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魔王様のお嫁様  作者: 紫月 京


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49/61

49.目覚めは恐怖の記憶とともに


手早く食事を済ませ、カフカとともに明日の支度をし、最上階の厨房の横にある使用人用の小部屋に詰めた。小さな机と椅子が置いてあるだけの、主に呼ばれるまで待機するだけの部屋だ。

寝室の隣にも侍従用の小部屋はあるけど、お二人が集中できるように、今は距離を取っておきたかった。

机に置かれた蝋燭に魔力を流して火を灯す。

小さく息を吐いて、椅子を引いて座った。どっと体の力が抜ける。

サヴィーナ老を殴ると息巻くジフジ様を、カイダル様と一緒に必死になって止めている間に、気づけば深夜になってしまった。その間に二度、アイルーン様がカイダル様の元に書類を持って来られた。魔王様は今手が離せないからと、代わりに決裁印を押し調査結果の報告書を受け取っていた。


有翼派閥に元から属していた者。

今回ハミリア・サヴィーナ嬢を王妃に押し上げるために協力して派閥に与した者。

私室への襲撃にまったく関与していなかった者。

アイルーン様のふるい分けは正確に行われ、有翼派閥の者たちはそれぞれ牢に捕らわれるか、屋敷での謹慎を申し渡されている。

セレスリーアの王妃殿下への暴行。誇り高き魔族が決して行ってはならない愚行であり、魔王陛下の威光を揺るがす重大事件だ。調査は慎重に、迅速に行われている。しかもそれを、セレスリーアの主力種族である有翼族が犯した。派閥外の重臣たちにも、国民たちにも衝撃の事実だった。


喉が渇いて水を杯に注ぐ。ゆっくりと飲んで、ため息を零した。

今頃魔王様は、寝室でユーティリア様と触れ合っておられるだろうか。ミサキ様に心惹かれていた魔王様が、どんな顔でユーティリア様に口づけるのか、考えていたら僕まで緊張してきた。

高潔なユーティリア様は、平然としていそうだな。そして、また魔王様が真っ赤になって翻弄されているのか。それがミサキ様相手だったら、魔王様はより一層動揺されるんだろうなぁ。

想像していたら少し気持ちが落ち着いてきた。

ミサキ様の明るい笑顔を思い浮かべる。

僕のことをリカちゃんと呼んで、気さくに話しかける。最上階の廊下を箒を手に掃除して回り、厨房で料理長と笑い合いながら得意料理よと胸を張っておられた。

自分はいい年をした大人だと言うくせに、魔王様に抱き寄せられて真っ赤になっていらしたな。ここに留まる決意をしてくださったら、ユーティリア様が仰せのように、魔王様が深く愛して蕩けさせて、元の世界など忘れさせて差し上げるだろう。

早く、ミサキ様にお会いしたい。あの笑顔で、リカちゃんと呼んでいただきたい。

恐ろしい暴力に晒されて傷ついたお心を、魔王様やジフジ様の傍で癒してほしかった。

いつの間にか、少しうとうとしてしまったようだ。

遠くで、僕のかけた隠蔽魔法が解かれる気配を感じた。ハッとして立ち上がる。

小窓から空を見上げると、薄っすらと明るくなってきていた。

魔王様の寝室から、僕を呼ぶための呼び鈴の音が小さく響いた。蝋燭の火を消して小部屋を飛び出す。

逸る気持ちを抑えて廊下を走った。寝室の扉が遠い。

階段から、ジフジ様が駆け上がって来る姿が見えた。魔王様が魔力で呼ばれたんだろうか。

息を切らしながら寝室までたどり着き、少し呼吸を整えて扉を叩く。

答えがないことに不安になってそっと扉を開けると、防音魔法で遮られていたお妃様の絶叫が耳に届いた。

「いやあぁぁぁぁっ!やめてっ!もう殴らないでっ!!」

「ミサキっ、ミサキ!大丈夫だ、もう安全だっ!落ち着けっ!」

ベッドの上で、衣服を乱したままの魔王様が、必死に宥めている姿が目に飛び込んでくる。

呆然と立ち尽くす僕の横を、ヒュンッと音を立てて大きな人影が走り去った。

「ミサキっ!あたしだよっ、ジフジだ!しっかりこっちを見なっ」

魔王様の反対側から、ジフジ様がお妃様の細い体をきつく抱きしめた。

僕を急かすように室内に入れて、カイダル様が寝室の扉をきっちり閉じて隠蔽魔法をかけなおした。



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