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魔王様のお嫁様  作者: 紫月 京


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48/61

48.私刑はよくないと思う


ユーティリア様の感じる、ミサキ様が心を閉ざしてしまわれた様子。

魔王様の魔力を流し込んで目覚めを促したいと仰せだったこと。

けれどまだ体を重ねていないお二人には難しいということ。

翌朝までかかるかもしれないけれど、寝室で二人きりで、唇を重ねて魔力を流すこと。そして……。

「ユーティリア様は、ジフジ様とカイダル様に感謝を伝えてほしい、と。人生の最期に、幸せな時間を過ごせた、と……」

あぁ、堪えきれない涙が零れてしまった。侍従として失格だ。僕は、いつまで経っても情けない。

唇を噛んで震える僕の頭に、いつの間にか立ち上がっていたカイダル様の大きな手が置かれた。ハッとして顔を上げる。

「カイダル様……?」

「お前はよくやっている。ユーティリア様が望まれたことだろう?自分を責めるな」

ぽんぽん、と軽く撫でられてカイダル様がジフジ様の傍へ戻る。

「ジフジ、大丈夫か?」

「……」

「こら、怒りを引っ込めろ。リカルが怯える」

ぎゅっと抱きしめて、カイダル様がジフジ様の背を撫でた。

ふうーっと深く吐き出された息に、僕の肩が跳ねる。こちらを向いたジフジ様の瞳は、いつもと変わらない落ち着いた色を浮かべていた。

「悪かったね、リカル。あんたに怒ったわけじゃない。ユーティリア様をそこまで追い詰めた人族の国に、無性に腹が立ったのさ」

「あんなに美しい色が、人族には嫌悪されて暴力にまで晒されるなんてな」

心を落ち着けるように紅茶を一口含み、ジフジ様が口を開いた。

「生きる希望を見出せないユーティリア様が消滅を選ぶのは仕方がない。あの高潔な人がそんな最期を迎えるなんてやり切れないけど、軽々しく止めることはできない」

ジフジ様の言葉にカイダル様も大きく頷いた。

「引き止めることが救いになるとは限らんからな。最後の魔力でミサキ様を戻してくれようって言うんだ。素直に感謝して、受け入れるべきだ」

お二人の厳しい言葉に下を向きそうになるけど、堪える。ジフジ様たちだってお辛いはずなんだ。この数日、お妃様の私室でともに過ごされたんだから。

「今は、陛下とユーティリア様が無事に終えられることを待つしかない。それに、最期に幸せだったなんて言ってもらえて、これ以上ないほど光栄だよ」

悲しみを振り切るように晴れやかに微笑んで、ジフジ様がカイダル様の手を握りしめた。


出してもらったカップを僕が片づける。

さすがに、そこまでカイダル様に甘えるわけにはいかなかった。

僕が立ち上がったソファに、ジフジ様が座り直してカイダル様と並んでいる。

「お話を聞いていただきまして、ありがとうございました」

深く頭を下げて告げた。

「私は仕事に戻りますが、お二人はこのままこちらにいらっしゃいますか」

最上階の談話室にもいつでも入れるようにはしてある。けど、この客室なら呼ぶまで世話役の使用人は立ち入らないから、二人きりでいるならこちらの方がいいのかもしれない。

「あぁ、いや。まだ野暮用が残ってるんだ」

野暮用……お妃様の私室を出る時にも仰せだったな。

カイダル様が苦笑して肩を竦めた。

「さっきまで有翼族の小娘を殴りつけてたんだが、爺が残ってると言って聞かないんだ」

サヴィーナ親子か。

何があったのかミサキ様からも話を聞かなければならない。断頭台での処刑もできず、娘はその悪質さと傲慢さと暴言で地下牢に移されている。

サヴィーナ老はさすがに重鎮だから、高位魔族用の牢に入れてあるけど、毒杯なんて生易しい罰で魔王様が許すだろうか。

そうだ。サヴィーナ親子は魔王様の怒りを甘く見すぎていたんだ。ミサキ様に手を出して無事でいられると、どうして思ったのか。

そんなことを考えていると、ジフジ様がニヤリと笑った。

「有翼族の英雄として腕をふるい、セレスリーア軍にその人ありと謳われた栄光も、今は昔さ。

 ゼガンダ・サヴィーナはやり過ぎた。たとえ陛下が、ミサキのことを何とも思っていなくても、ただの人族から送られてきた王妃だと思っていたとしても、それでも手を出すべきではなかった」

「しかし、刑が決まる前に私刑もまずいんじゃないか。小娘はまぁ、まだいいが、サヴィーナ老は重鎮だ。まだまだ、あの権力に追随する奴は大勢いる」

「それがまた腹が立つね。だが、痛めつけて、その後治癒魔法をかけておけばいいだろ?」

いえ、ジフジ様。それでも誰がやったかはバレますよ……。



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