45.ユーティリア様の爆弾発言
魔王様がユーティリア様の静養される私室に戻られると、入れ替わるようにジフジ様が出て行こうとされた。
「ジフジ、どこへ行く?」
「んー?ちょっと、野暮用だね」
「殺すなよ。ミサキが戻った時に、傷つくかもしれん」
魔王様の言葉に目を丸くして、苦く笑ったジフジ様はカイダル様とともに階段の方へ消えて行った。
私室のソファに優雅な仕草で座っていたユーティリア様が、魔王様の姿に気づいて立ち上がろうとした。慌てて手で制する魔王様。
「そのままで構わん。体調はどうだ?」
「はい、お陰様ですっかりよくなりました。ありがとう存じます」
座ったまま美しい所作で頭を下げたユーティリア様に頷き、魔王様が向かいに腰を下ろした。
カフカが淹れた紅茶を、魔王様に差し出す。一口啜った魔王様は、小さく息を吐いてユーティリア様に視線を向けた。
「少しは慣れたか?」
魔王城での生活に、だと思うんだけど、ユーティリア様が困ったように首を傾げてしまった。
「皆様よくしてくださいますので。ですが、いつまでもここにはいられません」
「……ミサキは、目覚めそうか?」
弱く頭を振って、ユーティリア様が胸元に手を当てた。
「必死に呼びかけているのですが、反応がありません」
「だが、いるのは確かなんだな?」
「はい。ですので、今夜試してみたいと思うのです」
「試す?」
魔王様と同じように、僕も首をひねってしまった。何を試すんだろう。
「この肉体を差し出しますので、魔王陛下の魔力を流してみてくださいませんでしょうか」
「なっ、ば……っ!」
一瞬で真っ赤になった魔王様を、ユーティリア様が不思議そうに見上げた。
「ご夫婦でございましょう?何か問題がございますか?」
きょとんとされて、魔王様が椅子の上から転げ落ちそうになっている。
「陛下の魔力が流れ込めば、ミサキ様も気づかれるかもしれませんわ」
「いやっ、ちょ……っ、待てそれはっ」
じっと見つめられて、魔王様が視線をうろうろさせている。
縋りつくような目でこちらを見ないでください。僕に助けを求められても困ります!
とは言えないので、コホンと小さく咳払いした。
「恐れながら、妃殿下。えー……陛下とミサキ様は、その……まだ蜜月どころか初夜も迎えておられず……」
僕の説明に、今度はユーティリア様が目を丸くした。
理解できないというように魔王様を見つめ、一度僕を見た後で魔王様に視線を戻す。
「では、お二人はまだ、ご夫婦ではないと?」
「そうですね。ミサキ様はおそらく、いつか妃殿下にお体をお返しするつもりで……」
「リカル、余計なことを言うな」
さっきまで真っ赤になって涙目になっていたくせに、急に威厳のある態度に戻られても。
「失礼致しました。まぁ、とにかく。お二人はまだ体を重ねられておりませんので、妃殿下の仰せの方法は取れないかと思われます」
「まあ……」
困ったように眉を下げて、ユーティリア様は頬に手を当てた。
「陛下が呼びかければ、ミサキ様も目覚められると思うのですけど」
「何故そう思う?」
「わたくし、ここで目を覚ましてから、とても優しくしていただいております。ですが、陛下はわたくしではなく、あの方を求めておいででしょう?いいえ、否定なさらないで。瞳がそう語っておいでですの」
あぁ、また顔を赤くして……。
「ミサキ様にも、その想いは届いていると思うのです」
一度目を閉じ、再び開いた黒曜の瞳は射抜くように魔王様を見つめていた。
「わたくしの魔力と陛下の魔力で、少々強引に起こさねば、ミサキ様は閉じこもったままのような気が致します。おそらく、わたくしの意識が表に出る時にわたくしの記憶の一部を覗かれたような気がしますの」
「記憶の一部?」
「ええ。ご自分には帰る場所がないことを悟られ、殻に閉じこもってしまわれた。そんな感覚が致しますの」
ユーティリア様の言葉に、魔王様は深く眉間に皺を寄せた。
「ミサキの肉体に入れず弾かれたという、あの話か」
魔王様の言葉に首肯し、ユーティリア様が顎に指を当てた。
「ですが、初夜がまだならば、そうですわね……体を重ねるよりは時間がかかりますが、口づけでもよろしくてよ」
ユーティリア様のあけすけな提案に、今度こそ魔王様が固まった。




