1916年 消耗戦
世界大戦で大きな特需を得た日本だったが、戦線が好転せず焦る英国や自国の被害にのた打ち回る仏蘭西の強い要請に応じ、ついに欧州に派兵を決定する。
日本は一等国の夢を追い、ついに欧州の戦争に足を踏み入れるのだった.......。
陸軍省
「第一陣は三個師団で最終的には十二個師団の大派遣か.....。大仕事だな。」
「第二十師団まで編成する事になったからな。大盤振る舞いだな。」
「派兵するんだ。当然だよ。」
「とりあえず船は民間の物を臨時徴用するとして....。それでも足りないな。」
「大丈夫だ。足りない分は英国や米国が輸送船や貨客船を便宜してくれる予定だ。」
「ふ~む。それなら何とかなるな......。」
「それにしても仏蘭西は相当焦っているんだな。補給は殆どが仏蘭西で重火器やその他の装備も供与してくれるとは.....。陸軍全体が無料で近代化だ。」
「野砲どころか加濃砲も大量にくれるそうだ。儲けもんだな。」
「仏蘭西がこんなに譲歩したんだ。相当焦っているんだろうな......。」
「ウェルダンで激戦が続いているが、噂じゃ仏蘭西軍は崩壊しかけたらしいぞ。」
「それ程か.....。」
「仏蘭西は防戦一方だな.....。北部でも押さえ込まれているが大丈夫なのか?。」
「予備軍を投入して防いでいるらしい。あそこの要塞は仏蘭西にとっては精神的に重要な場所らしいからな。意地でも守るさ。」
「大丈夫なのか?着いた頃に戦争が終わっていたら洒落にならんぞ。」
「ふん。強大な独逸帝國が仏蘭西軍に負けるわけがないのだ。派兵なんて無駄な事を。」
「そうだ。どうせ独逸が勝つのになんで派兵する必要があるんだ。」
「同盟国の要請だぞ。今更.....(せっかく予算が増えて装備も供与されるんだから止めてくれよ....。)」
「......(け、独逸かぶれめ。黙ってろよ。)」
「......。」
「はぁ.....。」
海軍省
「金剛含め4隻をドーバーに.....。磐梯級と装甲巡洋艦と旧式戦艦を地中海に.....。頭でっかち共がよく認めたもんだな。」
「俺は駆逐艦だけで済ますと思っていたがね。連中もやるもんだ。」
「上は新型戦艦の予算と引き換えで派遣を認めたようだ。なかなか首を縦に振らないもんだから外務省は相当苦労したようだ。」
「.....まぁそんな事だと思っていたがね.....。」
「新型戦艦か.....。いいねぇ~。」
「新型戦艦ねぇ~。俺は新型巡洋艦の方を早くしてほしいよ。」
「そうか?」
「新型巡洋艦と言えば天龍級4隻が来年竣工だな。就役すればさっそく海上護衛だ。まだまだ戦力が足りん。」
「巡洋艦も駆逐艦も派遣して数が足りんが護衛のために英国から護衛艦の図面を貰ったからな。来年には戦力化できるさ。」
「まぁ護衛に関しては東洋艦隊も全て撃沈され極東の航路の安全は確保できた。問題は地中海だな。」
「地中海の安全を確保しなければ輸出も兵の輸送も安全にできん。大仕事だな。」
「まぁ本土をほぼ空にして行くんだ。それなりにはな......。」
「本土には河内級と前弩級4隻、か.....。まぁ本土で戦闘が起こるわけでもない。これだけでも十分だな。」
「本当に大丈夫か?。心配だ.....。」
「支那が怪しいしがな。まぁ攻めてきても支那共にはまともな海軍は無い。大丈夫だ。」
「本土ではなく租界や満州が心配なんだが......。」
「あぁ、大陸か.....。」
「大丈夫なのか?」
「本土の艦隊や部隊で十分だ。そこまで心配せんでも。」
「まぁ何にせよ現状の戦力でやらねばいかんのだ。事が起きた時どうにかするのが我々だ。この戦力で護ってみせるさ。」
「そうだ。扶桑が竣工するまであと2年。それまでは河内が日本の護りだ。本土は任せたぞ。」
「おう。貴様も地中海でヘマをするなよ。」
「当たり前だ。」
「それでは暫くの別れを惜しんで宴会といこう。」
「今日は飲むぞ!!」
貨客船 常陸丸
「やっと地中海だ.....。長かった.....。」
「一ヶ月以上も海の上だ....。嫌になる....。」
「海に行くのが嫌で陸軍に入ったのに....。」
「だがもう地中海だ。もう少しで上陸できるさ。」
「少しは陸で休みたいよ。」
「船酔いにやっと慣れ始めた頃に到着か.....。」
「はぁ....。船酔いが無ければ気楽な船旅だったんだがな....。」
「それにしても平和な航海だったな。もっと危険だと思っていたんだがな。」
「俺は分隊長が言っていた潜水艦とやらが来ると思っていよ.。まぁ何も無かったな。」
「護衛に戦艦までいるんだ。気楽なもんだよ。」
「それにしてもまさか欧州まで来ることになるとはな.....。」
「ほんとだぜ.....。徴兵されて欧州に来て.....。未だに実感が無い。」
「突貫で英語や仏蘭西語を学んだがどこまで通じるやら。」
「お前のしゃがれ声じゃ誰もわかりゃしねぇよ。」
「ははは、違いない。」
「なんだと!俺の声がしゃがれ声ならお前の声はなんなんだよ!!。」
「あぁ?俺の声?....。俺の声は.....。なんだろうな?。」
「お前の声もしゃがれ声さ、ははは。」
「なにを!!.....。んん?戦艦の動きが変だぞ?。」
「ありゃ富士だな.....。どうしたんだ?。」
その瞬間爆音が海に響き、富士の船体が大きく揺れた。魚雷が命中したのだ。
少しずつ....。少しずつ.....。富士は傾いてゆく。
「富士が沈むぞ!!。」
「なんだ!!何があったんだ!!。」
「わからん!!俺に聞くな!!。」
「せ、戦艦がこんなにあっけなく.......。」
「.......」
富士は魚雷に耐え切れず地中海の海に沈んでいく。
潜水艦への戦術は未だ不十分だったのだ......。
戦艦金剛
「ビーティー中将に続く。独逸の巡洋戦艦を叩くぞ!!。」
「トマス少将の部隊が遅れています。このままではビーティー中将と我々だけで戦闘になりますな。」
「敵は5隻、我々はその倍だ。これで負けたら詰め腹を切る事になるな....。」
「腹を切るのは御免ですな。」
「あぁ、勝ってみせるさ.....。」
「英国艦隊発砲!!。」
「独逸も撃ち始めるな.....。こっちも撃つぞ!!。初弾で命中させるつもりで撃て!!。」
数に勝る英国巡洋戦艦だったが不運にも悪条件が重なり砲弾は命中せず
独逸艦隊に一方的に撃たれ続けていた。
ようやく英国が砲撃を命中させ始める頃には既に十発以上もの損害を受けていた戦艦がいる程だった。
短い時間ではあったが撃たれ続ける側にとっては永遠と思えるほどの時間であった。
「クソ。なかなか命中せんな。」
「独逸は命中しているんですがね......。砲撃は独逸方式の方が良いのでしょうか....。」
「わからんが調査は必要だな.....。」
「インディファティガブルに砲弾命中!!インディファティガブル被害甚大!!。」
「インディファティガブル戦線を離脱します!!。」
「支援しろ!!インディファティガブルを狙っている巡洋戦艦に砲撃を集中しろ!!。」
「榛名の左舷甲板に命中!!。」
「榛名の速度が下がっています!!。」
「あぁ!!インディファティガブルに砲弾命中!!インディファティガブルば、爆沈!!。」
「くそ!!早すぎる。」
「敵討ちだ!!。砲撃を続けろ!!。榛名はどうなった!!。」
「榛名は速度が大幅に低下!!。機関を損傷した模様!!。」
「榛名は後退させろ!!我々は一隻も失えんのだ。」
「ザイドリッツに砲弾命中!!砲塔が損傷した模様!!。」
「ここが踏ん張り時だ.....。頼むぞ.....。」
「敵巡洋戦艦に砲弾命中!!フォンデアタンだと思われます!!。」
「よしいいぞ!!。このままビーティー中将を支援する!!。」
「敵砲弾ライオンに命中!!損傷確認できず!!。」
「フォンデアタンで爆発を確認!!傾斜しています!!。」
「このまま追い討ちをか」
この時金剛に大きな衝撃が走った。フォンデアタンが最後の意地を見せたのだ。
命中し揺れる金剛。船員達は衝撃で倒れていた。
だが直ぐに立ち上がり仕事に戻る。彼らは訓練された動きを見せていた。
「被害は!!。」
「第一砲塔に命中!!。第一砲塔使用不可!!。」
「機関に異常無し!!戦闘に支障ありません!!。」
「第一砲塔の弾薬庫に注水しろ!!。このまま砲撃を続ける!!。」
「後方より艦隊を確認!!トマス少将貴下第5戦艦戦隊と思われます!!。」
「独逸艦隊!!東へ転進!!。」
「逃げる気か!!。させるか。このまま追撃する!!。」
英国の新たな艦隊を発見した独逸艦隊は主力艦隊に英国艦隊を誘致すべく転進した。
その後海戦は翌日の朝まで続き、英国はインディファティガブル、クイーン・メリー、インヴィンシブルを失い多くの巡洋艦も沈んだ。
かたやドイツはフォン・デア・タン、リュッツオウ、ポンメルンの3隻、軽巡洋艦4隻を失った。英国より被害は軽いと言えたが、英国艦隊を殲滅できなかった独逸は通商破壊作戦を海軍の要としてしていくのだった。
海軍省
「地中海で富士を失って今度は金剛と榛名が損傷......。」
「金剛は中破で済んだが榛名は大破だ。話を聞いた海軍大臣は卒倒したそうだ。」
「倒れたくもなる....。ここまで被害が出るとは.....。」
「むしろこれで済んで良かった。英国は3隻沈んでいるんだ。我々は運が良かったに過ぎない。」
「それはそうだが.....。それにしても英国式は駄目だな。軽装甲では戦えんぞ。」
「金剛型は装甲を増やしていて良かった....。元の設計のままなら沈んでいたかもしれん。」
「確かに....。危なかった.....。沈んでいたらクビではすまんぞ。」
「扶桑型はどうする?今ならまだ装甲を増やせるぞ。」
「扶桑は速度が低下してもいいから大幅に装甲を厚くするべきだな。新型戦艦も設計の見直しをすべきだ。」
「また予算がいるな.....。」
「はぁ....。」
「潜水艦対策はどうする?このままではまた沈むぞ。」
「潜水艦対策はどうするも何も英国頼りだからな.....。」
「対潜水艦兵器はまだ日本では作れんからな。暫くは英国に供与してもらわんと。」
「対潜水艦用の艦隊や戦隊を作るべきなのかもしれんな.....。」
「そんな事をしたら唯でさえ少ない予算がさらに減ってしまうぞ!!。」
「だが対策をしなければ無策のまま、また戦艦が沈むぞ!!。」
「......。」
「海上護衛専門の艦隊を作る必要があるな......。」
「予算.....。」
外務省
「ルシタニア号が沈んだそうだ。」
「英吉利の客船だろ?それがどうしたんだ?。」
「ルシタニア号には100人以上の亜米利加人が乗っていたんだ。これは大事になるぞ。」
「亜米利加人?だが広告の横にも独逸の警告が載っていたんじゃなかったか?。」
「あぁ、だがこれは亜米利加で問題になるぞ。亜米利加人はこの戦争を自分達と無関係だと思っているが一度自国民が殺されれば大騒ぎするはずだ。同胞の死を亜米利加人は許さないぞ。」
「ふ~ん。亜米利加が参戦するかもしれないのか.....。そうなればこの戦争はもっと有利になるな。」
「あぁ、英吉利も亜米利加に参戦を働きかけるはずだ。」
「だが本当に参戦するか?亜米利加人は殆どが戦争に否定的なんだろ?。確かモンロー主義ってやつだ。」
「んん....。確かにそうだが.....。だがどうなるかわからんぞ。」
「現状を見極めんとな。」