警察
翌朝、いつもと同じ朝が来た。
昨日の夜は布団に入っても、心臓の鼓動がドキドキして眠るどころではなかった。
それでも明け方に少し眠ったようだ。
母はいつものように朝食を用意してくれていた。
「あっ今日は食べる時間ないや、行ってきます。」
「何、まだ時間あるじゃない。昨日も食べてないでしょ!」
母の顔をまともに見られないと思った。
学校が近づいてくると、様子はいつもと違っていた。
パトカーの回転灯が見えてきた。俺の心臓は激しく鼓動しはじめた。
校門を入ると、パトカーは2台止まっていた。あの駐輪場のあたりに警官と青い作業着を着た人達が3~4人いて何か話しているようだ。鑑識の人達だろう。
俺は顔が強張っているのが自分でもわかった。今日1日自然に振舞えるか自信がなくなってきた。
教室に入ると案の定みんなその話で大騒ぎになっていた。
「誰か飛び降りたらしいよ」
「えっ誰?何年?」
「わかんない、誰か知らないの?」
そこへ信二が駆け込んできた。
「隣りのクラスのやつに聞いたんだけど、田島だって!」
「え~!あの数学の?」
クラス全員がどよめいた。
「え~何で、自殺?」
「おそらくそうだろうって。遺書があったらしい。」
俺は思わず声を上げそうになった。
「すごい情報だろ?」
信二が自慢げに俺に話しかけてきた。
「あぁ。」
「朝方発見されたらしいぞ。やっぱ自殺だろうな。」
「そうだろうな。」
「何か悩みでもあったのかもな。最近イライラしてる感じだったし。」
「あぁ。」
「何か反応薄いんだけど。」
「今日ちょっと風邪っぽくってさ。」
「そっか大丈夫か。じゃあ今日の部活は休むんだな。」
「あぁそうするよ。」
ちょうどそこへ担任が入ってきた。
この騒ぎの説明があったが、まだ何もはっきりしていないから、ネットなどで口外しないようにとのことだった。田島の名前は出てこなかった。
その後は自習となった。
休憩時間に俺は直子の教室へ向かった。
「あっ徹、大丈夫?」
「あぁ大丈夫だ。みんな自殺って言ってるな。」
「そんなこと関係ないのよ。警察がどう判断するかなんだから。だぶんはっきりするまで何日かはかかるはずよね。」
「1週間位かな」
「そうね、早く燃やしてくれればいいのに。」
「えっ何を?」
「何をって決まってるでしょ、遺体よ。解剖が終わればすぐに火葬してくれると思うんだけど。」
「あぁ、証拠隠滅だもんな。」
「そうね。うまくいくわよ、きっと。」
「直子、ほんとにごめん。ありがとう。昨日はちゃんと言えてなかったき気がして。」
「そうね、これでかなり私に借りができたわね。これからは何でも言うこと聞いてもらおうかしら。」
「もちろんだよ。」
「やだ、冗談で言ったのよ。じゃあね。」
直子は昔から決断力も早く、頼もしかったが、今回は本当に直子なしではこの作戦はなかった。
感謝している反面、もしばれたらどうなるのかという思いが頭をかけめぐっていた。
2日後、田島の通夜が行われた。直子のクラスは全員参列した。翌日の葬式も滞りなく行われたらしい。
1週間後、警察の判断が出た。
田島は飛び降り自殺と断定された。目撃者はいなかったが、やはりポケットの遺書が決め手だったらしい。
あと、田島には300万ほどの借金があった。2年ほど前からギャンブルにはまり闇金に手を出していたそうだ。
それともう1つ、都合の良い要因があった。
田島は直子以外に、もう1人手を出してる生徒がいて、しつこくメールしたり、家の前で待ち伏せしたりとストーカーまがいのことをしていたのだ。何と自分の裸の写真を送っていたそうだ。
その生徒はしばらく先生ということで我慢していたが、とうとう我慢できなくなり、親と学校に言うとたんを切ったのだ。
それが田島が学校から飛び降りたとされる日の3日前だったのだ。その生徒が泣きながら警察に話しをしたそうだ。
これですべてうまくいった。
あとは俺があの日を、あの目を思い出さないように日々を過ごしていけばいいのだ。




