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第03話 第二王女の勇者さま

主人公は変人じゃなくちゃ駄目だ、みたいな強迫観念がなんかあります。


私だけでしょうか?

フィーネはカナメを城内にある応接室に案内し、改めてカナメと向き合った。豪奢な椅子に腰をかけているのはカナメとフィーネ、ミランの3人である。他のものは壁際に立って控えていた。


応接室には先ほど儀式場にいたメンバーがそのまま揃っている。だが騎士たち、特にフィーネの近衛騎士

隊隊長である銀髪の女性―――アリシア・ソレイシィは、カナメに対して警戒と敵意をむき出しにしていた。


「改めまして自己紹介をさせていただきます。フローレンス王国第二王女、フィーネ・フォン・フローレンスです」


「姫様の魔法指南役を仰せつかっているミランと申す」


「カナメだ。性はそうだな…ハインツと名乗っておこう」


ハインツという性も、カナメ繋がりだ。元は性ではなく名だが、まあいいだろう。


警戒されてる中、あからさまに偽名だというカナメに向けられる視線が、より一層厳しくなったのは仕方ないだろう。


もっともカナメ本人はその状況さえ楽しんでるが。


「…カナメ様は本当に勇者様なのでしょうか」


「フィーネ、君がそう思うのならそうなのだろう」


フィーネの質問に、カナメは言葉遊びのように答える。


この男、まともに答える気はない。巷で変態と話題の彼は、内心ではにやにやと、表情にはそんなことはおくびにも出さず、そのドS心を発揮する。


当然カナメのその態度は、アリシアの癪に障った。


「貴様っ!姫様に対してその態度は何だ、不敬だぞ!しかも勇者だと!?ふざけるのもいいけげんしろ!魔力もないような貴様のような男が―――」


その先の言葉は続かなかった。


「少し黙っていてもらえるかな?」


疑問形であるその言葉は、命令であった。


今にも剣を抜こうとしていたアリシアの喉には一本の刃が添えられていた。


カナメがいつの間にか彼女の背後に回り込み、投影にて作り出した剣で彼女の動きを封じたのだ。


一瞬の出来事、誰もそれに反応できなかった。刃を向けられたアリシア本人でさえも。


瞬歩。極めれられたその歩法技法は、眼にも映らぬ程の高速移動瞬歩を可能とする。


カナメの放つ殺気に室内の誰もが動けない。しかしその殺気もすぐに霧散し、もとの空気に戻る。


いつの間にかカナメの手に握られた刃は消え、彼は席に戻っていた。


「失礼。少々威嚇させていただいた」


そう言ってカナメは微笑んだ。とてもさっきのとんでもない芸当をやってのけた人物には思えない。


(この少年、やはり只者ではないな)


応接室で対峙していたミランは、先ほどのカナメの行動を見て心の中で唸った。


ミランには何も分からなかったのだ。フローレンスで1、2を争う大魔法使いであるミランでさえも、カナメが何をしたのか、一切が分からなかった。いつの間にかアリシアの背後を取っていたその動きが体術であるか、魔法であるかのかさえ。加えて虚空から剣を取り出すその魔法もミランの知識の外にあるものだった。


またミランは応接間に入ってから、カナメから魔力を感じないことに疑問を覚え、探知の魔術をカナメに使っていたのだ。


結果、なにもわからなかった。


魔力がない理由が、ではない。カナメのことが何一つ分からなかったのだ。


ミランほどの大魔法使いが使う探知の魔法を持ってしても何も分からないということは、ひとつの事柄を意味する。


カナメは意図的に何らかの方法で自分の力を隠している。


そしてそれは、カナメの実力はミランなど足元にも及ばないほどのものであるということだ。


カナメの実力がミランの考えた通りのものであるならば、カナメはミランの放った探知の魔法など気付いている。


本来探知の魔法を使い、勝手に相手のことを調べることは無礼に当たる。


しかしカナメはミランの行動を咎めることなく、そして歯牙にもかけていない。


大物だ、とミランは思った。勇者というのも嘘ではないのかもしれない、とも。


「もう、アリシアもやめてください。勇者様、無礼をお許しください」


フィーネがアリシアの行動を詫びた。


「いや、気にしなくていい。警戒するのは当然だ。あと勇者様だなんて言わないでくれ。カナメでいい」


「えっ、ですが」


「俺は君に忠誠を誓った。様付けなんてムズがゆいだけだ」


「そうですか…、わかりました。それでその…さっきのもそうですが、忠誠とはどのような意味なのでしょうか?ゆ…カナメ」


カナメはフィーネが名前を呼んでくれとことに満足げに頷き、答える。


「そのままの意味だ。誓い通り、俺は君に忠誠を誓った。俺は君の、フィーネのためだけの勇者となろう。そこで聞きたい。フィーネの守りたいという想いは、どういうことなんだ?」


「それは…」


そしてフィーネは語る。フローレンス王国の危機を。彼女の大切なものたちに危機が迫っていると。


フィーネは、彼女の大切なもの全てを守りたく、力のない自分が悔しく、皆を助けようと召喚に挑んだことを。


「そうか…」


「はい。いつアースガルドが攻めてくるかと思うと、いてもたってもいられず…」


「心配するな、フィーネ」


「えっ?」


「俺が君の守りたいもの、すべて守ってやる」


「ですが…」


「言ったろ。俺は君の勇者だって」


そう、すでに彼は誓ったのだ。フィーネの勇者になると。


「力がないなんて悔しく思う必要はない」


「…無理に慰めてくれなくて大丈夫ですよ。私は弱いんです。それが悔しくて仕方ないんです」


「いいや、君は強い。君は逃げなかった。力がないからといって諦めなかった」


力がないことを理由に諦めなかった。


そんな彼女を弱いだなんて誰が言えようか。


「もしフィーネを弱いという奴がいるならば、俺は決してそいつを許さない」


「……」


フィーネは黙ってカナメの言葉を聞いていた。


「だから自分のことを弱いだなんていうフィーネを、俺は許さない」


守りたいと願うその優しい心。


「君は強い」


決して諦めないその想い。


「そんな君の在り方を美しいと思った。だからこそ俺は君の勇者となることを誓った」


だから自分のことを弱いだなんていう彼女を、カナメは許せなかった。


「君は強く、美しい。もう二度と弱いだなんて、言わないでくれ」


守りたいと願った君の姿に憧れた俺を、失望させないでくれ。


「俺を信じろフィーネ。強い君を信じる俺を信じろ」


最後にもう一度。



「君は強い」



「うっ…はぃ……。ありがと…ぅ…ひっく……ございます」


いつの間にか室内は静まりかえっていた。そんな中で俯いてしまったフィーネの嗚咽だけが響く。


フィーネにとって、強いだなんて言ってくれた人は今までいなかった。


誰とでもわけ隔てなく接し、給仕のことを友達だなんていうような優しい彼女であったが、強いと言われたのは初めての経験だった。


彼女に近づいてくる人は、彼女の優しさを利用して王族に取り入ろうとする汚い大人たちばかりだった。


給仕の友達たちも、あくまでフィーネがお姫様であるという一線だけは持っていた。


だから…。


フィーネのことを対等に見てくれて、ましてや強いと言ってくれる人は初めてだった。


それが嬉しくて…。


何よりも嬉しくて…。


卑怯だ、と彼女は思った。


そんなことを言われたら我慢だなんて出来るはずがない。


「……う……うっ…。…ぐすっ……」


しばらく涙は止まりそうもない。これじゃあ、お礼を言うことすらできそうにない。


だからせめて。


心の中でめいいっぱいの感謝を。




ありがとうございます、と。




† † †




たっぷり10分は経って、ようやくフィーネは顔を上げることができた。


目は真っ赤で、泣いた跡は消えそうもなかったが、その表情はどこかすっきりしているようにも見えた。


フィーネは自分を対等に見てくれたカナメに対して、顔が赤くなるのを感じていた。


「えと、ありがとうございました」


「なに、気にするな」


そう言うカナメはフィーネの痴態など見ていないかのように振る舞った。


そんなカナメの心遣いはありがたかった。15にもなって恥も外聞もなく、皆の前で泣いてしまったのだ。穴があったら入りたいとはこのことだろう。もっともそのことわざはフローレンスには存在していないので、大して意味はない。


「それより俺は答えを聞いていない」


「えっ?」


「俺は君の勇者になると誓った。君の強さを信じると言った。その答えは?」


どこかいやらしい笑みを浮かべてカナメは言う。こんな時までSっ気が溢れてしまっている彼はどうしようもない。いや、好きな子についちょっかいを出してしまうただのツンデレだと思えば……うん、なんでもない。


フィーネは少し唖然として、思い出す。


カナメはフィーネの勇者となると誓ったが、フィーネはまだそれに応えていない。


背筋を正し、フィーネは応える。強いと言ってくれたカナメの信頼に応えるように、毅然とした態度で。


「私はカナメを信じます。私を信じてくれたカナメを信じます。その上で聞きます」


それでも泣いてしまったのが悔しいから。


「私は私の大切なもの全てを守りたい。あなたは本当に私の大切なもの全てを、この国を守れる力があるのですか?」


最後に少し意地悪を。


カナメは少しぽかんとしたような表情を浮かべ、すぐに苦笑した。


(何が力がありますか、だ。はは、俺を信じるって言っているのだから、その質問には何の意味もない。この質問は…)


ただのお願いだ。それもきわめて強力な。まるで命令のようなお願い。


この質問に答えたらカナメはもう逃げられなくなる。彼女の大切なものを守り抜くという、彼女の願いを叶えるための勇者から逃げ出すことは許されなくなる。


関係ない。もとより逃げるつもりなんてない。


一般人であった俺も、魔女であった俺も、もうすでに過去の話。


フィーネの強さを美しいと思い、彼女の勇者となることを誓った瞬間、そんな選択肢はとうに消え去っていたのだ。


答えは決まっている。


「当然だ。それがフィーネの信じる勇者、フィーネのためだけの勇者だ」


そう言ってカナメはフィーネの顔を見つめ、微笑んだ。


フィーネが赤くなってしまった顔を誤魔化すために下を向いたのは御愛嬌だろう。




† † †




「さてそれじゃあそろそろ行くか」


さてこれからカナメに城内の案内をしようという時に、カナメが突然言い放った。


ここフェ二キスは王都ではないものの、貿易として栄えている大都市であるために、王族の者が滞在できるよう城がある。


先の召喚を行った儀式場も、このフェ二キス城内にある。


フィーネは、せっかくなのだからまずはこのフェ二キス城内のどこから案内しようかと考えていたときにいきなり言いだしたカナメに、疑問の声を上げた。


「えっと、カナメ?行くってどこにです?」


「ん?どこって西にある門かな、まずは」


「なんでそんなとこに行くんですか?門をくぐって城壁の外に出ても何もないと思うんですけど」


「なにって、敵を倒しに行くに決まっているじゃないか」


何を言ってるんだこの子は、みたいな可哀想な子を見るような生暖かい目で見られた。


「な、なんですか!その可哀想な子を見るような眼をやめてくださいー!って、え?敵?」


「うむ、敵だ。絶賛こちらに向かって進行中だな。おそらくフィーネがいっていたアースガルドの軍だろう」


まるで蟻の大群だなーHAーHAーHAーだなんていう彼のふざけた台詞なんて耳に入らない。入らないったら入らないのだ。


「ちょっとなんでそんな重要なこと早く言ってくれなかったんですか!?」


「聞かれなかったからに決まっているじゃないか」


「子供の言い訳じゃないんですから、そんなこと言わないでください!」


「ぶーぶー」


「ああ、もうっ!いつですか!いつ分かったんですか!?」


「ちょうどフィーネが泣き始めた頃だな」


「忘れてくださいー!なんでせめてもっと早く言ってくれなかったんですか!?」


「サプライズサプライズ」


相も変わらずHAHAHAなんて笑うカナメが憎らしい。


ちょっぴりカナメを自分の勇者としたことを後悔し始めたフィーネだった。


「ちょっとお待ちください姫様!そんな胡散臭い男の言うことを信じないでください!アースガルド軍が侵攻してきているどうしてわかるんですか!嘘に決まってます!」


そう突っ込みをのは近衛騎士隊隊長アリシアである。別に空気の読めないことに定評があるわけではない。ツッコミの内容は至極当然のものであった。


「そういえばカナメ。なんで分かったんです?」


当然フィーネも気になった。


ちなみにフィーネはカナメを勇者と信じ、すでに全幅の信頼を寄せている。フィーネの中ではもうアースガルド軍の侵攻は事実になっている。カナメが言うことは真実なのだ。


「勇者といえば千里眼くらい持っていなくてどうする」


「さすがですねカナメ!あれ、でも城内だから壁がありますよね?」


「城内にいたら無力な勇者だなんて勇者じゃないだろう。俺に不可能なんてあんまりない」


「あ、そこはあるんですね」


カナメの私の視力は53万です、とでも言いたげな言葉に素直に感心するフィーネ。


(アニメや漫画への)愛と(ハーレムを築きあげるための)勇気があれば、不可能なんてないのさ!


嘘です。


ぶっちゃけこちらの世界に召喚されてから情報収集のために、多数の影分身を放っていてたまたま見つけただけです。それにしてもNARUTOの影分身ってチートだよね。ひきょーだひきょーだ。


「姫様!そんなのほほんとしている場合じゃありません!もし事実なら早く軍部の者を集めて対策を!」


「アリシア、でもカナメが守ってくれるんですから平気じゃない?」


「そんな保証がどこにありますか!?その男が言っていることなんて嘘に決まってます!ですから早く会議を!」


「そうですね…。どうすればいいかしらカナメ?」


「まあさすがに戦争だし、会議はしとかなくちゃまずいな。ポーズとしてとりあえず住民の避難準備だけさせておけば問題はない。あとはフィーネが王族権限でもなんでも使って俺を最前線に出撃させ、他の兵士は邪魔にならないよう後方に待機させておけばいい。一人も通すつもりはないからそれで終わる」


「そうですか、分かりました。では会議を開きましょうか。ちなみに相手の軍の数はどれくらいですか?」


「だいたい8000くらいだな。さすがに壮観だ」


「何をのんびりとしているんですか!?その男の言う通りなら我が軍には勝ち目がないじゃないですか!一大事ですよ!?」


「何を言ってるんですアリシア。カナメがいるんですから負けるわけないじゃないですか」


こともなげにフィーネはアリシアに反した。


フィーネの中ではすでにフローレンスの負けはない。最初からカナメが勝つと信じているからだ。


彼女はカナメの言った通り、カナメが最強の勇者であると信じている。フィーネがカナメを信じる限り、カナメはその信頼に応えてくれるだろう。


だから今一番の問題は…。


「カナメ。これから軍部を集めて会議をするのですが一緒に来てくれませんか?」


カナメの先ほどの要求を通すことだ。


そのためには軍の自己顕示欲の強い将軍たちを抑えなければならない。


しかしフィーネは今まで軍を率いたこともなければ、軍の会議に出席したこともない。そのため不安を感じているのだ。


今回の戦いでフェ二キスが勝利するには、カナメの出陣は必須だろう。


だが、軍部の頭の固い上役たち(バカども)が、客観的には身元不詳の自称勇者が戦って勝ってくれるだなんて信じるわけがない。


だが今回は何としてもその無茶を押し通さなければならない。不安を覚えるのも無理はない。彼女は今までこのような事態には無縁だったのだ。


「助けてくれませんか?」


「俺がフィーネみたいな可愛い娘の頼みを断るわけがないだろう?」


「まあ!ありがとうございます」


と、フィーネは文字通り花が咲いたような、最上級の笑顔を浮かべた。頬にも朱が差している。その姿はとても可愛らしかった。


そしてフィーネとカナメは連れ立って会議を開くために部屋から出て行った。






一方で置いてきぼりにされていたアリシアは…。




「うぅ…姫様が…姫様が……!!あんなわけのわからない男の影響を…」




いじけていた。


カナメを連れて部屋を出て行った姫様の姿は、どうにも恋する乙女のように見えたのは気のせいだ。二人並んで歩くその様子が寄り添いあう恋人のように見えたのもきっと気のせいに違いない。


そうだきっと気のせいだ!


そんなアリシアの背後には、ガーンとでも言いたげに暗い縦線が何本もその存在を主張しているのもきっと気のせいさッ!


頑張れアリシアッ!目の前で君の言うわけのわからない男―――カナメが着々と大事なフィーネ姫にフラグを建築していようとも君には明日があるッ!

カナメ ハインツ 魔女で検索するとバレバレな件。


もしかしてこの小説で、作者の読書傾向や趣味バレバレじゃね?と今さらながら思った。

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