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聖刻戦争  作者: DENN
2/5

1-1 始まり

聖刻戦争のルール

『神オイフェに選ばれたものは聖刻印を与えられ聖刻者となる。

 聖刻者は全部で10人。最後に残ったものは次の王としてメガラニカを統治する権利が与えられる。

 聖刻者に選ばれるのはオイフェの独断の決定であり、選ばれたものしかなることができない。現国王は引き続き聖刻戦争に参加する。

 なお、聖刻戦争は聖刻者が一人になるまで終わらない。』


                           聖刻戦争伝承記①

                         「基本ルールについて」

                               著者:不明


 この世界は非情だ。

 そう思い始めたのはいつだっただろうか。前回の聖刻戦争終了直後、母親は私が生まれてすぐに亡くなった。だから私は母親の顔を知らない。知っているのは厳格な父上と優しい兄上の姿だけ。四つ歳が離れていた兄上は、私が生まれる前の両親のことをいつも幸せそうに語っていた。父上は、母上のことを愛し、子ども達にも愛情を注いでいた。母上が亡くなるまでは。母上を失った父上は人が変わったように厳しくなり、兄上ともたびたび衝突した。そして、私も……


 「ノエル~? 何やってんの~? 早く来ないと日が暮れるっての~」

 「ごめん! 今行くよ!」

 大森林の中、置いてかれては迷子になってしまう。そう思いながら前に歩いている私よりも背が大きい三人のところへ駆け足で追いかける。私たちは訳あって旅をしている。今はメガラニカ東部の森林地帯をさまよっている状態だ。地図はなく、目的地を目指して今日も歩き回っているのだけど。

 「さっさと今日の寝床見つけねぇとまた野宿になっちまうぜ」

 四人の中でも一番大柄な男が愚痴をこぼしながら歩く。

 「うるさいな~。そもそもお前が先頭歩くと目的地に何日かかってもたどり着けないっての」

 腰に長剣を携えた男は、前を颯爽と歩く大柄な男を指さしながら面倒くさそうに答えた。

 「……若。体調は大丈夫ですか? ほんとうに申し訳ありません。あのバカ二人が道を間違えるものですから。全くもって使えないバカ共です」

 「いや、心配しないでクロ。それにスザクやハヤテだってわざとじゃないんだし。急ぎの旅でもないんだから気楽に行こうよ」

 私の横に歩いている執事姿の男が、心配してくれている。心配する理由はわかる。ここ何日も野宿を繰り返し、正直言って疲労が溜まっている。あまりアウトドアな生活をしてこなかったツケがここで回ってきたのだろうか。


 私たち四人は旅をしている。

 それぞれの事情があり目的があって共に行動している。

 私のことを若と呼ぶこの人はクロ。歳は21歳で本名はクロードと言う。幼い頃から世話役として仕えてくれているお兄さん的存在かな。黒髪でトレードマークは黒縁のメガネに執事のような恰好をしていて、見た目通り料理が上手な完璧超人。たまに毒舌になるのがキズなんだけど。


 もう一人は、先頭を突っ走っている大柄でライオンのようにオールバックで赤毛の男はスザク・レッドフィールド。歳はクロと同じだけあって、すごい頼りがいがあって私を守ってくれる。だけど、喧嘩っ早いし、口が悪いし、何よりも方向音痴が直らないんだよね~。彼のおかげで現在三日連続で野宿生活。


 そして、最後の一人は常に面倒くさがりな気分屋男子。ハヤテ・レイブン。この中では一番新入りなはずなんだけど、20歳の彼がもう旅の主導権を支配しているところが面白い。剣士としての実力は凄いんだけど、やる気のなさが目立ってしまうのがギャップなのかな?髪の色が黒と白が混ざった感じになっていて苦労してるんだろうな。


 こんな個性が際立つ集団で旅をしている。あ、そうそう私が一応リーダーとして動いているノエルといいます。この中では最年少の17歳。本名はノエル・アル……

 「おい! ノエル! 何ぼーっとしてるんだよ。さっさとこっち来いよ」

 どうやら疲れているせいか、また立ち止まってしまったらしい。私は、顔を少し赤らめながら皆のところへ向かう。

 「そうカッカすんなって。ルルは思春期まっただ中。いろいろと妄想をするんだよ。なぁ? ルル?」

 「うるさいなぁー、ハヤテこそ厨二病こじらせてたんじゃないの?剣士って見た目だけで、厨二病っぽいよ。して、どうしたの?」

 軽く私のことをいじってきたハヤテを軽く受け流しながら、逆に問いかけた。

 「……村が見えました。これでようやく野宿ともおさらばです」

 「やった! とりあえず村長さんか誰かに泊めてもらえるか話してみようよ! やっと……きれいな場所で……安心して……寝れる」

 「おい、今安心して……って言ったよな? ルルまさか毎晩ビビッて寝れていなかったのか?」

 「そこ! うるさいよ!!」

 安心するに決まってる。猛獣とか襲ってきたりしたら……大雨が降ってきたら……とか考えると気持ちよく寝れたことがない。ノエルはやっとの想いで寝ることができると思い駆け出した。

 「……お待ちくださいっ。若! 走ると危ないです! ケガをしてしまいます!」

 私の後をクロが急いで追いかけ、ようやく見つけた村に向かって走り出す。

 「おい、ハヤテ」

 「なした? スザク」

 「ちゅうにびょうって何だ? ノエルは病気なのか?」

 「……いやいや冗談だよ。俺らの中で一番重症なのは……お前だよ」

 ハヤテはあきれた様子でスザクの肩をポンと叩いてノエルとクロードの後を追いかけていく。

 「ちょっ、ちょっと待ってくれ、俺は病気なのか? おい、待てよハヤテ! どうしたら治るんだよ!」

 一人その場に残ったスザクは慌てて後を追いかけた。



 リンド村は、メガラニカ東部に属している村で人口も少ない。農業が中心でメガラニカ東部の食料を担う一部として機能している。村の周囲は私たちが歩いてきた森林に囲まれ、人里離れた辺境の地となっている。

 メガラニカは現国王シャルル・アルスターの支配下に置かれ、中央に王宮等がある中央区と、東西南北にそれぞれ区画分けされており、それぞれの区域で特徴が違う。東部は比較的治安も良く、のんびり過ごす人々にとっては住みやすい土地だろう。

 「これぞ平和!! って感じの村だな。早く美味いもん食べて~」

 「ハヤテは東部出身じゃなかったっけ?」

 「ああ、俺は北部の田舎育ちだからよ。東部の食べ物は美味いって噂をよく耳にしたよ」

 私たちはお互いの過去のことはあれこれ詮索しないようにしている。話したいときに言おうという決まりだったので、ハヤテが北部出身というのは初耳だ。

 「……」

 「クロ? どうかしたの?」

 周りを警戒していたクロを不思議に思った私はおそるおそる聞いた。確かに私たちは、村に入っているにも関わらず、人の気配が全くしない。昼間なので畑仕事に行っていると考えても、人がいないというのはおかしい。

 「……いえ……少し妙な噂があったのを思い出しましたので」

 「クロはこの村のこと知っているの?」

 ノエルはいかにも内情を知っていそうなクロに問いかける。クロは昔から本や情報収集に長けていたのでこの中でも一番物知りである。ハヤテやスザクからはよく【歩く図書館】【本の虫】などと言われている。

 「いえ、実際に足を運んだのは初めてです。ただ、少し前からコロネロという人物が突然やってきて、今日からこの村は俺のものだと言いだし、部下を引き連れ力ずくで手に入れたとか」

 「それが本当の話だったらひどい話だな。」

 ハヤテは腕を組みながら、クロードの話に答える。いくら東部が他の区域より統治されていても、中央から離れていれば監視が行き届かないだろう。

 実は、広いメガラニカを統治するため、国王はアルスター王国防衛軍。略して国防軍を各地に置き、反乱分子を捕らえている。国防軍は、独自に戦闘行為を行うことができ、さらには訓練もされているので、滅多に国に盾突く者は出てこない。

 性懲りもなく前を歩いていたスザクも話を聞いていたようで、ハヤテ達に呼びかけた。

 「おい、その話。残念ながら本当らしいぜ? あれを見てみろよ」

 私たちは、スザクに言われ、前方を確認した。すると、周りよりも大きい建物が見え、家の前には住人達が集う集会所のような広場もある。よく見てみると、多くの人に囲まれた中で誰かが言い争いをしている様子だった。



 「村長さんよ~。毎月毎月俺らのために貢物を律儀にどうも」

 「だが、最近俺らも忙しくてよ~。知ってるだろ? 聖刻戦争がいよいよ始まったんだ。だから、来月から貢物の量を増やそうと思うのだが、いいよな?」

 「こ、困ります。今払っている量だけでも苦しいのじゃ。これ以上増やすと生活ができなくなる。」

 「おいおい、困るな~村長さん。俺たちは誰のために頑張っているのかわかってます~? コロネロ様は聖刻印を持った次期王候補。聖刻戦争に勝ったあかつきには、お前らを中央区に移住させることだってできるんだぜ?」

 「し、しかし、いつ終わるのか見えない中、わしたちはどう生活していけば……」

 「そんなこと俺たちの知ったことか。さぁ! 払うのか。払わないのか。決めてもらおうか?」

 柄の悪いヤクザ風の男二人とこの村の村長が揉めている。見るからに恐喝をしているのはわかる。内容は貢物。つまり、村で取れた食料を毎月一定量渡さなければ村を潰す。そういったところだろうか。私たちは、村人に紛れ込みながら状況を確認していた。

 「支払わないっていうなら、こっちにも考えがあるぜ? 村長さんよ~」

 「要求に応じなければ、無理やりアジトに連れてこいとコロネロ様から言いつかってきたんだ。温和な話し合いをしましょう……ってな」

 「ま、待ってくれっ、考える時間がほしいっ。そんな急には」

 「待つ時間は残念ながらないんだよ! さぁ、来い!」

 「てめぇら! 道を空けやがれ! 村長が無事に帰ってくることを祈ってな」

 恐怖で震えている村長を乱暴に腕をつかみながら、村を去ろうとしている。私は、村長を助けようと一歩踏み出した。

 「……お待ちください。若。ここで目立った行動を起こしては目をつけられます。お気持ちはわかりますが、ここはご辛抱を」

 「でもっ! クロ! このままじゃっ!」

 なんとかクロの静止を振り切り助けに行こうとしたその瞬間。一人の少年が村長達の前に立ちふさがった。

 「ちょっと待ってくださいよ!」

 「あぁん? 何だ小僧。お前に用はないんだが?」

 前に出た少年は、私と同い年くらいだろうか。自分より一回り大きい相手に対し堂々と立っていることはすごい度胸だろう。

 「あんまりですよ! そもそも聖刻者って本当何ですか!? 証拠を見せてくださいよ!」

 「わーわーうるさい小僧だな! 殴られたいのか! あぁん?」

 一方、私とクロの対面側で見ていたハヤテとスザクが動き出そうとしていた。

 「おいスザク、そろそろ行かないとあいつヤバそうだぜ。こういういざこざはお前の専売特許だった気がするんだが?」

 「あんな雑魚ども俺が手を下す必要がない。早く行けハヤテ」

 「はぁ? なんで俺が行くんだよ。バカはバカが対処する。この世はそういう道理なんだよ」

 「…………」

 「…………」

 「おい。クソ剣士」

 「おい。筋肉バカ」

 遠くから見てもわかる。あの二人喧嘩してる。なんで目の前で事件が起きてるのに仲間内でやりあってるの?と突っ込みたくなるのを抑え、私は飛び出した。

 「ちょっと待ちなさい!!」

 今にも殴られそうな少年の前に私は立ち、さらに問いただす。

 「話し合いするとか言って絶対に乱暴する気でしょ? そんなの見過ごせない! 村長さんを解放しなさい!」

 「おいおい。また小僧が現れたぞ。しかも見ない顔だ」

 「こ、小僧って、私は……」

 「そろそろ時間だ。早く帰らねぇと俺らが怒られる」

 「オラ! そこをどけ!」

 私と後ろにいる少年に拳を振り上げた直後、相手の様子に変化があった。

 「な、なにっ、身体が動かねぇっ」

 「何だ。これは、何が起きたっ!」

 村長の腕をつかんだ相手も同じく身体が動かないらしい。周りにいた村人達は、何が起きたかわからない様子で見守っていた。

 「……貴様ら。誰に手を出そうとしていた? そして誰に小僧などと舐めた口を聞いた?」

 背後からクロの声が聞こえてきたことに彼らは驚きの表情になるも振り向くことができない。まるで身体が何かに縛られているように。

 「……おい! バカ共。仲間割れの時間はおしまいだ。さっさとこの雑魚を片付けろ」

 そういってクロは、遠くで取っ組み合いをしていたハヤテとスザクに対し、言い放った。ハヤテ達は我を取り戻したかのように、クロの言われた通りお仕置きをした。

 「くっ、クソ! 覚えてろよ!!」

 「こんなことしてただで済むと思うなよ? コロネロ様に言いつけてやる」

 ハヤテ達にボコボコにやられた二人は、急いでリンド村を出ていった。

 「大丈夫ですか? 村長さん?」

 疲労困憊な村長に対し、私は手を差し出した。

 「おぉ、すまなかった。旅の者よ」

 ようやく立ち上がることができた村長は、私たちの顔を見るや村の者ではないとわかったらしい。私は先ほど勇敢に村長を助けにいった少年にも声をかけた。

 「君も大丈夫?」

 「はい! 心配ご無用です。私の力が足りなかったばかりに。助けていただいてありがとうございます。私はバジルと言います」

 「バジル君ね! すごくかっこよかったよ! それに比べてうちの男どもは…」

 さっきまで喧嘩していたハヤテ達を思い浮かべながら話す。

 「お礼と言ってはなんじゃが、やつらに渡す予定だった食料でご馳走でも…」

 走って逃げて行ったコロネロ一味の二人が、今月の貢物を忘れていったようだった。

 「そんな、悪いです! あなた方の大切なものなのに…。私たちで召し上がるなんてそんなこ…」

 「よっしゃ! 飯だ! 何日かぶりにちゃんとしたものを食えるぜ!」

 「ここまで頑張ってきたかいがあった! おい、スザク。食いすぎはダメだぞ」

 なぜ、食事になったら意気投合するのだろう。しかし、村全体からお礼をしたい気持ちが伝わってきたため、仕方なくご厚意に甘えることにした。

 「若者は元気じゃの~。そういえば名前を聞いてなかったの。お名前はなんというのかな?」

 「そういえば名乗っていませんでした。改めまして、私の名はノエル。ノエル・アルスターと言います」

 「アルスター? はて、どこかで聞いたような?」

 「……若。お名前は伏せる決まりだったはずでは?」

 「あっ。」

 私は自分の本名を隠しながら旅をしていることをすっかり忘れてしまっていた。本名に気付いたのは近くで話を聞いていたバジル君だった。

 「ア、アルスターって、現国王の名字と一緒ってことは、国王の子ども!?」

 「あ~、バレちゃった。クロ~。どうしよう」

 「……若。こればかりは仕方がありません」


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