第二話.王城と教会
風もなく穏やかな空の下、正装に身を包んだルーガはこの国の、ハールプリング王国国王グレアム・グラン・ハールプリングに会うために王城ハーリンクへ訪れていた。その前を歩く王国守護軍魔法団に所属しているヴィルハとバルドはその式典用の制服を着用している。
やがて、両脇に警備兵がいる大きな扉の前へ到着する。
「王国守護軍魔法団地法隊隊長、ヴィルハ・クローウィンだ。」
「同じく火法隊第一班班長、バルド・クローウィン。」
この謁見の間の前では、確認や手続きが行われる。軍に所属する者はほとんど顔パスで通ることができるが、そうでないルーガは身分の証明と確認が必要になる。
「ヴィルハ・クローウィンの次男、準魔法貴族ルーガ・クローウィン。」
父と兄に続いてルーガも名乗り、国王からの手紙を見せた。
「ルーガ・クローウィン……」
警備兵は名簿とルーガが見せた国王からの手紙を見比べ、ちらりとこちらを見た。
「……?」
その行動の意味が分からず、ルーガは首を捻る。
「国王からルーガ・クローウィン殿を謁見の間ではなく、教会へ案内せよと命令されています。ついて来てください。」
と警備兵の一人はルーガたちに言うと歩きだした。
訳が分からないうちにルーガたちは警備兵のに連れられ、王城の隣にある教会へ向かっていた。
「王族用の礼拝堂で国王がお待ちです。」
入口に到着すると警備兵は立ち止まり、貴族専用の礼拝堂を示す。
◆◆◆
エルウェードのほとんどの国と地域で信仰されている、この世界の誕生や聖悪戦争、魔法の創造について記されているエルウェード神話を聖典とし、聖なる“存在”たちを信仰する宗教、エルロード教。
ハールプリング王国では主に自然魔法と剣の神、星神ウェインローと自然魔法の神、五天神リウスそして契約魔法の神、契約神グロードが信仰されている。
この教会ではウェインローが祀られており、平民用や貴族用さらには王族用に分けられている礼拝堂のすべてに星神を象った像がいくつも置かれている。
ハールプリング王国最大の教会であるこのハーリンク教会はとても大きく、王族用の礼拝堂は入口から一番立派な建物を通り過ぎて中庭を横切ったところにある別棟に作られていた。
「父上、王族が使う礼拝堂なのに警備兵が一人もいなくて大丈夫なのですか?」
人の気配が全くない中庭を歩いているときバルドがヴィルハに尋ねた。
「おそらく、月影隊が見張っているのだろう。彼らが不審者を近づけることはあり得ないからな。」
月影隊とは王族の身を守るためだけに存在する特別な軍隊のことで、魔法師も契約師も騎士も区別なく力のある者が所属している。
そんな話をしている間にルーガたちは王族専用の礼拝堂の前に到着していた。
「クローウィン家のヴィルハ以下三人、ただいま推参いたしました。」
扉を開き国王の姿を確認すると、ヴィルハはそう声をかけて敬礼をする。バルドもそれに倣い、敬礼する。
礼拝堂はステンドグラスが反射した光を受け、神秘的な雰囲気を漂わせていた。