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魔王様のお嫁様  作者: 紫月 京


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43/46

43.ユーティリア様は何故ここに


ユーティリア様がようやく身を起こせるようになったのは、三日後の朝だった。

ゆっくりと、ジフジ様に支えられながらベッドの上に座ったユーティリア様は、集まった面々に深く頭を下げた。

「丁寧な治療を、ありがとう存じます」

「痛みはどうだ?」

魔王様に尋ねられ、首を傾げる様子はお妃様の姿そのもので胸が痛む。

「動かすと時折痛みますが、耐えられないものではございません」

「性急ですまんが、話を聞きたい。いいか?」

魔王様の言葉に頷き、ユーティリア様が真っ直ぐに視線を上げた。

「まずは、どこからお話し致しましょうか」

ベッドに座るユーティリア様に向かい合うように椅子を動かし、魔王様が腰を下ろした。その横にソファを移動させて、カイダル様とジフジ様も並んで座る。

「お前の記憶はどこまであるんだ?」

魔王様に問われ、少し考えた後でユーティリア様が口を開いた。

「わたくしは、エバー王国を出立して、転移門を通ってこのお城に来たことまでは憶えております」

「俺たちなりに調べたが、お前は生きることに絶望していたのか?」

魔王様、そんなはっきりと……。

苦笑して、ユーティリア様が頷いた。

「そうですね……わたくしは疲れ切っておりました。故国では嫌悪され忌避されて、隠されて暴力を受けながら育ちました。そして、魔族の皆様の後ろ盾を得るための道具として、こちらへ嫁ぐこととなりました」

「嫌悪する魔族の嫁になど、なりたくなかったか?」

魔王様の言葉には首を横に振る。

「いいえ。わたくしには、他の方を嫌悪するほどの感情は残っておりませんでした。ただ、もう生きていたくないと、叶うならばこのセレスリーアで、儚くなってしまいたいと思っておりました」

ジフジ様が息を呑む音が聞こえた。カイダル様がすぐに肩を抱き寄せる。

「ですがこのような気持ちのままで初夜を迎えるなど、魔王陛下に対して不敬であることも理解しておりました。どうしようかと考え、苦しみ、それでも進むお支度に悩む内に夫婦の寝室に通され……」

エバー王国から到着したお妃様を、メイドたちが湯殿で磨き上げて夜着を着せ、寝室まで案内したんだ。その後、確かベッドに魔王様が現れて、悲鳴を上げて気絶して……。

あれ?初夜で気を失ったのはミサキ様ではなかっただろうか。

「緊張と恐怖で頭がいっぱいになって、気づけば白っぽい空間で、合わせ鏡のようなものの前に立っておりました。あぁ、不安と胸の苦しみのあまり死んだのかと、思いました」

合わせ鏡……ミサキ様も仰せだった。

「鏡に映るあの方は、わたくしと同じ、いいえそれ以上に傷ついた瞳をしておられました」

「傷ついた瞳……」

繰り返した魔王様に、ユーティリア様が頷く。

「ですが、わたくしを見つけて悲しそうに微笑まれて、手を伸ばしてくださいました。優しく頭を撫でられたような気がして、わたくしの中にあの方を取り込んでいくような、あの方の中にわたくしが吸い込まれていくような、不思議な感覚でございました」

ふうと息を吐き出し、ユーティリア様が続ける。

「ゆらゆらと揺れているような気持ちで漂っておりました。一度、おそらくあれはあの方の元の居場所だと思うのですが、見たこともないような建物が立っている中に吸い込まれそうになりました。ですが、弾かれたのです」

「弾かれた?」

首を傾げる魔王様をじっと見つめて、ユーティリア様は首を縦に振った。

「魔力など何も感じない世界で、あの方の元の肉体にわたくしが吸い込まれるのかと思ったのですが、すでに呼吸を止めた体に入ることはできなかったようなのです」

それは、つまり。

「ミサキの肉体は、死んでいたということか?」

「おそらくは。そうして弾かれたわたくしは、またゆらゆらと彷徨って、いつの間にか元の肉体の奥底で眠ってしまったようでございます」

「そんなことがあるのか?」

難しい顔で腕を組んだ魔王様が、天井を睨む。

「勿論、稀なことでございましょう。わたくしもあの方も、もう生きていたくなかった。消えてしまいたかった。無意識にしたこととは言え、わたくしが魔力であの方を引き寄せてしまったことは事実です」

ミサキ様が、生きていたくないと思っていただなんて。孤独だったろうとは魔王様が話しておいでだったけど、ユーティリア様と同じように生に絶望していたなんて。

「今は、晒された暴力の恐ろしさに心を閉ざしてしまわれたのだと思います。それで、わたくしが呼び覚まされてしまった」

「起こすことはできるか」

視線を戻した魔王様の問いかけに、ユーティリア様は静かに頷いた。

「わたくしの最後の魔力を使えば、可能だと思われます」

「最後の魔力?」

眉を上げた魔王様に、ユーティリア様は黒い瞳を細めて綺麗に微笑んだ。

「それでわたくしは消えることができます」



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