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聖刻戦争  作者: DENN
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1-4 異能対異能

聖刻戦争のルール

『異能は聖刻者と契約を交わさなければ通常の能力を発揮できない。

 その力は極めて弱いものとなる。

 契約を交わした聖刻者が死亡した場合、異能者は他の聖刻者と再契約を結べる。

 ただし、重複した契約(二人以上)はできない。』


                         聖刻戦争伝承記④

                        「基本ルールについて」

                           著者:不明




――――コロネロ邸

 自分よりも一回り以上も大きい敵、ボーガンと対峙するクロード。その体格差は、クロードが正面向き合うと顔を見上げてしまうほどである。しかしながら、クロード本人は物怖じすることなく、堂々とその場に構えていた。

 広間の奥階段の頂上には、コロネロが大声であれこれ指示をボーガンに叫んでいる。屋敷に入られたことが相当気に入らないのだろう。その様子を観察し動向を伺っているのが、広間の隅にいるノエルとバジル。すぐに、階段を上りコロネロを捕らえる準備をしている。

 「……では……こちらから参る」

 先に動いたのはクロード。懐に隠してあるクナイを片手に三本ずつ指の間に挟み持ち、敵の胴体目がけて投げる。しかし、ボーガンは右腕でクナイを弾き飛ばす。

 「そんな……ものは……効かない……」

 「……だろうな」

 今の攻撃の最中に、ボーガンの背後に回っていたクロードは、背中を狙い今度は短剣を投げつける。しかし、ボーガンは慌てることなくその場に立ち尽くす。短剣は、筋肉質の肌に触れたとたん、刺さることなく弾かれた。

 「……ん……?」

 目の前で起きたことに、疑問が残るクロード。常人であれば致命傷レベルの攻撃だったが、傷一つ与えていないことに不思議がる。

 「言った……はずだ……。俺には……効かない……」

 ゆっくりと振り向いたボーガンは、クロードに向かって勢いよく拳を振り下ろす。なんなく避けたが、さっきまでクロードが立っていた場所は、大理石で出来ている床にひびが入っており、明らかに陥没している。

 「ぎゃははははは! ボーガンには傷なんかつかないんだよ! そいつの異能は『硬化』! 全身がダイアモンドの様に固くできているのさ。お前じゃあ、ボーガンに膝をつかせることもできねぇよ!!」

 愉快に笑っているコロネロがクロードに指さして叫ぶ。よく見てみると、さっきの弾かれた短剣の刃が欠けている。

 「これでは、クロード殿に打つ手がないじゃないですか! ノエル殿! どうするんですか!?」

 「…………」

 コロネロが放った言葉に焦るバジル。隣でじっと戦況を見つめるノエル。

 異能は全部で66種類存在すると言われ、それらはいくつかの分類で分けられている。スザクの『火』は元素系に属され、あのボーガンの異能『硬化』は体変系と呼ばれるものだろう。

 状況は一転してボーガン側が優勢になった。体型の割に機敏な動きでクロードに向かって殴り続ける。それを無言で反撃をせず避け続けるクロード。豪華な広間は一変して戦場と化している。

 「ノエル殿! なんとか状況を変えないとこのままでは……」

 いてもたってもいられなくなったのか、武器を構えるバジル。

 「大丈夫。やっと見つけたみたいだから」

 「……えっ? 一体何を……」


 「……お前……避けてばっか……弱い……」

 「……ああ。悪かった。もう避ける必要はない」

 壁際まで追い込まれているクロードは、小さく呟いた。すると、左手を壁に押し当てスイッチらしきものを押す。広間にはきらびやかなシャンデリアが吊るされていたが、スイッチを押したことで光が灯る。

 「ぎゃはははは! 何をしたかと思えば、ただ電気を点けただけじゃねぇか。とうとう気が狂ったか?」

 高らかに笑うコロネロ。もう敵に打つ手なしと思ったのだろうか。堂々と階段を降り両手を広げ大声で叫ぶ。

 「やれ! ボーガン! 止めを刺せ!」

 命令を受けたボーガンだったが、なぜかその場からピクリとも動かない。拳を振り下ろせば届く距離だが、その場で立ち尽くしたままである。

 「…………」

 「おい!? 何やっている! 聞こえないのか!?」

 「……う……ご……か……な……い」

 「……はぁぁああ!?」

 「一体何が……?」

 眼を見開きながら大声で叫ぶコロネロ。状況がつかめないバジル。すると、ノエルがバジルに呟く。

 「影だよ」

 言われた通り、ボーガンの影を見たバジルはあることに気付いた。両足、胴体、首までは普通の影となっていたが、頭頂部の影から細長く一本の影が伸びており、その先にはクロードの影と繋がっていた。

  「……影をつなげることで貴様の身体の動きは制限される。そして……」

 懐から新たにクナイを一本取り出したクロードは、ボーガンの影に向かって放つ。床に突き刺さったクナイを確認したのち、繋げた影を外してゆっくりとボーガンに近づいていく。

 「……影は離れた……のに……な……ぜ……」

 ピクリとも動けないボーガンはかろうじて声を発している。

 「……影縫い(シャドウ・スティッチ)。貴様の影はそこから動くことはない」

 ボーガンの目の前まで歩いてきたクロードは、冷たい眼差しで睨む。

 「……貴様だけが特別だと思うなよ? 私もこの通り異能者だ。能力は『影』。全ての影は私の支配下だ」

 右手にある刻印を見せるため、袖をまくり右手の甲をボーガンとコロネロに見せつける。

 「そうか……薄暗かった状態だと影がはっきりしないから、電気を点けるため広間を確認していたんだ」

 先ほどまでの偽りの劣勢だった理由に気付いたバジルは、クロードの思考に感嘆している。確かに、屋敷へ突入したときから広間は暗かったし、外は曇りがかっていて太陽があまり見えていない。クロードの異能は、影がなければ機能しない。よって、この戦いは最初からクロードの手中だったことになる。

 「……チッ! だがなぁ! 動きを止めても攻撃が通らないなら意味がねぇ!」

 怒りと興奮で、赤く染まる顔にさらに血を上らせ、コロネロが大声で叫ぶ。確かに、クロードの得意とする暗器は、先ほどの戦闘で通用しないことは証明済みだ。

 「……ふん。影縫い(シャドウ・スティッチ)が決まった時点で勝負は決した」

 クロードの影がウヨウヨと動き、原型をなくしはじめた。すると、影の中から真っ黒な巨大な大鎌が現れた。クロードは右腕を真後ろに出し、片手で大鎌を掴む。その鎌は、柄が漆黒に染まり刃の付け根には眼のような文様があり怪しげに赤く輝いている。

 「な、なにかと思えば、ただの巨大な鎌じゃねぇか……そんなものでボーガンに傷をつけれると思うなよ!!」

 コロネロの言葉とは裏腹に、大鎌を両手に持ち替え水平に構える。切れ味は見た目からして良さそうだが、ボーガンに通じるのだろうか。

 「……この鎌の名は『魔天狂骨』。影が作りし異界の武器。この鎌は人体を斬るのではなく精神を斬る」

 「……せい……しん……?」

 「……まぁ、受けてみればわかるが……な!!」

 大きく振りかぶり、ボーガンの胴体に斬りこむ。クナイと同じく弾かれるものかと思われた。だが、『魔天狂骨』と呼ばれる鎌は、音もなく胴体をすりぬけた。

 「外した? いや、確かに当たったはず」

 息を飲んで見守っていたバジルが口を開く。隣にいるノエルは無言で見つめている。その目は、不安の色ではなく自信に満ち溢れていた。

 「拍子抜けだな! 血も出なければ傷もついてねぇじゃねぇかよ! ボーガン、さっさとそいつをぶっ飛ばせ!」

 勝ったと思ったコロネロは、階段を降りながら叫んだ。

 「……うぅ……なにを……した?」

 そう小さく呟くと、巨大な身体は意識が落ちたように倒れこむ。それを見たコロネロは、目を見開きその場で立ち尽くした。

 「……若。ただいま終わりました」

 『魔天狂骨』を自らの影にしまいこんだクロードは、倒したボーガンに見向きもせず、ノエル達のもとへ向かう。

 「お疲れ様! クロ!」

 「ク、クロード殿? 今のは?」

 「……私の『魔天狂骨』は外傷を与えることはできない。だが、人の心、精神力を奪う」

 「じゃあ、あいつは意識をなくしたってこと?」

 「……まぁ、一回斬っただけだから時間が経てば起きるがな」

 バジルに状況説明している傍ら、ノエルがコロネロに向かって歩いていく。

 「さぁ……コロネロ! もうお前を守るものはいなくなったぞ!」 


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