思い出の場所
三日後、俺は葵との約束場所へと向かっていた。
正直葵と会う気分ではなかったが、前からの約束だったのと行きたいところがあるということだったので、断らなかった。
葵はいつもと変わらぬくったくのない笑顔で駆け寄ってきた。
「仕事忙しかったんでしょ、大丈夫?疲れてる?」
「いや、大丈夫だよ。今日はどうする?」
「ねぇ滝高が閉鎖されるって話だったでしょ。来月がら取り壊しの工事に入るんだって。だから最後に一緒に行ってみようよ。できれば二人で制服着て写真撮りたいとこだけど、さすがにそれはちょっと恥ずかしいよね。ねぇ今から行ってみようよ。だって同じ高校だったのに学校で撮った写真一枚もないんだよ。ねっ行こう!」
俺は絶対に行きたくなかった。しかし断る理由がすぐに思い浮かばず、葵に押され、二人で滝高へ向かっていた。
懐かしい校舎が見えてきた。楽しいこともたくさんあったのだが、すべてが靄の中にあるようなそんな思い出だった。
正門には鍵が掛かっていたので、俺たちはよじ登り中に入った。
「うわー懐かしいなー」葵は校庭まで走っていった。
「ねぇトラック一周競争しよ!」
「やだよ、転んで怪我するぞ。」
「えーじゃ体育館行こう!」
俺達は体育館へ向かったが、入り口は全て施錠されていた。
「あーあ、徹とバスケやりたかったんだけとな。残念。じゃあ校舎も入れないのかなぁ。行ってみよ!」
俺達は昇降口を回ったが、案の上どこもしっかりと鍵が掛かっていた。
「どっか一箇所くらい窓開いてないかなぁ」葵はあきらめずに一階の窓をチェックしはじめた。
「もういいじゃないか、写真だけ撮って帰ろう。」
「やだまだ来たばっかりよ。あっ開いてるっ。」
本当に開いている窓があったのだ。
「ほらね、早く入ろ!」
葵のテンションはさらに上がっていた。俺は仕方なく中へ入った。
誰もいない校舎の中はどこかカビ臭く、ひんやりした空気が肌に突き刺ささった。
俺は背中がゾクっとした。一秒でも早く帰りたかった。
「私の教室に行きたいの。そこで写真撮ろう!」
二人は教室へ入り、何枚も写真を撮った。
「もういいだろ、そろそろ帰ろう。」
「うん、じゃ最後に屋上行こう、私あの屋上好きだったんだよね。」
俺は仕方なく葵について行った。
屋上へのドアはさすがに開けられないだろうと思ったが、くさりが巻いてあるだけで簡単に外せた。
屋上へ上がると俺はやっと深呼吸ができた。天気もよく風が気持ちよかった。
葵は上機嫌でまた写真を撮り始めた。
葵は青空をバックに自分を撮って欲しいと携帯を俺に渡した。
ちょうどその時、葵の携帯が鳴った。否応なく見えてしまった相手の名前は‘健ちゃん’だった。
俺は何も言わずそのまま葵に渡した。葵はそれを受け取ると、サッと顔色を変えた。
そして電話に出ると、屋上の端の方へ歩いていった。
「あっうん。わかった。じゃ後でね。」
そんなやりとりが聞こえた。
健ちゃん。男だよな、もちろん。女ではまずないだろう。俺は頭が混乱していた。男友達であることを願うが、そんな名前聞いたことないし、何よりあの顔色の変わり方は普通じゃない。今まで一度だって見たことない表情だった。
まさか葵に限って。そんなこと出来る子じゃない。大丈夫だ。
俺は葵とずっと一緒にいると決めたんだ。
直子を傷つけてまで決めたことなのだ。




