表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様のお嫁様  作者: 紫月 京


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/42

8.元に戻りたいか


残りの果実酒を一息にあおって、魔王様がグラスをこちらに差し出した。慌てて、お代わりを注ぐ。

「遠い昔に文献で読んだことがあるな。生きることに絶望した魂が、最後の魔力を振り絞って共鳴できる魂を呼び寄せることがある、と」

「共鳴できる魂……生きることに絶望……」

魔王様の言葉を繰り返し、お妃様が首を傾げた。

「何か心当たりがあるか?」

「何だか、ここで気がつく直前のことは朧気で……でも、そうね。貴方に聞かれて思い出したわ。あたし、この子に会ったような気がする」

自分の胸元あたりを手で押さえ、お妃様が呟いた。

「ユーティリアに会った?」

「何だか合わせ鏡の前に立ってるみたいな感じだったわ。鏡のこちらはあたし。向こう側にこの子。ぼんやりとした白っぽい空間だったと思うんだけど」

自信がなさそうなお妃様に、魔王様がふむ、と考え込む。

「ねぇ、鏡はある?あたし、今の顔をまだ見ていないのよね」

そう言えば、この一週間メイドたちに世話をされている間も、どこかぼんやりとされていたな。瑞々しい肌には化粧の必要もないと言って、髪や肌を整えるだけだったはず。

そうか、お姿をご自身で確認されていなかったのか。

ベッド脇のチェストの引き出しから、手鏡を取り出してお妃様に手渡した。

「ありがとう」

すうっ、と深く息を吸い込んで、お妃様が手鏡を顔の前に持っていった。


時間が止まったかのように、誰も何も言わなかった。

手鏡を凝視するお妃様を見つめる魔王様。

お妃様が取り乱されても大丈夫なように、身構える僕。

そして、鏡の中に映るご自身を、じーっと見続けるお妃様。

ほうっ、とお妃様がため息を零した。魔王様の肩が跳ねる。世界で最強の魔王が、そんなにビクビクとしないでいただきたい。

「可愛いじゃない」

何とも気の抜ける感想をいただいた。

「えっ、いやだ。なんて綺麗な肌なのっ?シミ一つなくて、唇なんてプルプルじゃない!」

じっくりと、鏡を近づけたり離したりしながら、自分の姿を確認している。

「それがユーティリアの顔だが、お前が会ったのは確かに彼女か?」

魔王様の問いかけに、ハッとしたようにお妃様が手鏡を膝に乗せた。

「そうね。彼女だったと思うわ。もっと、顔色も悪くて、生きる気力もないみたいな目をしていたけど」

「生きる気力……」

「泣くことももうできない、すべてを諦めたような表情をしてたと思う」

可哀想になっちゃって、とお妃様は続けた。

「多分、娘を見てるような気持ちになったのね。頭を撫でてあげたくて、鏡に手を伸ばしたのよ。そしたら、吸い込まれたような気がするわ」

「むすめ……」

魔王様、呆然と繰り返さないでください。

「そして、気づいたらここにいた、と」

「では、魂の入れ替わりはその時だな。ユーティリアは隠されて、忌避されて冷遇されて育った娘だ。さらには、道具のようにここに嫁がされることになった。何もかも諦め、死を願ったとしても不思議はない」

腹は立つがな、と魔王様が呟く。

「冷遇されていた?」

お妃様の疑問に魔王様は頷いた。

「お前は鏡で見て、今の容姿をどう思った?」

「えっ?すごく可愛くて、とても綺麗だと思うけど」

「髪や瞳の色は?」

「夜空みたいで綺麗な色よね。あたしは色素が薄い方だったから、羨ましいくらいだわ」

お妃様の感想に、なるほどと魔王様は首肯した。

「共鳴する魂、か。

 ユー……ミサキ、この世界では黒い髪黒い瞳は嫌悪される象徴のような色だ。人族の世界ではな」

「えっ?」

「お前はユーティリアの容姿を受け入れられる魂だったのだろう。生に絶望したユーティリアの願いによって呼び寄せられた、肉体から離れかかっていた魂」

魔王様が、お妃様の顎をそっと指ですくった。

「だから今、お前はここにいる。元に戻せるかはわからんが……調べてみるか?」

じっと見つめられて、お妃様の瞳が見開かれる。

「元に……片桐美咲に戻れる、ということ?」

「確約はできん。方法もわからんからな。だが、お前はユーティリアではないのだろう?ここに縛り付けるわけにはいかん」

「……少し、考える時間を貰える?」

魔王様の瞳を真っ直ぐに見つめて答えたお妃様の声は、震えていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ