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魔王様のお嫁様  作者: 紫月 京


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15/42

15.ジフジ様の豪快なアドバイス


魔王城の最上階にある、お妃様の私室のソファで二人の女性がお茶会を楽しんでいる。

かたや魔王様の王妃となるべく人族の国からやって来たか弱そうな少女。

かたや魔族の中でも一、二を争う腕力の持ち主である筋骨隆々な女戦士。

決して交わりそうにないお二人が、まるで長い付き合いの親友のように談笑していた。

「それで、ミサキ。陛下との蜜月はまだなのかい?」

むせそうになったのを何とか堪えて、お妃様の反応を見る。

目を丸くしたお妃様は、しばらく沈黙した後で恥ずかしそうに頬を染めた。

「やだ、ジフジちゃん。あの人とは、そんなんじゃないわよ。わかってるでしょ?」

セレスリーア広しと言えども、ジフジ様を「ジフジちゃん」などと呼べるのはお妃様くらいのものだ。初めて聞いた時、カフカなんて手にした食器を盛大に床にぶち撒けていた。

部屋の中には、お茶を楽しむお二人と僕しかいない。人目のない場所では、お互いにジフジちゃん、ミサキと呼び合って楽しそうにしていた。その中に入れられたカフカは、なんで俺が……と青くなって震えてたけど。

「そうは言ってもなあ。あんたは王妃としてここにいて、夫婦の寝室で寝てるんだろう?」

「だって、それはあたしじゃないでしょ?そりゃあ、寝室を使うのは悪いと思ってるし、ソファででもどこでも寝るって言ったのに、あの人もリカちゃんもダメだって」

それはそうだろう。いくら中身が違うと言ったって、お妃様をソファや、ましてや床でだなんて寝かせられない。

呆れたようにジフジ様もため息を吐いた。

「それとさ。気になってたんだけど……」

「なぁに?」

「ミサキは、いつまで陛下のことを『あの人』だなんて他人行儀に呼ぶんだい?」

「えっ……」

カップの紅茶を一息に飲み干したジフジ様が、こちらに向けて空のカップを差し出した。

ティーポットから、温かい紅茶を注ぐ。

香りを楽しんでから一口飲んだジフジ様が、カップをソーサーに戻してお妃様をじっと見つめた。

「あ、あたしは、その……いつまでここにいられるかわからないのよ?」

「それが、陛下の名前を呼ばない理由になるかい?」

ジフジ様の口調は、とても優しかった。お妃様を責めているわけでも、命令しているわけでもない。純粋に、友人を心配しているようなその声に、お妃様は困ったように眉を下げた。

「よくしてもらってる。変なことばっかり言うあたしに、優しくしてくれるし、ここに置いてもらってるわ。それ以上なんて、望めない……」

「あんたの望みって?」

ジフジ様のこんなに優しい声を、僕は聞いたことがなかった。同性の、大切に思う友人にはこんな言葉を掛けられるのか。カイダル様と一緒にいる時も、いつも強い彼女しか見たことがなかったから、とても新鮮だった。

泣きそうな微笑みを浮かべて、お妃様が口を開いた。

「ここは、本当ならユーティリアちゃんの居場所だもの。あたしが、我が物顔でいていい場所じゃ……」

「ミサキ」

お妃様の言葉を遮って、ジフジ様がそっと小さな手を握る。

「そんなこと、陛下が言ったかい?」

「……」

「あんたは、ユーティリア様の代わりだって?それとも、ここにいるはずなのはユーティリア様だから、お前は大人しくしとけとでも、言ったかい?」

小さく、ゆっくりとお妃様が首を横に振った。

「あの人は、優しいもの。そんなこと言わないわよ」

「そんなこと言ったんだったら、あたしがぶっ飛ばしてやるよ」

物騒な言葉に、お妃様の黒い瞳が見開かれた。涙の溜まったその瞳の美しさに、傍で控えているだけの僕でも吸い込まれそうになる。

「ミサキ。今この城にいて、陛下と過ごしているのはあんたなんだ。触れ合いたいと思ったなら、そうすればいいんだ」

「そんな、こと……」

「嫌だったなら、嫌われているなら、あんたはとっくに追い出されてる。優しいとあんたは言うけどね。陛下は冷酷で冷徹で、魔族の皆から震え上がるほど怖れられているお人なんだよ」

重ねられた手に励まされたのか、少しずつ、お妃様が表情を明るくした。

いつものように笑っていただけないと、僕まで不安になる。

くすっと声を漏らして、お妃様がジフジ様を真っ直ぐに見つめた。

「ジフジちゃんったら、強引ね」

「あんたたちを見てると焦れったいんだよ。あたしは魔族だからね。欲しいと思ったモノは全力で手に入れる。力だって富だって、男だって」

ジフジ様の言葉にお妃様が首を傾げた。

「あの人だって、魔族でしょう?それなら、あたしのこと、欲しいだなんて思ってないのじゃない?」

「初恋ってのは、慎重になるもんさ。しかも、あんたは人族だ。欲望のままに襲いかかって壊すんじゃないかって、冷や冷やしてるんだろ。ああ見えて純情だね」

ふふんと笑って、ジフジ様は綺麗に片目をつぶってみせた。



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