14.お妃様とジフジ様の出会い
「いえ、あのっ、わたくしたちは……」
「妃殿下にお城のことを教えて差し上げようとっ!」
「そそそそうですわっ!」
「そうかい。そんなことはあたしが教えるから、あんたたちに用はないよ。さっさと帰んな」
「しっしっ」と手を振られ、蒼白な顔をした三人娘がもごもごと口の中で何か言い訳しながら走り下りて行った。
小さく息を吐き、ジフジ様に深く頭を下げる。
「ありがとうございました」
「あんたに礼を言われるようなことはしてないさ」
ニヤリと笑って、ジフジ様がお妃様に目を向けた。
「今日も掃除かい?精が出るねえ」
「ふふっ、潔癖ではないんだけどね。やっぱり清潔な方がいいじゃない」
埃で汚れないようにと頭に被っていた布を外し、お妃様がにっこり笑った。
「お茶飲んで行く?」
「いただくよ。あんたが淹れてくれるのは美味しいからねえ」
お妃様から箒を受け取って、厨房へとお湯を取りに走った。ジフジ様がいらっしゃるなら、少しお妃様のお傍を離れても平気だろう。
お妃様がお酒を飲まれた翌々日、いつまで経っても紹介してもらえないジフジ様が、魔王様の執務室に突入なさった。側近であるカイダル様のお嫁様である自分に、何故お妃様を紹介しないんだと、傍で見ていた文官たちが青くなるほどの剣幕だったという。
僕はお妃様が掃除をされるための服の用意をしていたから、その場面は見られなかった。惜しいことをしたかな。
ひどく渋い顔をした魔王様が、ついでだからとカイダル様も伴って、ジフジ様を最上階に連れて来た。
ようやく使ってもらえるようになった私室の、清掃と模様替えの真っ最中だったお妃様は、部屋の入口に現れたジフジ様を見て固まった。ジフジ様も固まった。
雷に打たれたように動きを止め、たっぷりと無言で見つめ合った後で、それはそれは嬉しそうな叫び声を上げた。
「いやだ、格好いい!背が高くて、引き締まった体で、素敵だわぁ」
「何て小さくて愛らしいんだ!それにその髪と瞳。美しくて愛しくてたまらないな!」
そうして、僕たちが止める暇もなく、お二人はしっかりと抱きしめあった。なんで。
ジフジ様が腕力にものを言わせて抱きしめてしまっては、お妃様が潰れてしまう。慌てて引き離そうと、魔王様とカイダル様が飛び出した。
そんな男たちを睨みつけ、ジフジ様が鼻を鳴らす。
「何だい、嫉妬かい?カイダル、あたしにはあんたという伴侶が最愛なんだから、他の女を抱きしめたくらいでそう慌てるんじゃないよ」
「あらあら、もしかして貴方の旦那様なの?素敵じゃない」
ジフジ様の腕の中でクスクスと笑うお妃様の言葉に、魔王様が固まった。他の男性を褒めたからかな。
名残惜しそうに腕を離したジフジ様は、何故かお妃様と並んでソファに座った。
カイダル様と同じくらいの身長で、引き締まっているというよりは鍛え過ぎてムキムキの体つき。長く伸ばした癖のある朱色の髪を頭の後ろの高い位置で一つに結び、銀灰色の瞳を煌めかせている。
額にはマーコールのねじれた角が生えており、お妃様が不思議そうに見つめるのを楽しそうに眺めていた。
「これ、本物の角?触ったら痛いかしら?」
「触ってくれるのかい?人族ってのは、魔族の角を嫌悪するもんだと思ってたよ」
困ったように眉を下げて、お妃様がようやく魔王様を見た。
「構わん。この二人には、いずれ話すつもりだったからな」
視線だけで察してくれた魔王様を嬉しそうに見つめた後、お妃様はジフジ様に向き直った。
「あたし、今はユーティリアとしてここにいるけど、本当の名前は美咲というの。貴方には、そう呼んでほしいと思うわ」
「ミサキ……?どういうことだい?」
首を傾げ、魔王様とカイダル様を交互に見るジフジ様。けど、カイダル様も初耳だったから、目を丸くしていた。
魔王様は、側近であるカイダル様とジフジ様のことを信頼している。今のお妃様に起こっている不思議な現象を、人払いをし防音魔法をかけた部屋で最初から説明した。
これからどうなるかわからないけど、お妃様の味方は一人でも多い方がいい。
下を向きそうになるお妃様だったけど、励まされるようにジフジ様に背中を撫でられて、しっかりと顔を上げて魔王様を見つめていた。




