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魔王様のお嫁様  作者: 紫月 京


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21/44

21.禁書庫にて


広大な魔王城の地下に、セレスリーアの知識が詰まった書庫がある。

歴史、政治経済、高価な魔術書に、娯楽本。様々な書物を収めたその最奥は、魔王様と魔王様に許可された者しか立ち入れない禁書庫だ。

カイダル様を伴って足を踏み入れた魔王様は、まずは椅子に座って、はあーっと息を吐き出しながら机に突っ伏した。

「何だ?どうした?」

本棚を眺めていたカイダル様が、目を丸くして尋ねた。

「……ただの寝不足だ」

珍しい言葉を口にされる魔王様に僕も驚いた。そう言えば、今朝は何だかぼんやりとお妃様を眺めながら朝食をとられていたな。

「昨夜、何かあったか?」

多分、笑いそうになるのを堪えているんだろうな、カイダル様。口の端がピクピクしている。

「何もない!」

ガバリと立ち上がって、また力をなくしたように椅子に座り込む魔王様は、魔族に怖れられている最強の王にはとても見えない。

「まぁ、いい。お前の小さな悩みは後回しだ。文献を、古い順に見ていかんとな」

「小さな悩みって、お前なぁ」

「実際、こちらが重要だろ?魂の入れ替わりと世界の渡り方。そんな文献、どこにあった?」

普段あまり書物を読まないカイダル様は、首をひねりながら本棚の背表紙を睨みつけている。

諦めたように立ち上がって、魔王様が埋め尽くされた本の中から一冊を取り出した。

「これだ」

真っ黒な背表紙のその本は、禁書庫の中でも特別な書物なのか、金色の帯で封がされていた。

「『並行世界の歩き方』……これ、物語本じゃないのか」

「そう見せかけた題と内容なんだが、魔力を込めて読み解けば、違った真実が見えてくる」

「魔法師が書いた本か」

頷かれる魔王様の後ろから、僕もそっとその手元を覗き込んでみた。

かつてこのお城にいた大魔法師が書いたという、古の文献だった。


魔族が暮らすこのセレスリーアには、文武魔それぞれに秀でた者がいる。

知識欲が豊富で、頭の回転も早く、大半の者は魔王城で文官を目指している文の者。

体が頑強で、幼い頃から鍛え上げて戦いに赴く武の者。

そして、高い魔力を誇る魔族の中でも圧倒的に強大な魔力を持ち、魔法に長ける魔の者。

もちろん、文武魔すべてに秀でている者も存在する。魔王様がそのお一人だ。

魔の者は魔力を鍛え、魔法を扱い、魔法師という職を目指す者が多い。その中で、もっとも高い魔力と強い魔法を扱え、魔王様のお傍近くに仕えることを許された者が、大魔法師としてお城に滞在することができる。

現在セレスリーアに大魔法師はいない。先代の魔王様の時代から仕えていた大魔法師は、今の魔王様に代替わりして百年くらい経った頃に、老衰で亡くなった。一千年を超えて生きたその人は、生涯の中で膨大な書物を残したと言われている。けれど、『己の力で見つけてこそ、糧となる』という信念のもと、簡単には見つけられないように魔法が施されているらしい。

魔法師を目指す者にとって、大魔法師の書かれた魔術書は、どれだけ大金を積んでも欲しい貴重な書物と言われている。


そんな大魔法師が遺した、古の文献。

「大魔法師ぃ?そんな珍しい本が、この城にあったんだな」

素っ頓狂な声を上げて、カイダル様が魔王様の手にある書物を見つめていた。

「昔な、父上の目を盗んでここに忍び込んだ時に、見つけた」

「おま……よくそんな恐ろしいことを」

先代様はそれはそれは恐ろしい方だったと聞くからな。

「バレなければ構うまい。まぁ、すぐに見つかって、特大の雷を落とされたがな。あの時は、さすがに死んだと思った」

「だろうなぁ」

遠い目をしているカイダル様を横目に、魔王様が金の帯に手を翳した。

シュルリ、と帯の封が外れる。

「そんなに簡単に解けるものか?」

「これは、すでに俺は読んだことがあるからな。初めは苦労した。魔力を流すだけでは開かず、力ずくでは弾かれる。さすが、大魔法師の魔術書だ」

目を覆うほどの眩い光が本から禁書庫中に広がって、思わず目を閉じた。

静寂に気づいて目を開けると、カイダル様が藍色の瞳を丸くしていた。

「凄っげぇ魔力だな。灼き尽くされるかと思った」

「大魔法師は、父上に次ぐ魔力の高さだったと言われているからな」

ふうと息を吐いて、魔王様が黒い表紙を開いた。



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