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魔王様のお嫁様  作者: 紫月 京


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23/42

23.二人きりの部屋に


天馬のような速さで、魔王様が階段を駆け上がっていく。

鬼気迫るその表情に、廊下を歩いていた文官たちが目を丸くしている。

飛ぶように走る魔王様の後を、同じような速さでカイダル様も追いかけて行った。

禁書庫の扉を施錠した僕も、頑張って後を追うけど追いつけないな。

途中ですれ違ったカフカに、執務室への伝言を頼んだ。魔王様とカイダル様のあのご様子では、執務どころではない。魔王様の決裁印が必要な書類以外を、文官たちに処理してもらおう。


最上階にたどり着いて、最奥のお妃様の私室を目指す。

あぁ、魔王様の背中が遠い。

開け放たれた扉の傍で、護衛官が直立不動の体勢をとっていた。

ようやく私室の前まで着いた僕は、室内をチラリと覗き込んで、護衛官にこの場を離れるように伝える。

「ですが……」

「室内には、魔王陛下、カイダル様、ジフジ様がおられます。どんな襲撃があろうと、これ以上安全な場所はありませんから、貴方がたは今のうちに補給を。朝からずっと詰めておられるでしょう?」

本来護衛官は交代制なんだけど、お妃様の傍に侍る相手を魔王様が厳選しているからな。休憩は、できる時に取っておいてもらわないと。

一度室内に目を向けた後、護衛官が一礼して階下へ降りて行った。


私室の中央のソファで、お妃様はジフジ様と談笑されていたようだ。朝の掃除は終えられたのか。

壁際に控えるメイドたちも部屋から出して、扉をしっかりと閉める。

防音魔法をかけて、ようやく主君たちの会話を聞き取れる距離まで近づけた。

「怖い顔して、どうしたの?」

黒々と煌めく瞳を丸くして、お妃様が魔王様に尋ねる。

「……ミサキ、触れるぞ」

「えっ?」

お妃様の隣をジフジ様から奪い取って、魔王様が腰を下ろした。

ソファから追いやられたジフジ様が、苦笑してカイダル様の隣に立つ。

「何事だ?今日は、禁書庫にいるんじゃなかったのか?」

「調べてたんだが、気になることが出てきてな」

「気になること?」

首を傾げるジフジ様に、カイダル様が禁書庫でのことを小声で話す。このお二人の間には、隠し事とかないんだろうな。

「……ユーティリア様の魂?」

「入れ替わりと聞いて、てっきり妃殿下の元の世界に飛んだと思ってたんだが」

カイダル様の言葉に、お妃様の悲鳴が重なった。

「ユーティリアちゃんが、ここにいるのっ!?」

ソファを見ると、お妃様が自分の胸に両手を当てていた。体が震えているように見える。顔色も真っ青だ。

宥めるように、魔王様がその肩に手を置いている。

「はっきりとはわからん。だから、お前の体に触れて、お前の内側を探りたい」

「内側って……えっ、どうやって」

「お前には魔力は感じられないだろう。だから、俺が魔力を流してお前の中を探る」

その言葉を聞いて、ジフジ様がカイダル様と僕に目配せした。

「あんたたちも、部屋から出な」

「どういうことだ?」

「あぁ、カイダルもあれは不得手だったね。陛下が今からやろうとしていることの邪魔に、あたしたちはなるから、この部屋を出るんだ」

魔王様が今からやろうとしていること?

首を傾げた僕に、ソファから低い声が掛かった。

「リカル、しばらくこの部屋には誰も近づけるな。カイダルたちも、出て行ってくれ」

「えっ、ジフジちゃんも?」

途端に不安そうな声を漏らすお妃様に、ジフジ様が優しい声を掛ける。

「心配することはないさ、ミサキ。陛下に、すべて任せておきな」

軽く片目をつぶってみせたジフジ様に促されて、カイダル様とともに私室から廊下へと出た。


私室の扉を音が立たないように閉めると、ジフジ様がふっと小さく笑った。

「防音魔法はかけてあるね?そのまま、二人が出て来るまで維持しとくれ。ついでに、扉に隠蔽魔法もかけておくといい」

そう言われて、僕は扉に手を当てて自分の魔力を流した。誰からも見つからないように、隠蔽魔法も施す。

「それで、シュヴァンダルは一体何をしようって言うんだ?」

カイダル様の疑問に、ジフジ様は悪戯っぽく笑った。

「本当なら、体を繋げるのが一番効率がいいけど、今の二人には無理だろうねぇ」

「それって……」

「まぁ、だから。唇を重ねるのが精一杯じゃないかい」

肩を竦めて、ジフジ様が食堂の奥の談話室へと歩きだした。

えっ、それって……魔王様とお妃様が、そういうこと?



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