第02話 運命な召還と戯言な誓い
話がなかなか進まないだと!?
いいぜ、まずは思ったより小説って難しくって書くのしんど…なんていうそのふざけた幻想をぶ(ry
―――召喚。
彼が世界に殺され、やっべ死亡フラグ立てすぎたか、と焦っていた時だった。
声が聞こえた。
歌うような、流々と流れる美しい声。
―――………。………!
実際彼はあの時、まさしくトラックに轢き殺され、確かに死亡した。
だが生きている。生きているのだ。
彼は今ここにこうして生存している。
体は存在せず、思考だけが生きている。
肉体は死亡。思考は生存
またもや矛盾している。
彼の存在は矛盾に満ち溢れていた。
(おいおいおい…。矛盾し過ぎてて意っ味わかんねーぞオイっ!)
もしや厨二病をこじらせすぎたか、と悩む彼を余所に、声は続く。
―――………。………。
何と言ってるかは分からない。
でも何故だかその声は彼に響いた。
声が聞こえるということはどこかと繋がっているということ。
思考できるということは、まだ自分が存在していることの証明。
ならばまだ彼は世界に負けておらず、理不尽に屈していないということになる。
―――………ッ!………よ!
段々と声が近づいて来るように感じる。
果たして声が近づいているのか、彼が近づいていっているのか。
後者だと、彼は判断した。ただ感じるのだ。―――呼ばれていると。
このままこうしていても何も変わらない。ただここで永遠に思考のみが生きつづけるのかもしれない。
それは世界への敗北なのだろうか。
――……い!…て……!
呼ばれている。
彼は確信した。この先に自分の生があると。それは今までに散々してきた殺しあいで培われてきた直感ゆえのものかもしれない。
生を得ることができれば、世界は彼を殺せず、彼は死を乗り越えたことになる。
ならばこそ、理不尽に屈するを良しとしない、負けず嫌いな彼が取る行動は決まっていた。
―――……求める!……よ!
彼を呼ぶ声が聞こえる。
ここまで来れば彼には分かった。
―――召喚。
その声は彼を召喚しようとしていた。
ハッ!世界に拒絶された俺を召喚しようだなんて俺以上の変態かよ!
だが、面白い。
世界に屈するのは、真っ平ごめんだ。
だったら喚ばれてやろうじゃないか、この声に!!
―――来て!お願い!
召喚主がモブだなんてのはよしてくれよ。そんな退屈なのは嫌だからな。せいぜい退屈させるな!
いや退屈なんてさせてやるものか!
新たな生よ、新たな世界よ。俺についてこい!
魔女の物語の主人公が、お前をとことん引っかき回しに行ってやる。感謝しろ。
世界は平凡か?未来は退屈か?現実は適当か?
安心しろ。それでも、生きることは劇的だ!
だから―――。
† † †
「問おう。君が俺のマスターか」
戯言的に某赤の請負人風に格好つけて召喚された彼の前には、少女がいた。
ネタで始まったのならばネタに続けとばかりに、Fateなセリフを吐く。
その内心はゼロでくぎゅうな世界だったらミスったなと、ふざけたことを考えているが。それも厨二病だから仕方ない。厨二病がすべて悪いのだ。
右手にちゃっかり約束された勝利の剣が握られているのも、厨二病のせいである。
版権?何それおいしいの?
まあ、“こちら”で自分の能力が使えるかという確認の意味もあったのだが。
まるでどこかのお姫様が着るかのような純白のドレスにも似た、けれど決して華美過ぎない衣服をまとったその姿は、気品にあふれていた。
腰ほどまである長い金色の髪、今はどこか唖然としているような表情をしているが、優しげな顔立ち、彼と同じく15、6歳であろうかという少女。
彼女の美しい金髪はなぜか不思議と“彼女”を連想させた。
「…あなたは勇者さまなのでしょうか?」
少女は彼の問いに、問いで返した。
………勇者ね。
「喜べ少女。君の願いはようやく叶う」
正義の味方じゃなく、勇者であるのが少し惜しい。
「君が勇者を求めるというのなら、俺は君の勇者になろう」
世界に拒絶された身を喚び、敗北という未来から救ってくれた礼だ。それくらいはしてやらないと罰があたる。召喚されるだなんてどこぞの主人公みたいな状況というのも、彼の気分を高揚させている一因となっている。
「だからこそ問う。なぜ勇者を求める?」
その問いを聞き、どこか呆けていたような表情をしていた彼女は、目を見張った。
先程までの様子とは一変し、その姿は凛々しく、正にお姫さまと呼ぶに相応しかった。
「守りたいからです」
今度は問いで返さなかった。
「何を?」
「この国を。この国の皆を。この国の未来を私は守りたいです」
彼女は答える。
「私には何の力もありません。王族としての魔力はありますが、戦うことができません。戦う力がありません」
自分には力がないと、悲しい現実を認める彼女の瞳にはその悔しさからか、泣きそうだった。
「でも私は守りたいのです。この国も、この国で暮らす皆も」
彼女は願う。
「どうかお願いです。皆を守ってください、勇者さま」
そして彼女は―――涙した。
彼女の頬に一筋の雫が流れる。そこにどんな感情があるのかは分からない。涙の理由なんて会ったばかりである彼には分かるはずもないのだから、仕方ないのだろう。
けれど、ひとつだけ彼にも分かったことがある。
彼女はきっと―――優しいのだろう。
誰よりも、何よりも、きっとずっと優しいのだろう。
守りたいという彼女の真摯な願いから、彼女の優しさが伝わってくるかのような錯覚に陥る。
そんな少女のやはり、“彼女”にどこか似ていた。
金の髪以外に共通点などあるように見えない。身に纏う雰囲気も“彼女”のそれとは異なっている。
―――ああ、そうか。
彼女の在り方が似ているのだ。その強さが。
方向性の違う強さ。けれど彼女の優しさには、確かに強さがあった。
守りたいという彼女の願い。その想いは美しく、何よりも美しかった。
守る力がないのならば、見捨ててしまえばいい。
守る力がないのならば、諦めてしまえばいい。
守る力がないのならば、逃げてしまえばいい。
それが普通の人間だ。守りたいと願っても、彼女が背負う必要もないのだ。彼女にも立場があるのかもしれないが、それでも彼女だけが背負う必要なんてどこにもない。他の人に任せて、逃げてしまうという選択肢もあったはずなのだ。
でも彼女は決して逃げなかった。
心の底から守りたいと願い、彼女にできることを模索した結果が、今回の召喚だったのだろう。
だから彼女の心は強いのだろう。
ったく。モブどころじゃない。どこの主人公だよ。
彼は彼女に必要とされている。守りたいものを守るために。
世界に拒絶された彼を必要としてくれている。その事実が何よりも嬉しかった。
しかも彼を必要としてくれているのは、彼が憧れた“彼女”にも似た少女。
やれやれ。こんなの…なるしかないじゃないか。主人公に―――彼女のための勇者に。
「カナメ」
「えっ!?」
「俺の名だ」
「あ、はい!申し遅れました。フローレンス王国第二王女、フィーネ・フォン・フローレンスといいます」
名前は、彼の憧れた魔女の“彼女”から借りた。
以前の名は捨てる。彼はここからまた始めるのだ。
魔女であった彼の物語は終わった。そしてここからまた彼の物語は始まる。彼を主人公として。
彼の勇者としての物語が。彼女のための勇者の物語が。彼と彼女の―――カナメとフィーネの物語が、今始まる。
彼は誓う。
主人公となることを。
そして―――。
「俺は君の、フィーネのための勇者となることを誓おう」
カナメはフィーネの前で片膝をつき、フィーネを見上げる姿勢を取る。続いてカナメはフィーネの手を取り、そっと口づけをした。
その様は騎士の誓いにも見えた。最も今回は勇者の誓いという一風変わったものである。それもカナメとフィーネのためだけの特別な、彼らだけの儀式と捉えれば、正にカナメは主人公であり、フィーネはヒロインだ。
才人とは随分扱いが違うな、これでこそ主人公だと相変わらずなことを考えて苦笑しつつ、カナメは告げる。
戯言で始まり、戯言で終わる。
言葉を今の状況に即して変えて、戯言を。
「貴女が乾きしときには我が血を与え、貴女が飢えしときには我が肉を与え、貴女の罪は我が贖い、貴女の咎は我が償い、貴女の業は我が背負い、貴女の疫は我が請け負い、我が誉れの全てを貴女に献上し、我が栄えの全てを貴女に奉納し、防壁として貴女と共に歩き、貴女の喜びを共に喜び、貴女の悲しみを共に悲しみ、斥候として貴女と共に生き、貴女の疲弊した折には全身でもってこれを支え、この手は貴女の手となり得物を取り、この脚は貴女の脚となり地を駆け、この目は 貴女の目となり敵を捉え、この全力をもって貴女の情欲を満たし、この全霊をもって貴女に奉仕し、貴女のために名を捨て、貴女のために誇りを捨て、貴女のために理念を捨て、貴女を愛し、貴女を敬い、貴女以外の何も感じず、貴女以外の何にも捕らわれず、貴女以外の何も望まず、貴女以外の何も欲さず、貴女の許しなくしては眠ることもなく貴女の許しなくしては呼吸することもない、ただ一言、貴女からの言葉のみ理由を求める、そんな至高の存在にして最強の、貴女の願いを叶えるための貴女のためだけのたった一人の勇者になることを――ここに誓おう」
結局は戯言だけど。
ちなみに主人公の憧れた“彼女”―――魔女のカナメを主人公とするライトノベルは、私が人生で初めて読んだライトノベルです。
せっかくなので作中に登場させていただきました。奇しくも作者と同じく、今作のカナメのOTAKU LIFEを作り上げた根幹として。
タイトル分かる人は果たしているのでしょうか?
私は大好きなのですが、当時回りでライトノベルを読んでる友人たちも知らなかったのは悲しくも、懐かしい思い出です。
ちなみにもう何年も続きが出るのを待ち続けているのですが、信じていいのでしょうか?
続きマダー?