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魔王様のお嫁様  作者: 紫月 京


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55/61

55.暴行の真実


まだ最上階からは出さないと魔王様が宣言され、許可を得て上がって来たアイルーン様が、談話室の一人掛けのソファに腰を下ろした。向かい合うように、ソファに魔王様とミサキ様が座る。

カイダル様とジフジ様は、少し離れてそれでも話が聞こえる距離に立たれた。

扉を閉めて防音魔法をかける。

「ユーティリア王妃殿下、お初にお目にかかります。セレスリーアで総務官長を務めます、フェドック・アイルーンと申します」

頭を下げて名乗ったアイルーン様に、ミサキ様が頷いた。すぐにお辞儀してしまう文化で育ったらしいミサキ様だが、王妃殿下が下の者に頭を下げてはならないと、魔王様とジフジ様が必死に言い聞かせていた。

「ユーティリア・ヴィ・エバーレンチェルです。何とお呼びすればよろしいかしら?」

外向きの口調も、ジフジ様が付け焼き刃で教育されていたが、「お嬢様言葉ねっ」と何故か瞳を輝かせたミサキ様は、危なげなく話されている。

「総務官長でもアイルーンでも、陛下の許可があればフェドックとお呼びいただいても構いませんぞ」

アイルーン様の言葉に、確かめるようにミサキ様が魔王様を見た。

眉間に深く皺を寄せて、魔王様が答える。

「フェドック以外なら何でもいい」

まさか、アイルーン様にも嫉妬を見せるとは。たぶん、祖父と孫くらいには年齢差があるはずだけど。

アイルーン様も驚いたのか、目を丸くした後で微笑んだ。

「では、アイルーン様とお呼びするわ」

「様もいりませぬが、ま、それは追々で」

コホンと咳払いして、アイルーン様が姿勢よく座ったままで眉を下げた。

「性急で申し訳ございませぬが、有翼族の長、サヴィーナ老の屋敷に捕らわれておいでだった間のお話を、聞かせていただけますかな」

コクリと頷いて、ミサキ様が頬に手を当てた。

「どこからお話ししたらいいのかしら……」

「では、私が質問致しますので、それに答えていただく形はいかがでしょうか。ジフジ様も、その場においでだったはずですので、補足をお願い致します」

「承知した」

書類を取り出し、アイルーン様があの襲撃の時に遡って質問を始めた。


私室の窓を割って飛び込んできた十名の有翼族の戦士。

ソファに座ってお茶をされていたミサキ様をその場に残し、ジフジ様が制圧された。

その隙に有翼派閥に寝返っていた非番の武官がさらに押し入り、ソファのミサキ様を抵抗できないように押さえつけながら抱え上げ、窓から飛び降りた。この間、ジフジ様には麝香族の男が手枷を嵌めて纏わりついていた。

高所から急に地面すれすれまで飛んだ風圧で意識を失ったミサキ様が、次に気づいた時には後ろ手に縛られて椅子に座らせられていた。目の前には、お茶会の華やかなティーセットと菓子類が並んだテーブル。

そして、その奥に座ってミサキ様を睨めつけていたのは、ハミリア・サヴィーナだった。

ミサキ様に猿ぐつわまで噛ませ、ハミリア・サヴィーナは浮かれた様子で囀る。

曰く、自分ほどの高貴な姫が魔王陛下の隣に立つには相応しい。

曰く、下賤な人族など、魔王陛下に釣り合うはずなどない。

曰く、いまだ蜜月も迎えられない無能など、さっさと国へ帰れ。

要約するとこういったことを、延々と語っていた。

拒絶するミサキ様に目を吊り上げ、傍に控えていた護衛官に命じてミサキ様を荷物のように抱え、地下牢へと放り込んだ。

壁に錠のついた手枷で拘束され、王妃殿下の地位を退くと答えるまで帰さないと告げられた。

有翼族の腕力で殴られ、蹴られ、鋭い爪で皮膚を引き裂かれた。

途中で気を失いそうになる度に冷水を顔にかけられ、朦朧とした意識のままでそれでもミサキ様は帰るとは答えなかった。

さすがに痛みに耐えかねて死を覚悟した頃、遠くから怒号が聞こえてきたような気がした。

何故、あの手枷がどうして、などと喚き、焦ったようにその場を離れたハミリア・サヴィーナの背中をぼんやりと見ながら、とうとう意識を手放していた。

次に気づいた時には、魔王様の腕の中で口づけをされていた。


ふう、と深く息を吐いて、ミサキ様が口を閉ざした。最後の口づけのくだりだけ、頬を染めていたけど、話を聞いていた四人はそれどころではなかったようだ。

怒りというものは、度を過ぎると表情をすべて削ぎ落とされるものなんだな。

魔王様、ジフジ様、カイダル様の顔を順に見て、アイルーン様に視線を移した。いや、冷静なようでいて、僕も何の言葉も出てこない。体の震えを抑えるのがやっとだった。

聞き取った話を何とか書き留めて、アイルーン様が真っ白な顔をして立ち上がった。

「妃殿下、ご協力感謝致します。そして、恐怖を堪えてお話しくださり、ありがとうございました。これより、私は罪人を裁く準備をせねばなりません。これにて、御前失礼致します」

深く、床に届くんじゃないかというほど深く頭を下げて、アイルーン様が談話室を出て行った。



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