17.夕食会から飲み会へ
本日の夕食は、魔王様ご夫婦とカイダル様ご夫婦の四人での会食と決まった。
でも、お妃様が最上階から降りることを、魔王様はまだお許しにならない。有翼族の傲慢娘がちょっかいをかけてくる報告は、魔王様にも上がっている。今のところ実害がないから、いやお妃様が軽くあしらっているから、放置されている。それでも、他の高位魔族に見られることを、まだ心配されておいでなのだろう。
だから、魔王様ご夫婦のための食堂で、四人は夕食をとられることになった。
何故かジフジ様のエスコートで食堂に現れたお妃様は、湯上がりの上気した頬に潤んだ瞳をしていて、しっとりとした肌がナイトドレスの隙間から覗いてそれはお美しい。
椅子を引くことも忘れて見惚れておられる魔王様に、後ろから咳払いして促した。
「陛下、妃殿下をお席へ」
ハッとしたように反応して、魔王様が大股で入口へ歩み寄った。ジフジ様の手から、お妃様の手をそっと受け取る。
クスッと笑って、ジフジ様はカイダル様の手を取ってご自分の席へとつかれた。
静かに食事が運ばれてくる。
魔王様の好物の雉肉の丸焼き、香草を詰めて焼いた鶏の塩漬け肉、セレスリーア産の野菜をたっぷり使ったスープ、お妃様がお好きだと仰せだったチーズのリゾットに、胡桃を混ぜて焼いたパン。
デザートは三種類用意してあるけど、お妃様のお腹はそれまでにいっぱいになるかもしれない。
食前酒に青リンゴの果実酒を出して、夕食の時間が始まった。
しばらくの間、食器が当たる音だけが微かに響く。魔族は礼儀作法にうるさい方ではないけど、人族は食事の間会話を楽しむ習慣がないと聞いたことがある。今のお妃様には当てはまらないだろうけど、静寂の中での食事を四人とも楽しんでおられるようだ。
ふぅ、とお妃様が小さく息を漏らした。ピクリと眉を上げて、魔王様が隣の席のお妃様に視線を向ける。
「どうした?」
「こんなにたくさん。とても美味しいけど、もうお腹がいっぱいだわ」
「もう?妃殿下は、小鳥のように少食だな」
ジフジ様の遠慮のない感想に、お妃様が少女のように頬を染めている。
「ふふっ、これでも随分、食べられるようになったのだけど、魔族の皆さんのようにたくさんは食べられないわ」
今は給仕の者たちがいる。お二人とも対外的な話し方を心がけている。
カチャリ、とフォークを置いて、お妃様が果実水をゆっくりと飲む姿を魔王様がじっと見つめている。
その魔王様を、カイダル様とジフジ様が微笑ましそうに見ていることには、気づいていない。
「ふぅ、美味しかった。ありがとう」
お妃様に礼の言葉を掛けられて、給仕の者が目を丸くした。
頬を染めて頭を下げた後、給仕は食堂から下がって行った。
お妃様が満腹になられた後、その四倍ほどの料理を三人で平らげて、四人は食堂から隣の談話室へと移った。それほど広くない部屋の中央のソファに魔王様とお妃様が並んで座り、向かいの一人掛けのソファにカイダル様とジフジ様がそれぞれ腰を下ろす。
ブランデーを魔王様、カイダル様、ジフジ様のグラスに注ぎ、お妃様へは果実水を渡そうとした。
「あら、あたしにはお酒はくれないの?」
くだけた口調に戻ったお妃様の言葉に固まる。恐る恐る、魔王様を窺った。
「ミサキはダメだ。酔うだろう」
僕の持つボトルに伸ばそうとしていたお妃様の手を、魔王様が優しく掴まえた。
「あら、大丈夫よ。あたしだけ仲間はずれなんて、寂しいじゃない?」
「そうだぞ。ミサキだって、あたしたちと同じものを飲めばいい」
何か言いたそうな顔で、カイダル様が魔王様とご自分のお嫁様を交互に見ている。
「あー……ジフジ、その、妃殿下は酒にその、強くないそうだぞ」
物凄く言葉を選んでるな。目を丸くしたジフジ様が、魔王様とお妃様を順に見た。
「そうなのか?」
「そんなことないわよ。あたしだって、いい大人なんですからね」
小さく胸をそらして、お妃様が笑う。
「とにかく、今夜はダメだ。果実水だって、美味いと言って飲んでただろう?」
お妃様用のグラスをその細い手に握らせて、魔王様が諭すように言った。
納得していなさそうだったが、とりあえず頷いたお妃様は、カイダル様とジフジ様ににっこり笑いかけた。
「仕方ないわね。じゃあ、乾杯!」
乾杯、と四人のグラスが合わさった。




