けほっ、けほっ」


むせる少女の背中を両前足で叩いてあげる。


「あ、ありがと」


「いや、別に構わないよ」


しばらく少女の背中を叩いたり撫でたりしていると、少しずつ咳もおさまってきた。


(そろそろ大丈夫そうだな)


てくてくと、少女の前にいき、顔を覗き込む。


「しっかし、災難だったなあんた。あんな変態に絡まれるなんてよう」


話しかけたとたん、少女がキョトン、と首をかしげる。


(か、かわいいな!)


少し血色の戻って、それでいてまだ白い肌。

長く伸ばされ、しかしとても滑らかな黒髪。

ぼうっと見とれていると急に少女のてが延びてきて、後ろ足を捕まれる。


「うわっ、わっ、何すんだてめい!」


急に持ち上げられ、上下逆さまになる。


「なにこれ、猫がしゃべってる」


そして今度はわっさわっさと上下に揺さぶられる。


「こら、離しやがれ、このガキ!」


ポーン

言われた通りにしたのか、はたまたただ手が滑っただけなのか。

とりあえず脱出することができたのでもう一度少女の方を見つめる。

しかし、そこにもやはり違和感があった。

別にしゃがんでるわけでもないのに、座っている少女よりもなお低い視点。


少女のまたの暗闇の向こうは見ることはできないが、とにかくそれほど視点が低い。


「とりあえず助けてくれてありがとう」


少し考察の海に沈んでいると少女に話しかけられる。


「私はクラ。魔術師よ。クラってよんで」


「あ、自己紹介か。はじめましてクラ」


俺の名前は...そういいかけて口が止まる。

目の前の少女、クラというらしい、にも首をかしげられる。


「あなたの名前は?」


「...なんだろうな」


☆☆☆


「にゃ、にゃ、にゃんですとーー!!??」


「あ、それ、かわいい...」


「いや、そんな悠長なこといってる場合じゃなくて!」


先ほどからの違和感、それがいま明かされた...!


(いやいやいや、そんな格好つけてる場合でもねーし!)


「?」


(なに?気がついたらここ、よくわからん場所にいて?

しかも、記憶もなくなってて?

さらにさらに、ねこになってるだと?!)


「ねこさん、どうしたの?」


(....なんか知らんがこれって詰んでね?)


「ねこさん?ねこたん?にゃーにゃー?」


「あーっ、もどないせーちゅうねん!」


ビクッ


「今度はかわいくない....」


おらぶ猫に驚くクラ。


「ねぇ、どうしたの、ねこさん?」


「あ、ごめん。ちょっと取り乱した」


「それで、名前いつ教えてくれるの?」


(....あえてここはあまりシリアスにならない方がいい、か?)


「あ~、それね。なんか、忘れた」


「忘れ、た?」


「そう、忘れた」


「つまり、どう言うこと?」


「記憶、無くなってる」


「....本当に?」


「うん、ほんとうに。」


「ほんとの本当に?」


「ほんとの本当に」


コテっと首をかしげるクラ少女。

いや、首傾げたいのは俺っちの方ですわぁ…


☆☆☆


「じゃあ、ねこさんのいまの状況をまとめると、

①別の場所(おそらく別世界)からやって来た

②記憶がなくなってる

③もとは人間なのに猫になっちゃってる」


確認するようにこちらを向くクラ。


「あ、そんな感じ。てか、そのまんま」


「....名前の記憶もないの?」


「うん、ない」


すると突然一人でうなずくクラ。


「なら、代わりに私が名前、つけてあげようか?」


「確かに名前がないのは不便だしな」


よろしく頼むとしよう。

するとクラは考えるときの癖なのか顎にてをあて、目をつむった。

しばらく静かな時間が流れる。


(そういや、あまりここに長居しない方がいいんじゃないか?)


先ほどのクロタイツの変態のこともある。

あまりここは安全、とはいえない場所なのかもしれない。


「なあ、とりあえず移動しないか?」


「移動?それもそうね」


立ち上がるクラ。

しかしその足元はいまだ覚束ない。


「おいおい、大丈夫かよ」


「だめ、かも」


再び尻餅をつくクラ。


(ん~、どうしたもんかね)


おぶろうにも猫のすがたでは逆に自分がつぶれてしまう。

かといってここにおき去ることもできない。

なにかいい考えはないかと頭を捻っていると、


「大丈夫。私魔術師だから」


そういってクラが不思議な言葉を紡ぎ始める。

十数秒でそれは終わり、とたん、クラの足元から翼の生えた生物が現れる。


「さ、さすが異世界」


「ほら、あなたものって」


ほら、ここに乗れといわんばかりに自分の膝元を指すクラ。


(でもこれ、完璧空飛ぶよな。仕方あるまい、これは不可抗力だ)


ピョンと地面を跳ねる。

そして軽やかにクラの膝元に座る。

とたん、延びてくるクラの手。


なでりなでり


「....なに?」


「癒し系?」


「....はよいこうや」


☆☆☆


空の旅というのはとても快適だった。

本来強く吹き付けられるはずのが風も、クラの魔法のおかげでそよ風のようだった。

そして何よりも素晴らしかったのは眺めだ。

飛び立ってすぐに、近くにあった川はどんどん小さくなり、少し離れたところには街らしきものも見えた。


「なあ、クラ、いまどこに向かってるんだ?」


「私の家」


「クラは街にすんでないの?」


いまの進路は街から離れる方を向いている。

先には深い、空から見ても端が見えないほど広い森があった。


「私はあの、森の真ん中らへんにすんでるの」


「も、森のなか!?」


この世界の常識は知らないし、記憶も失っている。

それでもクラのいっていることは普通でないことぐらいは分かる。


「危なくないの?」


「危なくない」


なにか事情があるのかもしれない。

そう思ってこれ以上は聞かないことにする。


「それより、あなたのこと何て呼べばいい?」


「へ?あ、俺ね。

ん~好きによんでいいよ」


というより、クラがつけてくれるということで落ち着いたんじゃなかったか?


「じゃあ、にゃん丸」


「....なんかほかにいいのない?」


「にゃん丸」


「だから、べつの....」


「にゃん丸」


「はぁ、もうそれでいいよ」


強情なクラ。こうして俺の名前は“にゃん丸"に決定した。


「もうそろそろつくよ」


ほかにこの世界のことなどを聞いていたりしていると、いつの間にか目的地についたようだ。


見えてきたのは、一軒の確かに家の呼べるものだった。

無事空中回遊を、終え着地。

クラより先にぴょんと地面に降り立てば、森の柔らかい土が肉球を優しく刺激する。


「しっかし、本当に森のなかだな」


「うん。こういったところの方が落ち着くから」


「でも、危険な動物とかでない?」


「時たまでるけど、別に危険じゃない」


「ふ~ん」


「ほら、入って」


「お邪魔しまーす」


クラに案内されてはいった家。

全体を蔦で囲まれていて、しかも日の光が当たり、どこか神秘的な雰囲気を持っていたのだが、家のなかはというと...


「なにこれ、きったな!」


床一面に本や布所謂着替えが広がっていて、正直足の踏み場もなかった。


「ちょっと散らかってるだけじゃない」


「いや、ちょっとどころじゃないって...」


クラはこんなの普通といわんばかりに部屋を普通に横切っていく。

不思議なことに、その足取りは迷いなく、そして地面に置かれてるものを普通に踏みつけて行く。


「ま、まじかよ…」


「ほら、こっち来て」


「まあ、猫だから踏んで転ぶとかはないけどさ...」


猫としての体重のかるさ、四足歩行の安定差をもってクラに続く。


次の部屋は先ほどの部屋よりきれいだった。


「なにここ」


着替えが散乱しておるが、本が一冊もない。

ただもう一枚扉があるのとかごが数個置いてあるだけだ。


「脱衣場」


「あぁ、だから服しか散らかってないのか。

って、脱衣徐!?」


「だって私泥だらけだもん。ついでにあなたも洗ってあげる」


「いやいやいや、俺、男だし!?」


はて、なにか問題が?と、首をかしげるクラ。


「はだか見られて恥ずかしくないの?」


もしかして、この世界では男女が一緒に風呂にはいるのは当たり前のことなのだろうか。

ふとそうおもったとき、


「別に猫に裸見られたからって」


「そ、そういうこと」


☆☆☆


「あ~さっぱしりた」


「肌色が、肌色が、は、肌色が....」


「どうしたの、にゃん丸?」


「にゃーーー!!」


「わっ、ビックリした」


先ほどの入浴タイムにて、にゃん丸はクラに全身を隅々まで洗われたのだ。

裸のクラに。


「いっておくがなぁ、俺は元々人間なんだよ!それも男の!」


「でもいまは猫」


「そうだけどさ!」


「いいからにゃん丸こっち」


こいこい、と手招きさせる。


「今度はなにするつもりだよ」


「ブラッシング」


ボンッ

突然クラの指先から煙がで、そこにはいつの間にかブラシが握られていた。


「いまのも魔法ってやつ!?」


先ほどの喧騒もどこへやら。

てくてくとクラの膝元へ近寄るにゃん丸。


「そ。ほら、ここ」


トントンと、クラは自分の膝を叩く。

ブラシにつられてか、反論なくそこに座る。


「ふーんふふーん♪」


ゆっくりと、それでいてツボをしっかりおさえられたブラッシング。

これも魔法の効力なのか、ブラシはまるで日向におかれていたかのような暖かさを持っていた。


(あ~、ヤバイよヤバい。これ、スッゲー気持ちいいわ~)



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