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魔王様のお嫁様  作者: 紫月 京


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6.自己紹介


カフカの指示で、テーブルの上が静かに片づけられていく。

魔王様は食後に甘い果実酒を飲まれるけど、お妃様はどうかな。紅茶はもう飲まれたし。

好みもわからないし、素直に聞くか。

「妃殿下、陛下は食後に果実酒を飲まれますが、同じものになさいますか?」

目を丸くしたお妃様の表情が愛らしい。何に驚いたのだろう。

「貴方……まだ入るの?あたしはもう、お腹いっぱいよ?」

「酒は別だ。いくらでも入る」

「リカちゃん、ありがとう。あたしは満腹だから、何もいらないわ」

「御意」

頭を下げて、魔王様のグラスにだけ果実酒を注いだ。


ベッドに近い位置に置いてあるソファへとお妃様を促して、魔王様がその隣に座る。長い足を組んでゆったりとされているが、お妃様は落ち着かないようにもぞもぞと体を動かしている。

「何だ?」

「どうして隣に座るのよ?」

「夫だから当然だ」

ソファの横に置かれたサイドテーブルに、魔王様の好物のナッツの小皿を置いた。

「だからね、まずはそこから話したいと思うのよ」

何度か息を吸ったり吐いたりして、お妃様が真っ直ぐに魔王様を見つめた。

ようやく視線が合ったことに安心されたのか、魔王様の口元に小さく笑みが浮かんでいる。

「リカル、お前だけ残って人払いしろ」

「御意」

とは言っても、小姓もメイドたちも下がらせてあるから、あとは護衛官だけなんだけどな。

扉の前に控える二人の護衛官に視線をやる。心得たというように頷いて、深く一礼した後で寝室を出て行った。彼らは人族であるお妃様のための護衛だからな。傍に魔王様がいるなら、ずっと部屋に詰めていなくても問題ない。扉を閉め、防音の魔法をかける。

僕が用意を終えたのを見届けて、魔王様が口を開いた。

「では、お前の話とやらを聞こうか」

「どこから話せばいいのかしら……」

頬に手を当てて、お妃様が困ったように眉を下げている。そっと、ソファに近寄った。

「僭越ながら、よろしいでしょうか」

「何だ?」

「これまでの一週間で、王妃殿下と我々の認識に、何かズレがあるように感じられます。まずはお互いに、自己紹介などされてみてはいかがでしょう」

僕の言葉に魔王様は驚いたようだ。エバー王国から和平の証として送られてきたお妃様に、改めて名乗る必要など感じていなかったのだろう。でも、今のお妃様を見ていると、どうも魔王様のことも僕たちのことも、何なら魔族のこともよくわかっていなさそうなんだよな。

顎に手をやり少し考えてから、魔王様はゆっくりとお妃様の瞳を見つめた。

「先に聞く。お前は、俺が誰だかわかっているか?」

魔王様の質問に、お妃様は眉間に皺を寄せて首を横に振った。

「……ごめんなさい、わからないわ」

この時の魔王様の表情を、僕は生涯忘れられないかもしれない。ようやく迎えた花嫁が、自分のことを知らない。夫だと認識していない。絶対的な強さを誇り、セレスリーアでも人族の世界でも魔王様のことを知らない相手など、存在するはずがなかった。それなのに、目の前に座る可憐な乙女が自分を知らないと言う。普段周りに侍ろうとする女たちのように、頬を染めて熱く見つめてくれるわけでもない。

魔王様にはとてつもない衝撃だっただろう。

「わからない、か」

吐息のように漏らされた呟きに、お妃様が肩を竦めた。

「毎晩ベッドに入ってくる変態さんなんだと思ってたわ」

「変態……」

「ぶふっ」

しまった、堪えきれなかった。吹き出した僕をギロリと睨みつけ、魔王様がため息を吐く。

「ならば、名乗ろう。俺はシュヴァンダル・セレスリーア。このセレスリーアを治める魔族の王だ」

「まぞく?」

「人族にとっては異形のモノらしいがな。ただ、お前たちよりも魔力が高い一族であるというだけだ」

「まりょく……」

お妃様の引っ掛かってるところがわからないな。まさか、魔力がわからないなんてこと、あるのかな。

ふうーっと深く息を吐き出して、お妃様がきりっとした表情を浮かべた。

「あたしは、片桐美咲。えっと……美咲が名前よ」

「ミサキ……」

魔王様が頭を抱えてしまった。やはり、その名を名乗るのか。

「でも、貴方たちがあたしのことを、別の名前で呼んでいることもわかってる。何ていったかしら、ユーティ……?」

「ユーティリア・ヴィ・エバーレンチェル。エバー王国の第十二王女で、俺の王妃となるためにこの国へやって来た」

きっぱりと告げた魔王様に、お妃様は言葉をなくしたようだった。



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