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魔王様のお嫁様  作者: 紫月 京


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5.ナットゥって何


とにかくお妃様をベッドから離すことには成功した。会話も、昨日までよりはまともに交わせそうな気配がある。魔王様の魔力が馴染んだからかな。

椅子を引き、お妃様が腰を下ろすのを待つ。魔王様にエスコートされて歩いてくる間も、きょろきょろと落ち着きなく寝室中を見回していた。一週間過ごしている部屋のはずなのに、やっと周りを見る余裕が出てきたということだろうか。

お妃様が座り、向かいの椅子に魔王様が腰を下ろしたところで、カフカによって朝食のワゴンが寝室に運ばれて来た。チラリ、と僕に目を向けるから頷いてみせると、安心したように笑顔で室内に入って来た。

セッティングされたテーブルに、湯気の立つ料理が次々と乗せられていく。

雉肉のスープ、セレスリーアで採れた野菜のサラダ、人族に好まれるという小麦のパン、魔王様の好物の雉肉の丸焼き、血の色のワイン。あとは、世の女性が好きだというデザートを数種類。

並べられていく料理に、お妃様が目を丸くしている。何かおかしかったかな。

「妃殿下、お嫌いなものがございましたか?」

「……量が多い」

あぁ、昨日まではお妃様だけだったからな。

「本日よりは、魔王陛下がご一緒されますので、これでも量は絞りました。妃殿下は、お食べになれる量だけを召し上がってくださればよろしゅうございます」

「その、妃殿下って、やめて?」

そんなこと言われてもなぁ。向かいに座る魔王様の眉がピクッと上がった。

「ユーティリア、我儘を言って侍従を困らせるものではない」

「あたしは、そのユー、ティ……何とかでもないのよ。何度も言ったでしょ?」

内心のため息を堪えて、できるだけ優しい声を出した。

「お話は、お食事の後で。せっかくの料理が冷めてしまいますので。陛下も、よろしいですね」

「……わかった」

「ごめんなさい。そうよね。せっかく用意してくれたんだもの。美味しくいただくわ」

魔王様の魔力が馴染んだだけあって、昨日までより随分、頭がはっきりされているようだ。

少し安心して、主君夫婦への給仕を始めた。


カトラリーを器用に使って食事を口に運ぶお妃様の様子は、やはり王女殿下なのだなぁと、所作の美しさに感心した。けれど、時々零される呟きの意味がよくわからない。

「あたし、朝は和食派なのよねぇ。納豆が食べたいわぁ……」

ワ、ショク……ナットゥ?何それ。エバー王国で食べられている料理かな。後で調べさせないと。

お妃様が呟く度に魔王様の眉がピクピク反応するけど、何も言わずに咀嚼している。

「あ、このパン、美味しい」

小さく微笑む表情は年相応に可愛らしく、魔王様が目を丸くして頬を染めている。そのまま押し倒したりしないでくださいよ。

お妃様は朝からワインなんて飲めないと仰せだったので、果実水のお代わりをグラスに注ぐ。

「ありがとう」

給仕する度に微笑んでお礼を言われると、何かこそばゆいな。

「これが仕事ですので、お気になさらず。お料理は、お気に召していただけましたか?」

「えぇ。量が多くて驚いたけど、とっても美味しいわ」

「ようございました」

魔王様はその大きな体を維持するために、朝も昼も夜も、とにかくたくさん食べる。

テーブルに所狭しと並べられた料理はどんどん減り、お代わりを運ぶためにカフカは二度厨房へ走った。食堂なら、こんな手間は掛からないんだけど、しばらくは仕方ないかなぁ。

魔王様の健啖家ぶりに、お妃様も驚いたようだ。毎朝ベッドから魔力で吹き飛ばしていた相手だというのに、警戒も忘れたように食べっぷりに見惚れている。いや、吹き飛ばしていたのは魔王様の魔力と反発し合ったせいだな。だいぶ馴染んだと魔王様が仰せなんだ。明日の朝からは、そんなことないと思いたい。

ゆっくり時間を掛けて食事を終え、紅茶をカップに注ぐ。

「いい香りね」

目を閉じて香りを楽しんだ後、微笑みを浮かべたままお妃様がカップを口に運んだ。あぁ、魔王様がまた見惚れている。朝から締まりのない顔を見せないでほしい。

ふぅ、と息を吐いてカップをソーサーに戻し、お妃様が晴れやかに笑った。

「ご馳走様。美味しかったわ。ようやく、目が覚めたような気がする」

つまり、やっとしっかり魔王様と会話してくれるということだろうか。



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