28.昼食会への乱入
禁書庫から一度戻った魔王様とカイダル様、そしてお妃様とジフジ様とで昼食の時間が始まった。
セレスリーア特産の魔獣肉を使った肉焼きとチーズを練り込んだパン、お妃様が体を冷やさないようにと考案された温野菜のサラダ、そして、先ほどまで厨房で作られていたカルボナーラというパスタなる料理。
魔鶏の卵とチーズ、魔豚の燻製肉を使っているらしい。胡椒は黒い粒のものをお求めだったが、魔王城の厨房にはなかった。
スープはこちらもセレスリーア産のとうもろこしを使った少しとろみのあるもの。お妃様が「ポタージュねっ」と顔を輝かせていたけど、あのスープはこれからセレスリーアではポタージュという名で呼ばれるようになるのかもしれないな。
料理長が見つけたヒギリのソースに酢と塩を混ぜて、サラダにかけた時には驚いた。求めていた調味料ではなかったようなのに、自分流に変えて試してみるお妃様のやり方に、料理長が唸っていた。
テーブルに料理の皿を並べ、静かに昼食が始まる。
「これを、ミサキが作ったのか?」
真っ白なパスタ料理を眺めながら、魔王様が尋ねる。上に乗っている卵は半熟というものらしい。まさか加熱途中で火を止める調理法があるなんて。フォークで割ると、とろりと黄身が料理の上に流れ出す。
試食を許された料理長が、大きな体を震わせてその濃厚さに感動していたな。
「あたし、和食も好きだけど、イタリアンでもフレンチでも、あぁ中華料理も好きだったのよねぇ」
半分以上わからない単語が飛び出してきた。
「お前のいた世界には、様々な料理があったんだな」
「しかし、妃殿下は器用なんだな。すでに料理長が献立を考えていたんだろ?そこに馴染むようなものを作るなんて」
カイダル様が感心したように言って、フォークをカルボナーラに突き刺した。するりとフォークからパスタが零れ落ち、首をひねっている。
「これ、どうやって食うんだ?」
「あたしも上手いこと掴めないぞ」
スプーンですくおうとなさって、ジフジ様も失敗されたようだ。
「あらあら、こちらには麺料理はないのかしらね。こうやるのよ」
クスクスと笑いながら、お妃様がパスタの隙間にフォークを差し入れ、くるくると巻き付け始めた。
目を見張る三人を尻目に、一口分ほど巻き取ったお妃様が料理を口に運んだ。
「うん、我ながら美味しくできたわね」
「ちょ、ちょっとミサキ!今のもう一回!」
「しっかり見ていたはずなのに、全然わからなかったぞ。どうやったんだ!?」
興奮ぎみのジフジ様とカイダル様をチラリと見て、魔王様が皿の上でフォークをくるくると回した。
お妃様ほど上手には巻き取れなかったけれど、自慢げな顔をカイダル様たちに向けながら料理を口に運ばれた。
和やかで楽しげな時間の最中、食堂の扉の向こうから騒がしい声が聞こえてきた。
カフカに給仕を任せ、扉を細く開ける。
途端、甲高い声が響いてきた。
「ですからぁ、わたくしたちは陛下とぉ、お食事をご一緒したいと思って来ましたのよぉ。最近ちっとも、下の食堂においでにならないんですものぉ」
「ハミリア様は、有翼族の長、サヴィーナ老のご息女ですのよ!護衛官ふぜいが、追い払うおつもり!?」
「何て無礼なのかしらぁ!あたくしたちのお父様も、有翼族では高い地位におりますのよぉ。お知らせして、罰してもらいますわぁ」
耳を塞ぎたくなるほど不快な声と言葉だった。
恐る恐る、室内を振り返る。
魔王様、ジフジ様、カイダル様が、凍りつきそうな瞳で扉を睨んでいた。慌てて扉を閉めようとしたけど、遅かった。
「リカル、閉めるな。俺が出る」
フォークを置き立ち上がろうとした魔王様を、ジフジ様が押し留める。
「いや、陛下。あたしが行く。あの小娘ども、引き裂いていいかい?」
「待て、ジフジ。俺が行く」
止めてくれないか期待したカイダル様までそんなことを……。
三人の様子を目を丸くして見ていたお妃様が、コホンと咳払いした。
「えーっと、あのお嬢さんたちが来たのよね?」
僕に視線を向けたお妃様が尋ねる。こくりと頷いた僕を見て、お妃様がにっこり笑った。
「一緒に食べたいなら、入ってもらえばいいのじゃない?」
「ダメだ。ここは、魔王夫婦のための食堂で、許可した者以外は立ち入れない」
カイダル様ご夫婦は特別だからな。陛下の幼馴染で側近で、ジフジ様はそのお嫁様だ。ご本人だって、セレスリーア軍の大部隊を率いる地位に就いておられる。
首を傾げて、お妃様が扉を見やった。
「つまり、あの子たちに許可は出せないということ?」
「そうだ」
しばらく考えて、お妃様が席を立った。
「ミサキ?」
「なら、あたしが話してきてもいい?」
「ミサ……!」
伸ばされた魔王様の手はお妃様に届かず、軽やかな動きでお妃様は扉へ歩いてきた。
どうしよう……。




