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第一話.出来損ないの少年

 ある晴れた日の昼下がり、煉瓦(れんが)色の髪をした一人の少年が木の上で寝ていた。少年の暮らす屋敷の庭では先程から数人の使用人が慌てた様子で走り回っている。

 その様子を見ていた金髪の、少年よりも少し年上であろう男が痺れを切らして怒鳴る。

「ルーガ! 良い加減にしないと庭ごと燃やすぞ!!」

木の上で寝ていた少年、ルーガは兄であるバルドの怒声を聞いて、ようやくオレンジ色の瞳を開いた。

「ふぁ……」

ルーガはあくびをしながら木から飛び降りる。伸びをしているその周りを小鳥が飛び回り、足元ではリスが跳ねている。

「父上がお呼びだ。行くぞ。」

バルドは不機嫌さを隠そうともせず、屋敷に入りながらそう言った。

 ルーガがバルドを追って室内に入ると、バルドと同じ金髪の小柄な少女が廊下の奥から現れる。

「リネル、帰っていたのか。」

その少女はルーガとバルドの妹、リネルだった。

「バルド兄上。」

バルドを見たリネルは、嬉しそうに微笑む。しかし、バルドの後ろにいたルーガに気付くと、険しい表情を浮かべる。

「なぜ、あなたのような出来損ないがまだこの屋敷にいるの? 本来、魔法を使えない弱い人間はここにいてはならないはずよ。」

その言葉はルーガが幼い頃から、ずっと言われ続けてきたことだった。

 魔法貴族クローウィン家の次男として生まれたルーガは魔法が使えない。生まれつき、そうゆう体質だったのだ。

 魔法を使えない者は、必然的に国と王族を魔法で守るために存在している魔法貴族の中で弱い立場となってしまう。

「魔法が使えないからって俺が魔法師よりも弱いとは限らないだろ。」

「騎士でもないあなたが、私より強いと言いたいの?」

一触即発の状態でルーガとリネルが睨み合っていると、そこにバルドが割って入る。

「やめろ。 リネル、父上がルーガをお呼びなのだ。」

と言うと、さっさと行ってしまった。

 廊下の突き当たりにある父、ヴィルハの執務室前に到着すると、先に到着していたバルドがドアをノックをする。

「入れ。」

しばらくすると、中から短い返事が返ってくる。滅多に入ることのない執務室は以前見たときと変わらず、殺風景だった。

「わざわざ執務室に呼び出して何の用だ?」

なかなか口を開かない父に対して、ルーガは面倒そうに問いかける。

「お前は父上を何だと思っているのだ。口の聞き方に気を付けろ。」

父を敬っているとは思えない口調のルーガをバルドは睨みつける。

「自分が敬われたかったら、敬うに値すると思わせる態度で相手に接するものだろう。どうして俺が、俺のことを息子だと思っていない親父を敬わなければならないんだ?」

そう言った瞬間、ヴィルハの発した殺気が部屋の中を支配する。

「魔法を使えない出来損ないにもかかわらず、貴様がこの屋敷に居られるのはいったい誰のおかげだと思っているのだ。」

「それは俺が頼んだわけじゃないだろ。出来損ないとはいえ、実の息子を追い出したと周囲に知られれば自分の名に傷がつくからな。」

 これ以上話を続けるのは時間の無駄だと感じたのか、ヴィルハはため息をつく。そして、机の上に置かれた書類を入れる箱から一通の手紙を取り出す。

「本題はこちらだ。 国王からのお手紙に、国王がお前と直接会って話をしたいと書かれている。 お前にできそうな仕事があると判断すれば、その場で任命してくださるそうだ。」

「魔法が使えない魔法貴族はこの国に必要ないんじゃないのか?」

ルーガはヴィルハと目を合わせずにそう言った。

「このまま遊ばせておくよりはマシだ。 とにかく、明日はお前を王城へ連れて行く。」

有無を言わせない口調で言うと、バルドを伴って部屋を出て行った。

 窓越しに見える青く晴れ渡った空は木の上から見たときと変わらず、世界を見下ろしていた。

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