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魔王様のお嫁様  作者: 紫月 京


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11/49

11.オカンって何


昼食を運ぶカフカを伴って、寝室の扉を開けた。パタンと閉じたくなった。

見慣れた魔王様の寝室の扉。横には二人の護衛官が立っている。待って、ここで合ってるよね?

首をひねって、恐る恐る室内を覗き込む。

壁際に、メイドたちが整列させられていた。その前で、手を腰に当てて仁王立ちしているお妃様。何をしているんだろう。

「だからね、こんなヒラヒラの格好じゃあ、お掃除もできないしお料理もできないでしょ?」

壁にめり込みそうになった。何を言われているんだ。

「メイド服は可愛いとは思うけど、あたしには似合わないじゃない。もっと、動きやすい服はないの?」

「しっ、失礼致します!お食事をお持ち致しました!」

思わず割って入った。お妃様のお言葉を遮る不敬とか、考えていられない。

くるりと振り返ったお妃様は、僕の姿を認めてにっこりと笑った。あ、可愛い。

「リカちゃん。来てくれてよかったわ。ね、この人たちに言ってくれない?あたし、もっと動きやすい格好がいいのよ」

困惑しているメイドたちを、目線で室内から下がらせた。

お妃様をソファに促し、その前で膝をつく。これは、しっかり目を見て話さないとダメな気がする。

「妃殿下、動きやすい格好とはどのようなものでございましょう?何のために、必要とされます?」

きょとんとして、お妃様はクスクス笑いだした。

「そりゃあ、お掃除とかお料理とか、お洗濯とかよね。こんなヒラヒラフリフリした服じゃあ、動きにくいじゃない」

痛む頭を押さえ、きりっとお妃様を見据える。

「それは、使用人の仕事でございます」

あぁ、扉のすぐ外でカフカが目を丸くしているなぁ。何て説明しよう……。

「そうね。ここはきっと大きなお城とかなんでしょう?だから、他に働く人がいるのはわかっているのよ。でも、あたしはその……妃殿下じゃないし……」

最後は聞こえないような小声だったけれど、目の前に跪いた僕には聞こえた。

「それに、家事をしていると、落ち着くのよねぇ。やっぱりオカンは、家の中のことをしてナンボだと思うのよ」

待って、オカンて何。

お妃様の言葉は、時々意味がわからない。

「妃殿下が落ち着かれると仰せでしたら、魔王陛下に許可を取ってみてもよろしいとは思いますが」

「やだ、あの人の許可がいるの?そうよね。王様なんだものね」

うんうんと頷いた後で、何かに気づいたように目を見開いた。

「妃殿下?」

「えっ、魔王って言った?あの人、魔王なの?」

え、そこで引っ掛かるのか?今までも、魔王陛下ってお呼びしてたと思うんだけどな。

「はい、魔族の暮らす国、セレスリーアの魔王陛下です」

「あぁ、そんなこと言ってたわね。えっ、じゃあ魔法とかも使えるの?」

途端に目をキラキラさせ始めたお妃様に、首を傾げて答える。

「そうですね。魔力の強さによって違いますが、魔族は総じて魔力が高いので、大抵の者は魔法が使えますが」

「凄いわ!魔法なんて、あたし見たことない」

魔法を、見たことがない?確かに人族には使えない者も多いと聞くけど、そんなに珍しいものでもない。

「リカちゃんも使えるのね?」

見せてほしいとその表情が雄弁に語っていて、しばらく迷った後で、右手の平を上に向けた。

魔力を少し込め、ポッと小さな炎を出してみせた。

「いかがですか?」

これ以上ないくらいに丸くなった瞳は、美しく黒々と艶めいていた。

「凄い!綺麗!素敵ねぇ」

ほうっと漏らされた吐息が、本当に感嘆しているようで、人族への嫌悪感が少しだけ薄まった。

不思議なお方だな。魔王様も、これからこの方に振り回されるのだろうか。

「ご納得されましたか?では、昼食をお持ち致しましたので冷めない内にお席へどうぞ」

ソファから立ち上がるように告げて、扉の外のカフカに目配せした。

盆の乗ったワゴンが運び入れられる。

「お昼は、魔王陛下は執務がございますので、申し訳ございませんが妃殿下お一人でのお食事となります」

僕の引いた椅子に腰を下ろしながら、お妃様が頷かれる。

「そう、あの人……来ないのね」

何だか寂しそうに聞こえるのは、主君夫婦に蜜月を迎えてほしい僕の願望かな。



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