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魔王様のお嫁様  作者: 紫月 京


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41/42

41.戻ってきたユーティリア様


誰も何も言えずに、時が流れる。

ベッドの上で困ったように微笑んでいたお妃様が、うっと小さく呻いた声でハッと我に返った。

「妃殿下、傷が痛みますか?失礼致します」

そっと、額に手を翳す。治癒魔法は苦手だけど、せめて痛みを取り除いて差し上げなくては。

動き出した僕を見て、ジフジ様が泣きそうな顔のままカイダル様を見上げた。震える声を零す。

「カイダル……」

「いや、俺にもわからんが……」

カイダル様の声も戸惑いに揺れていた。

枕元に膝をついていた魔王様が、しばらく考えた後で口を開いた。

「……まさか、ユーティリア、か?」

掠れた声に、ジフジ様が弾かれたように魔王様を見上げ、目を大きく見開いてベッドの上に視線を移す。

「どういう、ことだい?」

震えるジフジ様の肩を、カイダル様が強く抱き寄せた。そのまま、ご夫婦揃ってお妃様を見つめている。

緩慢な動きで手を動かし、お妃様が痛みに眉を寄せながら胸元に両手を置いた。

「はい……ユーティリア・ヴィ・エバーレンチェル、と申します。ご挨拶、が遅れましたこと、お詫び申し上げ……コホッ」

声を喉に詰まらせて咳き込んだお妃様に、魔王様が慌てたように声を掛ける。

「無理に喋るな。まずは、治療師を呼ぶ。寝ていろ」

「……いえ、これだけは、お伝えしたくて……ミサキ様、はわたくしの中、で眠っておられます……」

消えそうな声で告げられた言葉に、魔王様が動きを止めた。

「眠っている?」

「はい……わたくし、の弱さが呼び寄せた、あの方に、辛い思い、をさせました……申し訳……」

黒い瞳に溜まった涙が、頬を伝った。魔王様が、戸惑いながら指で拭う。

「戦乱、など知らなかった、あの方に……暴力など」

そうだ、以前にお妃様が話しておられた。

戦争になど縁のない平和な島国で生まれ育ったと、笑って話して聞かせてくれた。世界に戦乱はあっても、自分の住んでいた国にはあまり関係のない、暴力とも無縁の生活をしていたというお妃様、いやミサキ・カタギリ様にとって、力の強い魔族からの暴行などどれだけの恐怖だったことだろう。

「ミサキがお前の中に眠っているのはわかった。だから、まずは傷を癒やせ。話はそれから、ゆっくり聞く。リカル、ジフジとともにユーティリアの世話をしろ」

感情を抑え込むように息を吐いて、魔王様が立ち上がった。

カイダル様を伴って静かにお妃様の私室を出て行く。今回の襲撃について、有翼族を締め上げに行かれたのだろう。


ユーティリア様の手を握り、ジフジ様が詰めていた息を吐き出した。

「あの……?」

何故手を握られているのかわからないという顔で、ユーティリア様が不自由な動きで首を傾げている。

部屋の扉が外から叩かれた。魔王様が寄越した治療師が到着したようだ。

「妃殿下、ジフジ様、治療師を入れても構いませんか」

「あぁ、早く妃殿下の治癒をしてほしい」

「御意」

軽く頷いて、細く扉を開けた。

カフカに案内されて来た魔王城お抱えの治療師が、黒い鞄を手に立っていた。

「妃殿下の治癒をよろしくお願い致します」

「承りました。失礼致します」

アイルーン様と同年輩くらいの治療師が、静かに室内に入って来た。

ジフジ様が、ベッドの傍から立ち上がって場所を開ける。

「妃殿下、失礼致します。怪我の具合を見ますので、少し胸元を緩めますぞ」

「……はい」

小さい声だけど、はっきりと答えておられる。

治療の様子を見守りながら、隣に立つジフジ様が声を掛けてきた。

「……ミサキは、どれだけ怖かっただろうね」

僕と同じことを、ジフジ様も考えておられたようだ。俯きそうになるのを堪える。

「眠っておられるというのは、ご無事なのでしょうか」

「どうだろうね。けど、あたしは友達を諦めるつもりはないよ」

ハッとして顔を上げる。ジフジ様を見上げると、強い眼差しでベッドを見ていた。

「怪我をしっかり治して、きちんと話を聞かせてもらう。あんたも、ミサキが無事に戻って来た時のためにしっかりするんだよ」

ジフジ様なりの激励に、きゅっと唇を噛んで頷いた。

ベッドで治療師が放つ青白い光を見つめながら、ミサキ様が無事に戻って来られることを願った。



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