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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夜の子シリーズ

家族限定

作者: そら

携帯で短編第一段です。


短編続けていこうかな?


携帯で書くと、タッチミスで簡単に文章が消える恐怖を何度も味わってます。

今日は朝からの雨が、とても鬱陶しくて、学校になんて行く気がしない。


お金さえ積めば入れるエスカレーター式の高校に通う高3だ。


初めは普通の公立がいいとダダをこね、そこを結局やめて一年だぶってここにきた。


名前は美羽、家族以外に名前は呼ばせない。


三人兄弟の真ん中で、上の兄、和正とは八つ、下の弟、春樹とは年子の一つ違いだ。


学校はそこそこ楽しんでいるし、ごく普通の女子高生なんじゃないかな、とは思う。


ただし、雨の日は別だ。


私から全てのエネルギーが失われる日。



もう一度布団の中に深くもぐりこんで、寝てるのにもあきたころ、勝手に人の部屋にズカズカと弟のハルが入ってきた。


ハル、と呼ぶのも家族限定。


口にはタバコをくわえながら、だるそうに髪をかきあげながら「飯食え!」だって。


何よ、えらそうに、そう思いじっと目をみつめると、いつもはこれで降参して引き下がるハルが、今日は引き下がろうとしない。


珍しい、強気だ、ダメか、チッ。


私の舌うちを聞いて、ハルはその目をおもしろそうに細めた。


こういう目つきをする時って、こいつ性質悪いんだよね。


タバコの煙をくゆらせながら、ベッドまで近づいてきたハルは、そのままそのでかい体で私の上におおいかぶさり、片手で器用にタバコを持ち替え、「じゃ、俺にするか?」とそのまま私の首筋に顔をうずめ、その無駄な器用さで私の首すじを舐めあげた。


「わーた、わかった、ギブ、ギブ!」瞬間にはそう私の方が降参していた。


恐るべし!遊び人!!


「初めからスナオになりな。」


そう言ってそのまま片手で私を引っ張りあげながらあくどい笑みをこぼし、機嫌よく私をハルは抱きおこした。


雨の日は、私は全てやる気がでないのに、私以外の家族は反対に無駄なバリバリモードになる。


朝食の席には、我が家の家長である長兄のカズが、これまたタバコをくゆらせながら携帯を片手に何やらお仕事の話しをしている。


カズと呼び捨てにするのも、やはり家族限定。


私がきたのを見ると、すぐに携帯を切り、


「作り直すから待ってろ。」と言った。


今日の食事当番はカズらしい。


いつも忙しいカズが朝からゆっくりとラフな格好でいるのを見て、その一段と私を甘やかす雰囲気に、あぁ、あの季節の雨なのか、と私は思った。


どうやらこの雨が続く限り、私は学校に行くことはないな、とその時点で確信し、ハルをみると、ドカッと椅子に座りながら、


「2、3日続く。」と言って、人の思考を勝手に読んだハルが、少し冷めた自分の朝食をガツガツ食べ始めた。


本人いわく未だ育ちざかりらしい。


身長も180を優に超え、最恐の名を欲しいままにしているくせに、まだ伸びているらしい。


・・・・許せん!


それにあんたねぇ、その主語を抜く話し方、やめなさいよ、うん、小さい時からだから、無駄だからもう言わないけどね、でもむかつくので心の中で文句を言ってやった。


私だってバカじゃない、口に出してなんか言わない。


何度、この口で、お仕置きという名の痛い目にあったことか。


ほんと、すごい俺様、いや、俺様だけどね、こいつに誰かガツンと言ってくれないものだろうか、と思いながらあきれて見ていると、兄がホカホカ焼きたてののリンゴ入りのパンケーキを持ってきてくれた。


大好きなパンケーキを、朝から、と思い嬉しくてニコニコ食べていると、何やら首がスースーする。


ん?と思ってモグモグ食べながら、かたわらを見ると、私の髪を優しく撫でながら、その髪を持ちあげて、そっと首筋にその指を落として何度もさすり続けるカズちん。


ん?何故に?ともう一度兄を見ると、


「メープルシロップがついてるぞ。」と言って、甘く微笑みペロッと私の唇を舐めた。


その瞬間ガタッ、と椅子が大きく動く音がする。


「てめえ!」とそれはそれは、ひどく重低音の声がハルの方からした。


カズは優しくまた私に笑いかけながら、頬にキスをすると、これもまたハル以上のひどく年季の入った重低音の声でハルをみやり、威嚇の声をあげた。


「俺はお前に、みぃをおこしてこい、と言っただけだ。なぁ、そんな簡単なこともお前にはできねぇのか?誰がみぃにマーキングつけろ、って言った?あぁ!」


お仕事仕様の声で弟に話しかける兄がいた、話しかけるっていう雰囲気じゃないけども、もはや・・・・。


うん、一気にこの部屋だけ氷河期突入だ、朝からドンマイだな。


すかさずハルはカズを睨みつけながら、「お仕事いけよ、おにーちゃん。」とふてぶてしく、からかうように、それを言う。


幾ら最強で最凶と呼ばれても未だハルはカズには、そのたっぱでも腕っぷしでもかなわない。


そりゃあ年季が違うんだからさあ、と私がいくら言っても、その眼をギラギラさせて悔しがる。


だから、私がたまに、「おにーちゃん」と呼ぶと、それはそれは狂喜するカズにあてつけて、カズに対してバカにしたのを隠しもせず、ハルが「おにーちゃん」と言う。


これを言った日は・・・猛獣が狭い部屋で殺りあうさまを想像してもらえればよいと思う。


私は頭の中でこれを止められる人間はいないかと模索するも、誰一人出てこない。


兄の部下たちは兄を盲信、服従してるし、弟の方も同じ事。


こりゃあ、だるい気分の私への拷問か?


慌てて被害をこうむらないうちに退散しようと、急いで食べたら思わず軽くむせた。


ほんの小さなその気配に二人は揃って私をみて、


「大丈夫か」と、こまごまと私の世話をやきだした。


なすがままにあれこれ世話を大人しくさせる私に、先ほどまでの雰囲気は綺麗にきえていく。


私は、何か全てめんどくさい気分なので、その調子で二人にかまわれながら、その日一日を過ごした。




翌日も本降りの雨が続く。


私のやる気はもはやゼロ。


歩くのさえめんどくさい。


もう赤ん坊でいい、2人がごはんを食べさせなけりゃ、私はごはんさえ食べないだろう、そんなテンション。


夕方になって兄の秘書の岩井さんがやってきて、どこぞの企業からの接待だと言う。


カズ兄のただ一人の上司である総さんも出席し、元々兄も出るはずのもの。


綺麗に無視するカズ兄に、困った岩井さんが私を見る。


指の一本動かすのさえ嫌な私に岩井さんが、ひっそりとほほ笑みながら、その接待の場所は高級クラブだけれど、そこに使われている石に、いろいろな化石が埋もれていているんですよ、と教えてくれた。


化石?・・・化石は私の最近のマイブーム、大好きだ。


よどんだ死骸が綺麗に、ただ綺麗に残ったもの。


私の脳裏は、ふわふわと化石があふれだし、それにトリップしていた。


見たい、それをみたい!私はカズを見た。


ちょうどカズは岩井さんがきた時、私に、何度目かのおやつを作ってくれて、それを食べさせてもらっていた。


ハルもココアを飲ませてくれて甲斐甲斐しく世話されていた所にきた。


私達家族のべったりさ加減に慣れている岩井さんは、カズを動かすべく私を誘惑したらしい。


もちろん、今日の私はいつにもまして「無敵」だ、「無気力甘えた」とも言うが。


家族三人でいくのならと、カズも重い腰をあげて、お着替えをしてきちんと三人でそのクラブに向かっている。


未成年2人、というのは無視の方向で、ましてや前後を多くの護衛の車にはさまれ移動中だけども、それもみない方向でいく。


秘書の岩井さんは残念ながら来ていない。


行くと決まった後、カズに「みぃをだしに使うな!二度目はない。」とやられた。


カズのふるう蹴りの一発で沈んだ。


その後ハルにも一発殴られて、結局骨の何本かやられて、外に放りだされた。


学生時代からの側近だから、カズの事をよく知っているのに、何故わざわざ導火線の私に話しをふったんだろう?


何だろう?最近変な嗜好にめざめたのか?


半径1キロ禁止令をカズに出してもらおうかな。


まあ、いいか、指一本動かしたくないテンションだけど、化石は別だもの。


早く見たいなぁ。


カズは仕事だから、私はハルに抱っこされながら、その接待先のクラブに入って行った。


数多くの好奇心や熱い視線を綺麗に切って捨て、その接待のテーブルにつくと、カズの上司の総さんと見知った顔が五人ほどいた。


それと同じくらいの数の接待してくれる企業の方々。


総さんは私を見ると、「良くきたな、ちょっとだけ付き合ってくれるか?」と優しく笑いかけてくれた。


総さんは、私が小さな頃から、いつもこうやって丁寧に話しかけてくれる。


つまらない挨拶がかわされる中、私はハルのシャツを引っ張って催促した。


ハルは私を抱いたまま、そのフロアをゆっくりと見渡し、一緒に化石を探してくれた。


天井に一つ、あれは貝の化石だ。


もっと近くで見たい私を腰を持って上にあげてくれた。


キラキラと光るライトの中、うっすらと浮かび上がる化石に目を奪われる。


ずっと見ていると急に下におろされた。


「首が疲れる。」


そう言ってカズ兄の元に戻された。


「休むぞ。」


休んだらまた化石探しだという意味のこもったそれに、ハルに従い大人しく座ろうとしたら、すかさず立ち上がったカズにそのまま拉致られ膝の上に抱っこされた。


ハルも続いて隣に座ろうとして、綺麗なお姉さんが、その席を動こうとしないのを見て、何と足で蹴飛ばして、お姉さんをどかした。


お姉さんが「きゃあ」と声をあげて椅子から転げ落ち、そのせいでテーブルにあったグラスも幾つかが落ちた。


「何、お前、兄貴にくっついていてぇわけ?おい、カズ、このバカ女、お前に気があるらしいぜ。」


そう言ってせせら笑った。


「みぃ、大丈夫か?濡れてないか?」


カズはハルの言葉を無視して、私が濡れていないのを確認すると、優しく頭を撫でてから立ち上がった。


そっと私を椅子におろすと、飲み物を頼んでくれ、そのまま総さんのそばにいく。


両手をポケットに突っ込んで、上から総さんを睨みつけながら、


「答えによっちゃ、今日限りだ。」と抑用のない声で総さんに言う。


あっ、マジ切れだ。


私はとっとと、いつもなら逃げ出すのに、テンションだだ下がりのせいで、「まっ、いいか」になって見ていた。


「何だ、この女は?」と倒れている女の人に鋭い目を向けるカズ。


女の人はそんなカズをみて「ひっ」と息をのみ青ざめる。


うん、カズ、がたいもいいから、怒ったら怖いよね、わかるよ、男前半端ないけど、すごい豹変、大魔神ぶりだよね。


総さんはそんなカズに可愛くコテンと首をかしげ、


「うん、おかしいんだよねぇ、今回取引の終了を祝っての接待だと招待されたはずなのにさぁ、なぜか社長の娘がもれなく付いてきてんだよねぇ。それに取締り役の娘も。」


そう言って笑った。


けれど笑った後、持ち上げた顔は優男の二枚目ぶりの片鱗はすでになく、カズのただ一人の上司の顔になっていた。


ああ、ハルに蹴飛ばされた人、ここの店のお姉さんじゃないんだ。


だからどかなかったんだ。


バカだなぁ、ハル怒らせて、カズ怒らせて、総さん怒らせて。


私なら、・・・・考えただけで、ぞっとするよ。


ずずっと運ばれたジュースを飲みながら、公私ともども終わっちゃった親子とその会社の部下の人達を、心で手を合わせながら「たたりませんように。」と拝んどいた。


ほら、手を合わす心って大事だというからね。


総さんの隣にいた女の人も、総さんが話しながら、睨みつけたら、顔色を変えて震えていた。


総さんが社長をつとめて、カズが副社長をつとめる会社はとても大きい会社で、誰でも知っているくらい。


だけど、こんなお見合いまがいの事、本当に実態を知っている人ならやらない。


ああ、それで岩井さん、どこかでその情報をつかんで、他への見せしめのために、導火線の私を使ったのね。




その後は、その会社の人達を追い出した後、もう思う存分化石探しをさせて頂きました。


他人様のテーブルの席の壁に化石があれば、うちらが行く前にちゃんとどいてくれて、店にいる皆さんがそんな感じで協力してくれたので、とてもそれからは楽に探せたし。


総さんに帰り道、「ちょっと迷惑かけちゃったね。」と言ったら、迷惑かけるのが総さんたちの仕事だと笑っていた。


そりゃそうか、ハルは最大のチームのトップだし、カズは総さんとこ、裏の顔では日本一の規模を誇る暴力団の№2だし。


雨はまだまだやまない。


私はその夜、布団の中で、幼い頃を思い出していた。






幼い私はいつもぼーっとして、あまり感情を出さない子供だったと思う。


お父さんという存在があるらしいが、私には、いつもお酒を飲んでは、私や兄や弟を、罵声を浴びせながら殴るお母さんしか知らなかった。


たまに機嫌がよいと、ファミレスなんかに連れていってくれる時があり、年に何度もないその時が、とても嬉しくて、その時も機嫌がいいお母さんに、私達三人は、いそいそとついていった。


冷たい雨のふる中、ファミレスでカレーライスを食べ、お兄ちゃん達はハンバーグを食べた。


いつもはそのまま帰るのに、その時はそこからタクシーにのり、1時間ぐらいして海に着いた。


雨の中ケラケラ笑って喜ぶお母さんに、初めてみるお母さんの笑顔に私達も嬉しくなって、夜の雨の中、私達もはしゃいで浜辺で鬼ごっこをして遊んでいた。


お母さんがやさしい。


お母さんが笑ってる。


お母さんが私達の名前を呼んだ。


奇跡のような時間だった。


やがてお母さんは、笑い疲れて浜辺に座った。

そのままじっとして動かなくなった。


お母さんが私達をまた大きな声で呼んでくれた。


お母さんは名前なんか呼んでくれないから、私達は自分の名前を忘れないよう三人でいつも名前を呼びあっていた。

 

お母さんが立って大きく手を広げるなか、カズ兄も私もハルも泣きながらお母さんの元に駆けていった。


いつも私達と一緒にいて、小学校になんていかないカズ兄。


いきたくてもいけないのを五才の私は知っていた。


お母さんが外に出ると怒るからだ。


もうじき中学校に上がるのに、準備とやらもしていないらしい。


この間、学校の人がきてドアの外で「中学校に行く準備」っていっていたから。


カズ兄はじっとそれを聞いていた。


私が見ると、くしゃって笑って、小さく「大丈夫」って言ったけど、お母さんに殴られている時も「大丈夫」って同じように言うから、それは、全然ダメって事だ。


どんな時も泣かないカズ兄もお母さんに抱きつきながら泣いていた。


けれど、喜んで駆け寄った私達に、お母さんがしたのは、その私達の体を信じられない力で拘束し、片手にカズ兄、もう片手に私とハルの手をはさみ、暗い海にじゃぶじゃぶ入っていく事だった。


どんどんどんどん海に向かって入っていくお母さんは、大きな波がきても私達を決して放そうとせず、私達は辛い塩水を呑みこみ、もがき苦しんだ。


もう小さな私とハルには背も立たない時、苦しむ私の目に映ったのは、ひどく昏い目をしたカズ兄の姿と、私と同じようにおぼれ苦しむハルの姿だった。


小さな一瞬のまたたきにも及ばない時間のはずなのに、私にはとても長いスローモーションのような時間だった。


私はもがき苦しみながら、それでも私達の腕をはさんで、カズ兄の手をつかんではなさない、お母さんの目をえぐった。


そして苦しむお母さんの体をけって、ハルを抱きかかえた。


どうせ苦しむなら、お母さんと一緒は嫌だった。


五才の私には溺れ死ぬ、という事は知らなかったけど、痛い事や苦しい事には慣れていた。


ハルは苦しみながらも私にしがみつき、私はカズ兄にも手を伸ばした。


カズ兄は同じようにもがき苦しみながらも、今度はあの昏い目でなく、喜びの目で私に向かって手を伸ばした。


「一緒がいい」


三人でまるで一つの命のように、しがみつきながら、私達は塩水を鼻やのどにあふれさせながら笑っていたと思う。


気がついた時は、病院の白い部屋だった。


その部屋に、三人で入院を三日ほどした。


私達を乗せたタクシーの運転手さんが、不審に思い通報してくれていて、波間に漂う私達を追って、おまわりさんが、助けてくれたという。


海の中に沈んだ私達を見て、全員は助けられないと、その時思ったらしいが、三人でしっかりと一つの団子状態だった私達は、たやすくみつかり助かったらしい。


無理心中の可愛そうな子供達の、三人でしっかり海に沈む時も離れなかったという兄弟愛に、周りは感動し、マスコミにも騒がれた。


暗い海の中で、母だけが死んでいった。


私が傷つけ、蹴飛ばして海に沈んだ母。


私は全然後悔していない。


おなじ事がおきれば、私は何度でもそれを繰り返すだろう。


マスコミの騒ぎのおかげで、私達の親戚が判明し、私達は父方の祖父の元に引き取られた。


私達の父は裏の世界で知らぬものはいない、極道中の極道で、何故兄と八つも離れていたのかがわかった。


その間、刑務所に入っていたからだった。


その父親が死んだせいで、母がお涙ちょうだいの苦労の末の無理心中と勝手に話ができあがっていたけど、私達には関係なかった。


それから生活が急きょ変わったけれど、私達三人は、三人限定のテリトリーの中で生きてきた。


カズ兄もハルも二度と誰にも揺るがされぬ力を手に入れる為、血へどをはきながら力を求め大きくなった。


そして、並み居る血族たちを全て潰し去った。


私達を引き取ってくれた祖父さえも消し去った。


表も裏も、全てカズ兄とハルが手に入れた。


そんな中、総さんは、唯一認めた身内。


彼は喜んで影武者としてのトップを演じてくれている。


彼とは、はじめ敵としてやりあっていた。


どうしてこうなったかは、はしょるけど、お互い生きるか死ぬかの戦いをしただけあって、信頼はしないけど、信用はしている。


少なくとも背中合わせに戦える中だ。


カズは大人の世界を牛耳り、ハルは子供の世界を支配する。


私達は究極のブラコンとシスコンだ。


カズとハルに魅せられる人は、後を絶たない。

それが破滅への道でしかなくても。


けれど二人には、どんな思いもこれっぽっちも届かない。


二人の感情を揺らすのは、ただ私だけ。


あの暗い海の中で、きっとあの時私達は、人ではないものになってしまったんだろう。


この世界で、たった三人だけの生き物だ。


私の周りでは、それこそ小学生の頃から事故や行方不明が多い。それはきっとそういう事なんだろう。


けれど一緒に縄跳びをした男の子や、あの日手を繋いだ子が消えた日も、私はああそうか、としか感じなかった。私達の全ては、お互いにしか向いていないから。


人間としての道徳観念なんか別の生き物の私達には、これっぽっちもない。


厄介極まりない危険な生き物の私達は他の生き物に退治されないように力をつける。


もうどんなものにも傷つかないように。


これからも私達は家族限定で生きていく。


この世界で、たった三人の生き物として、生き続けていく。




時々、本当に時々、心から私達を思ってくれる人が奇跡的に出てくる。


カズにしてもハルにしても、私にしても、その愛が本物だとはわかるけど、お互いへの思いだけで、隙間なく満たされていて、受け入れる場所が一つもない。


二人は、それが面倒になり、結局他の人間と同じように綺麗に潰してしまう。


私の時は、もっとひどく徹底的に。


私達は、この世界では、とても危険な生き物なんだろう、お互いへの愛しかない。


けれども、あの海の中で、私達は溶け合いすぎて、違う生き物になってしまったんだからしょうがない。


私の身体がもう少ししっかりしたら、私を抱く、と嬉しそうに話す二人。


私は何の心配もしていない。


ただ、カズの俺にしか感じないように、とか、ハルの俺だけに狂うように、とかは絶対ない。


二人もそれを知っていて挑発しあってる。


じゃれてるとも言う、と私が総さんに言った時、あの二人を見て、「じゃれてる」なんて言えるのは私だけだって笑っていた。


また私達に新しいものが増えるけど、全ては三人だけの家族限定だ。


これから先もそれは変わらない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。 続きを読みたいような、 このまま悶々とした気持ちを心に潜ませて楽しむか。 もちろん、連載になったら喜んで読ませていただきます。 ありがとうございました。
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