24.口づけだけで済んだのか?
談話室に静寂が流れる。
ソワソワしているカイダル様と、面白そうに眺めているジフジ様に紅茶を淹れてカップを差し出した。
一口含んだカイダル様が、並んで座るジフジ様を見つめた。
「それで、実際シュヴァンダルは何をしようってんだ?」
こちらも紅茶を飲み、ジフジ様がフフフと笑う。
「簡単なことさ。ミサキの体内に陛下の魔力を流して、他の存在がいないか隅々まで探るんだよ」
隅々まで……。どうしよう、お妃様大丈夫かな。
「体を繋げる方が効率がいいってのは?」
「あんただって、無意識にやってるよ」
「無意識に?」
カップをソーサーに戻し、ジフジ様の長い指がカイダル様の臍あたりをなぞった。
「ジフジ……っ」
「毎晩、あたしを愛してくれる時に、あたしの内側にあんたの魔力が流れ込んでいるのさ」
ティーポットを乗せた盆を取り落としそうになった。ジフジ様、こんなところで大胆すぎます。
顔を覆いたくなるのを堪えて、何も気にしていないという顔を作る。
「そうして、流れ込んだあんたの魔力とあたしの魔力が馴染んで、混じり合って、いつか子供ができるんだ」
「こども……」
どうしてそこで照れるんです、カイダル様!貴方が照れたら、僕にまで移ってしまいます!
うろたえる僕に気づいたのか、ジフジ様が悪戯っぽくこちらを向いた。
「リカルには、まだ刺激が強すぎたかねぇ」
ぶんぶんと首を横に振って、手の震えを抑えて菓子の皿をテーブルに乗せた。
「いえ、高貴な方のそういったお話を聞くことも、侍従としての務めです」
「あはは。あんたも真面目だねぇ」
楽しそうにそう笑って、ジフジ様は皿の上から焼菓子をつまんで口に運んだ。
「とにかくね。ユーティリア様の魂がミサキの中にまだいるってんなら、陛下が見つけだすだろう」
赤くなった頬を手の甲で乱暴にこすって、カイダル様が紅茶を飲み干した。
「だが、今のあいつらにそんなことは……」
「そうだろうね。だから言ったろう?口づけが精一杯だって。それでも魔力は流せる。体を繋げるよりは時間がかかるだろうが」
それに、とジフジ様が続ける。
「あたしたちが見てたんじゃあ、陛下はともかくミサキが耐えられないだろう。女心ってやつは、大事にしてやらないとさ」
それで、お二人は私室から出てここにいらしたのか。
「もしかしたら、明日の朝くらいまで出て来られないかもしれない。だから、リカル。あたしたちは今夜は城に泊まる。そのつもりで準備してくれるかい?」
「待て、ジフジ。俺もか?何故そうなる?」
「そりゃあ……」
ニヤリと笑って、ジフジ様がカイダル様に視線を向けた。
「ミサキが陛下を引っ叩いて逃げ出してくるかもしれないじゃないか。あたしは、ミサキの避難所になってやらないと」
ジフジ様の言葉にカイダル様がぽかんと口を開けた。多分、僕も同じ顔をしてるだろうな。
「あんたは、陛下の慰め役。いいね?」
魔王様に慰め役が必要なのは決定なのか。
僕がカイダル様と一緒にジフジ様に振り回されていた頃。
お妃様の私室ではまさしく、ジフジ様が言っておられたようなことが行われていたようだ。
その場面を僕が見ることは決してなかったが、翌朝になって私室に呼ばれた時には、お妃様は真っ赤な顔でぐったりとソファにもたれておいでだった。
荒い息を繰り返すお妃様は、これまで見たどんな表情よりも色香が漂っていて、無性のはずの僕でさえ、ドキリと胸が高鳴るような気がした。
とろりと潤んだ黒い瞳も、汗で乱れて額に貼りつく黒髪も、朱が差す上気した頬も、魔王様が他の男には決して見せないと決意させるに十分だった。異性にはあたらない僕にだけ許された、これ以上ないほど美しいお妃様の姿だった。
ジフジ様がお妃様の汗を拭き、乱れた衣服を整えてから、カイダル様を室内へ入れることがようやく許可された。そうして、私室に集まった僕たちに、魔王様が告げたのだった。
「ユーティリアを見つけた。だが、随分弱っている。消滅寸前だ」
思わずお妃様に視線を向けたけど、とてもそれどころじゃなさそうだった。




